岸田総理の平和公園訪問 ――アメリカのエマニュエル大使とともに――
岸田総理の平和公園訪問
――アメリカのエマニュエル大使とともに――
この項を書いているのは3月25日ですが、26日の土曜日に、岸田総理大臣がアメリカのエマニュエル駐日大使とともに平和公園を訪れることが発表されました。原爆資料館を視察し慰霊碑に献花するとのことです。岸田総理個人では、これまで核兵器の悲惨さを訴えるために活動してきた人たちと車座での対話を行うとのことです。
夜の慰霊碑
複数のマスコミ報道によると、松野官房長官は次のように述べています。「被爆の実相に対する理解の重要性を内外に発信するとともに、核兵器のない世界に向けた機運をいっそう醸成することが期待される。また、ウクライナ情勢をはじめとする国際情勢のほか、幅広い分野での日米関係の強化について意見交換を行う」
プーチン・ロシア大統領による核脅迫の深刻度を考えると、ガルージン駐日ロシア大使とともに平和公園を訪れて、被爆の実相をプーチン大統領に伝えて貰う方が現時点での緊急性は高いようにも思えます。
とは言え、どこかから始めなくてはなりません。アメリカの次はロシアという順序で、またその他の核保有国の駐日大使を総理大臣が次々と資料館に案内し、被爆者の体験を聞いて貰う機会を作ってくれることに期待したいと思います。
エマニュエル大使が被爆者から直接体験を聞くことになっているのかどうかは分りませんが、核兵器の残酷さや非人間性についての理解を深めるためには一番大切なことなのですから、26日の日程には欠かせません。
岸田総理の平和公園訪問は、唐突にも感じたのですが、先週から調整が行われていたとの報道もあります。そしてChange.orgの署名運動に賛同して下さった方が54,624人になった3月12日に、署名運動の趣旨をまとめた手紙を岸田総理に送りましたので、タイミングとしては、その手紙に応えてくれたようにも感じられます。直接の因果関係がないとしても、総理大臣は署名運動に賛同して下さった皆さんと同じ波長で考えていることになります。だとすると、プーチン大統領説得のためのモスクワ行きの可能性も高くなってきているのかもしれません。
参考までに、3月12日付の岸田総理大臣宛の手紙のコピーを以下、貼り付けます。
**************************************
内閣総理大臣 岸田文雄殿
「核を使わない」と、ロシアに宣言させるために行動して下さい
2022年3月12日
前広島市長・秋葉忠利
54,624人のChange.org署名キャンペーン賛同者一同
拝啓
総理大臣御就任おめでとうございます。また、国民のために日夜激務をこなしておられることに感謝しています。
本日はウクライナ危機に関連して、ロシアのプーチン大統領による「核脅迫」を「核使用」にしないようできる限りの活動をしかつ祈っている被爆者や市民たちのために、貴職の役割が必要不可欠であることから、お願いの筆を執っております。
2月24日と27日に、プーチン大統領が核兵器を使うぞとの威嚇 (「脅迫」の方がより正確です) を行い、あまりの無謀さで世界を震撼させました。特に、広島・長崎の被爆者たちにとっては、到底許せる発言ではなく、何とか核の使用を阻止させなくてはならないと全力の活動を続けています。
貴職御存じの通り、核を使用するという脅しをかけることは、明確に国際法違反です。1996年の国際司法裁判所の勧告的意見、国際法として効力を持つ核兵器禁止条約は核による脅迫を禁止しています。
さらには1月3日の、「核戦争を防ぎ軍拡競争を避けることについての核保有5か国首脳による共同声明」では、わざわざ「5か国は、それぞれの国の保有する核兵器が相手国に対して、また他のどの国に対しても向けられていないことを再確認した」とまで言っているのですから、5か国首脳の一人であるプーチン大統領ならびにロシアは自らの言葉を守らなくてはなりません。
中国は、核を保有して以来「核兵器の先制不使用」を宣言していますので、少し立場は違いますが、それでもこれらの国々は、ロシアに対して「国際法違反」であるとか「共同声明違反」であるとの批判はしていません。それは、どの核保有国も核抑止論に基づく核の使用や核による脅迫を前提にした対外政策を取り続けてきたからです。
その典型例が、2016年のイギリス議会における当時のメイ首相の発言です。「10万人の罪のない男女や子どもの命を奪う核兵器の使用を許可する覚悟があるのか」と質問された際、メイ首相は、躊躇することもなく「Yes」と言った後で、「核抑止で重要なのは、敵に我々が核を使用する用意があると知らしめることだ」と述べています。(ニューズウィーク日本語版電子版2016年7月21日)
