アメリカに生き続ける「パール・ハーバー」 ――「絶対零度」かもしれません――
アメリカに生き続ける「パール・ハーバー」
――「絶対零度」かもしれません――
ここ数日は、アメリカ人のパール・ハーバー観について、1986年に上梓した『真珠と桜』(「ヒロシマ」から見たアメリカの心)での解説を整理してお伝えしています。今回は1959年から1960年の私自身の経験から始めていますが、1980年代、教職に就いていた時もパターンは似たり寄ったりです。
高校時代には、地域の慈善団体等で話をすることもありました。例えば、キワネス・クラブです。
キワネス・クラブの昼食会にスピーカーとして招かれたのも同じ頃だった。30分ほど日本についての話、特に日本の高校生についての一般的な話をしたが、その後、質問が安保問題に集中した。日本についての記事はあまり載らないアメリカの新聞に丁度その頃、安保闘争が紹介され始めていたからだ。安保問題そのものより、アメリカに対して普通の日本人がどんな感情を持っているのかを一所懸命説明したつもりだが、とれ程の説得力があったのかは疑問である。そしてここでもパール・ハーバーが出てきた。
「第二次大戦後、アメリカはパール・ハーバーさえ許し、日本に民主主義を導入し、その上、アメリカの兵隊を送って日本を守ってあげようと言っているのに、どこが不服なんだ。感謝されこそすれ、反対される理由が全く分らない」というものだった。
再びここでも議論が打切られたのは、「17歳の少年一人を、大人が10余人寄ってたかって吊し上げるのはフェアでない」というサマーズ氏の言葉があったからだ。
実は、アメリカ人の心の中でパール・ハーバーがどのような位置付けにあるのかを考える上で、一番ピッタリしているのは次の比喩ではないかと思います。60年間にアメリカそしてアメリカ人の意識も変ってきているとは思いますが、今回のゼリンスキー大統領演説に使われ、それが効果のあることを見るにつけ、人の心を変えるためにはいかに長い時間が掛るのかを改めて感じています。
Wikiwandから
https://www.wikiwand.com/ja/%E7%B5%B6%E5%AF%BE%E9%9B%B6%E5%BA%A6
その後の印象をも含めて考えると「パール・ハーバー」は「原爆と比べられる」ような生易しいものではなく、他のすべての善悪を測る物差しに目盛られた最悪点だと言った方が正確だろう。絶対零度とは、これ以下の温度はない最低点だが、パール・ハーバーは、多くのアメリカ人にとって他国(あるいは他人) が自国(または自分) に対して取り得る絶対零度とでも言えそうだ。
それを骨の髄まで感じたのが、1980年11月に起った駐イラン・アメリカ大使館での人質事件だった。
病気療養のためアメリカに来たいという。パーレビ前国王の願いを、アメリカは「人道的見地」から聞き入れた。その報復措置としてイランは、アメリカの象徴である大使館員を人質に取るという卑劣、かつ非人道的、国際法違反の行為を取った。 こうした解釈に基いて、「真珠湾以来の国難」「第二次大戦中の日本人(正確に述べれば日系アメリカ人) と同様、 アメリカにいるイラン人(イラン系アメリカ人も含む) はすべて強制収容所にぶち込んでしまえ」はたまた「ニューク・ジ・アヤトーラ (ホメイニに原爆を使え)」といった声がアメリカ中に起ったのである。
イラン人資産の凍結が行われ、南部の大学ではイラン人だというだけの理由で停学処分を受けた学生もいる。さすがに、日系アメリカ人ほどひどい仕打ちはされなかったが、この人質事件を通して再び、象徴として、また物事の判断を下すための物差しとしてのパール・ハーバーがより深く根を下したと言ってよいだろう。
(中略)
その当時、日本からタフツ大学に留学していた十九歳の女子学生と、 このことについて話し合ったことがある。
「私にも経験がある。友達に、彼の友達――同じ年くらいの男の子ーーを紹介されたんだけれど、別れ際、・バス停でバスに乗る直前『お前たちなんであんなことやったんだ』 って言うの。何のことかと思っていたら パール・ハーバーのことを言ってたらしいの。 『リメンバー・パール・ハーバー』って言ってバスに乗ってった。「ウッソー っていう感じだけど」
だから・イランの人質事件の反応も、ああまたかと思ったというのである。
この項はまだ続きます。何故、アメリカ人の「パール・ハーバー」観が、変らないのかについても考察します。
[2022/3/22 イライザ]
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