パール・ハーバーと原爆・核兵器 ――ゼレンスキー大統領演説とアメリカの感情――
パール・ハーバーと原爆・核兵器
――ゼレンスキー大統領演説とアメリカの感情――
ウクライナのゼレンスキー大統領が3月16日の、日本時間夜、アメリカ議会に対してオンライン演説をしました。
その中で、アメリカ時間1941年12月7日の日本軍による真珠湾攻撃 (略して「パール・ハーバー」) と、2001年9月11日のアメリカに対する同時多発テロ (略して9・11) とを引き合いに出して、ウクライナはそれと同じ思いを3週間し続けていることを強調しました。
ゼレンスキー大統領は、それを止めるためにはウクライナ上空を飛行禁止区域にする必要があると続けました。さらに、ウクライナに対する様々な形での支援を要請したのですが、パール・ハーバーを引き合いに出したことでアメリカ人がどのような感情を持つのかについて、日本人の多く、特に若い世代の皆さんは余り知識がないように思われますので、解説しておきたいと思います。
実は、この点についてアメリカでの生活が長くなり、反核運動が高まったときに上梓した『真珠と桜』(1986年朝日新聞社刊)で、丁寧に説明した積りですので、そこから引用したいと思います。長くなりますので、数回に分けます。
最近 (注・1986年から見て) の全面核戦争についての態度を「表」の部分とすると、原爆についての感情は、アメリカの「裏」 に当る。 マスコミ等によって伝わるアメリカの動きは、 いわば表の報道である。だが、そうした表面での動きとは関係なく、実は裏の部分、つまりアメリカ人の原爆観に相当する部分こそ、長期的には、アメリカの社会や政治の動きを決定しているのではないか。私にはそんな風に見える。
これは、アメリカ人の原爆観を支えている価値観を見ると、 一層はっきりする。
第二次大戦直後のアメリカ人の原爆観を研究した歴史学者マイケル・ヤべンディッティ教授は、これまで例示してきたような原爆観が形成された背後には四つの大きな理由があると言う。
第一に、大多数のアメリカ人は原爆投下によって戦争が早く終ったと信じたこと。その結果、当時のイギリス首相チャーチル氏が推定したように125万人の連合国側の命が救われたとも信じていたこと。
第二に、真珠湾攻撃以後、アメリカの世論が統一され、何が何でもこの戦争に勝つべきであるという態度が生じたこと。そのためには、手段を選ぶ必要などないとされ、仮に連合国側と枢軸国側で同じような武器を使ったにせよ、連合国側の動機は純粋であり、従って武器の使用は正当であるという論理が受け入れられたこと。
第三に、アメリカ人の創造カ・勤勉さの結果として生れた武器に対して、アメリカ人が誇りと称賛の念を持っていたこと。ヨーロッパやイギリスの科学者や技術者の貢献があったにもかかわらず、原爆の製造がアメリカの科学技術の勝利だと考えられ、その論理的帰結として原爆が使われることにもなったということ。
第四に・真珠湾攻撃と相まって、日本人は残忍卑劣な敵であるというレッテルが張られ、それ以前からあった日本人蔑視の態度を一層硬化させたこと。事実、 ヒットラーによるユダヤ人の大虐殺がアメリカに伝えられた後でも、アメリカ人のほとんどはドイツ人以上に日本人を憎んでいたという報告もある。
さらに、被爆者がアメリカに憎悪の念を持っていないという広島・長崎発の報告からは、だから、アメリカ人の方で原爆投下の下当性について疑いを持っ必要はないのだという結論が導かれることにもなった。
その後、こうした原爆観を変え得る可能性を持った出来事は数多くあった。ジョン・ハーシー氏による『ヒロシマ』の刊行、ソ連を始めとする他国の核クラプへの参加、朝鮮戦争、キューバ危機、ベトナム戦争などである。
しかし、その後も多くのアメリカ人は第一の点を信じている。アメリカの科学・技術に対する自信は揺ぎ始めているとはいうものの歴史的な事実として、1945年の時点でアメリカが圧倒的優位にあったことは疑う余地もない。結局、第二、第四の点が問題たが、これは、パール・ハーバーに関連した態度としてまとめて考えた方が分り易い。そして、心の奥深く、アメリカ人が パール・ハーバーに対して抱いている感情は、日本人の想像あるいは願望とはずい分かけ離れているのである。
これからが本論なのですが、長くなりましたので次回に。
[2022/3/20 イライザ]
[お願い]
文章の下の《広島ブログ》というバナーを一日一度クリックして下さい。
« 昨日の記者会見が記事・番組になりました ――SNSによるプロモーションも広がっています―― | トップページ | アメリカ人のパール・ハーバー観 ――60年前の経験を元に―― »
「ニュース」カテゴリの記事
- #加藤友三郎 #英文冊子 #完成記者会見 を #中国新聞が記事に してくれました ――友三郎を理解する人の輪が広まります―― (2024.02.29)
- #間違った発音 の #オーバードース に #辟易しています ――#米酢 は #三種類 の読み方があるようですが―― (2024.01.31)
- #BSの3チャンネルで #能登半島地震 情報 ――#被災者 からの #要請 があるまで #何もせず ?―― (2024.01.11)
- #ダイハツ だけではない #自動車業界 の #検査不正 その他の #不正 ――#最優先 されるべき #ユーザー の #安全性 はどこに?―― (2023.12.22)