この発言に対しても核保有国は批判をしていないのです。
メイ首相の躊躇なき「Yes」やプーチン大統領の核脅迫の背景にあるのは、彼ら・彼女らは、実際にその言葉通りの結果が生じたとき、被害に遭う人間一人一人、そしてその一人一人を愛する家族や友人たちの痛みを感じていないことなのです。
それだけではなく我が国の中でも広島・長崎に来たことのない人たちは、ごく少数の例外を除いて、核兵器がどのような「生き地獄」を人類にもたらすのかについての認識が薄いのです。
外国からの訪問者の多くは、例えば「広島を見るまでは被爆の酷さを知らなかった。広島訪問が自分の人生を変えた」と広島訪問の意味を伝えてくれています。
しかし、プーチン大統領が、核のボタンを押すかどうかを決める前に広島に来ることは現実にはないかもしれません。となると、次善の策ではありますが、こちらから出かけて、被爆の実相を伝える必要があります。その責任を果す上で、原爆ドームのある広島一区選出の総理大臣である貴職には、他の誰にもない説得力があります。
被爆者の証言や被爆者の描いた絵、被爆直後に撮影された写真、治療を受ける被爆者の動画、破壊された町に残された多くの遺物や遺構等々、多くの資料も活用できます。
そして、77年前の1945年と今とには大きな違いのあることを認識して貰わなくてはなりません。広島や長崎の被爆直後の有様は、即時に世界に届いたのではないからです。日本国内でも被爆後7年、日本が独立した1952年になって初めて原爆についての情報が公開されたのです。
でも今はインターネットがあり、ドローンがあります。核戦争後の惨状は、今なら瞬時に、リアル・タイムで世界に伝わります。
高画質のカメラ搭載のドローンはインターネットを通じて、放射線量の高い悲惨な場所から、悶え苦しみ死に至る「生き地獄」の様子を、世界中の数十億の人たちに伝えることになります。数万人から数十万人もの被爆者たちの映像と音声が長時間にわたって流され続け、私たちはそれを精細な大画面で見続けることになります。
その結果、世界の大多数の人たちから、核兵器の即時撤廃の声が上がるはずです。「これで人類が終る」「どんな理由であっても、核兵器を使ってはいけない」「人類史上最悪の行為だ」「下手人を死刑にしろ」「核兵器はただちに廃絶しろ」等々、最大級の糾弾の声が上がるはずです。
どの国もその声を無視できるはずがありません。核兵器を廃絶しようとしない政治家は、即座にその地位を失うことになるでしょう。
それだけでは済みません。核使用後の阿鼻叫喚は録画され編集された映像として残され、それがウクライナ危機の間なら、「プーチン大統領」の仕業、「ロシア」の悪行として永遠に語り続けられます。これは「核を使わない」と宣言する上でのインセンティブの一つになり得ます。
しかし忘れてはならないのは、このシナリオでは、核使用の結果として数万、数十万もの人命が失われることです。しかもそんな大きな犠牲を払わなくても核なき世界は実現でき、核保有国首脳への烙印が押されなくても核廃絶に至る簡単な方法があるのです。
今、私たちの前にある二つの選択肢を整理しておきます。まずここで示したように、核兵器の廃絶は実現します。選択肢とは、そこに至る二つの道のどちらを取るのかというというものです。一つは、核兵器の廃絶のために数十万の人命の犠牲が必要になるという道。もう一つは、ただ一人の犠牲も生じることなく核廃絶に至る道です。答は明らかです。
今、プーチン大統領が「核兵器を使わない」と宣言し、その他の核保有国首脳も同様の宣言をすれば良いだけなのです。数十万人の犠牲は必要ないのです。
広島・長崎の被爆の実相と被爆者のメッセージを背負って、その説得ができるのは被爆地選出の岸田総理大臣をおいて他にはいないのです。ぜひモスクワへ飛んで下さい、そして安保理事会に出席して、被爆の実相を伝え、プーチン大統領そして核保有国が「核を使わない」と宣言するよう働きかけて下さい。せめて、核の先制不使用を取り付けて下さい。
敬具
秋葉忠利 (前広島市長)
追伸 プーチン大統領に宛てた手紙と資料の一式を同封します。
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26日、広島訪問時の総理と大使の発言に注目しています。
[2022/3/26 イライザ]
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