- #広島市の資料 には #教育勅語 は #「良いもの」 として引用されています ―― #稲田朋美 元防衛大臣発言と ほぼ同じです―― (2023.12.20)
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- #政府の #愚民化政策が大問題 ――#同級生の投票行動から考える・第13回―― (2024.08.28)
- #災害を #ネタにする? ――#今更ですが シリーズ 2―― (2024.06.28)
- #企業・団体献金禁止 に #反対する #小沢一郎議員 ――文字通り #語るに落ちた―― (2024.05.23)
- #アメリカ の #臨界前核実験 に #抗議の座り込み ―― #これが #G7広島サミットの意味ですよ!―― (2024.05.21)
- #なぜ今 #公費負担 なのか ―― #公私混同 を #止めさせるため―― (2024.05.18)
「平和」カテゴリの記事
- #内灘闘争の歴史を学ぶ ――#JR総連中国地方協議会第38回定期委員会2部―― (2024.10.06)
- #式典から排除 の #基準は何ですか? ――#誰の基準か #何が目的か―― (2024.09.01)
- #駐日大使 の #式典招待は ――#知って貰うため #友達になって貰うため―― (2024.08.31)
- #原水禁 #国際シンポジウム ――#2045ビジョン と #NoFirstUse #提案しました―― (2024.08.09)
- #慰霊の夕べコンサート ――#8月9日18時から #廿日市市のさくらぴあ小ホールで―― (2024.07.30)
「アメリカ」カテゴリの記事
- #トランプ #返り咲き ――#8年前との比較から #何が見えるのか―― (2024.11.07)
- #危機感の違い #世代を超えて共有できるか ――#キューバ危機に比肩する危機的状況―― (2024.10.30)
- #ヒロシマの使命を #再確認しておこう ――#その時々の流れに押し潰されないように―― (2024.08.29)
- #コロンブス問題 (その3) ――#江崎玲於奈学長 #式辞の問題点―― (2024.06.18)
- #アメリカ の #臨界前核実験 に #抗議の座り込み ―― #これが #G7広島サミットの意味ですよ!―― (2024.05.21)
「日本政府」カテゴリの記事
- #中間目標として採用するための条件 ――#締約国会議へのオブザーバー参加では?―― (2024.12.04)
- #排除ではなく #説得を ――#式典まで待つのではなく #行動を―― (2024.09.02)
- #政府の #愚民化政策が大問題 ――#同級生の投票行動から考える・第13回―― (2024.08.28)
- #ユニオンショップ は #建前 ――#同級生の投票行動から考える・第10回―― (2024.08.23)
- #大本営発表 が #狼少年 に ――#建物の中に避難・地下に避難 と #絶叫―― (2024.05.31)
「ウクライナ」カテゴリの記事
- #危機感の違い #世代を超えて共有できるか ――#キューバ危機に比肩する危機的状況―― (2024.10.30)
- #被団協に #ノーベル平和賞 ――#核廃絶運動に弾み #歴史的にも大きな意味―― (2024.10.11)
- #今夜午後7時 #Zoomミーティングで話をします ―― #安保法制違憲訴訟の会主催です ―― (2024.04.29)
- #チェルノブイリ・デー #座り込み ―― #参加は38名 ―― (2024.04.26)
- #ウォルバーグ下院議員 への #撤回要請 #書簡 ―― #市政記者クラブで #記者会見を開きました―― (2024.04.11)
「ロシア」カテゴリの記事
- #2045ヒバクシャ・ビジョン #公表は来年 ――#目標年・2045年を合言葉にしよう―― (2024.11.24)
- #危機感の違い #世代を超えて共有できるか ――#キューバ危機に比肩する危機的状況―― (2024.10.30)
- #原水禁 #国際シンポジウム ――#2045ビジョン と #NoFirstUse #提案しました―― (2024.08.09)
- 「即時行動」への共感 ――大阪から新たな動きが生まれそうです―― (2023.09.16)
- 大阪での講演会報告です ――前向きな質問と発言ばかりでした―― (2023.09.13)
「核兵器」カテゴリの記事
- #報道1930の視聴有り難う御座いました ―-#被爆者の皆さんにはもう少し頑張って頂きたい―― (2024.12.12)
- #中間目標として採用するための条件 ――#締約国会議へのオブザーバー参加では?―― (2024.12.04)
- #2045ヒバクシャ・ビジョン #公表は来年 ――#目標年・2045年を合言葉にしよう―― (2024.11.24)
- #危機感の違い #世代を超えて共有できるか ――#キューバ危機に比肩する危機的状況―― (2024.10.30)
- #被団協に #ノーベル平和賞 ――#核廃絶運動に弾み #歴史的にも大きな意味―― (2024.10.11)
« 昨日の記者会見が記事・番組になりました ――SNSによるプロモーションも広がっています―― | トップページ | アメリカ人のパール・ハーバー観 ――60年前の経験を元に―― »
コメント