署名運動にも力があります ――変化は起こせます。希望も創れます。――
署名運動にも力があります
――変化は起こせます。希望も創れます。――
昨日は、署名運動には力のあることをお伝えするために、二つの事実のうちの一つを御紹介しました。その二つとは、(I) 世界は変えられること。その証拠として1982年から2005年の間に大きな変化の起きたことを検証する。(II) 同時に、時代を超えた真実のあること。中でも希望が大切であることと、希望も創り出せるという真実。
(I) については、(A) 1982年と2005年の間にアメリカでは、被爆者や被爆体験についての考え方に大きな変化があった。とまとめました。
今回は (II) の希望がテーマです。2005年の8月に数学教育協議会の全国研究大会が広島で開かれました。その最終日10日には数学と平和について、当時の大妻大学教授野崎昭弘先生 (学生の時に函数論を教えて頂きました) と私が対談をしました。
野崎先生の著書の一つ
最後に、「現在の世界情勢、社会情勢を見ると絶望的にならざるを得ないと感じている人が多いのではないか。そんな状況の中でどのように希望を見付ければ良いのか」という質問がありました。今の今、そう感じている方がいても不思議ではありません。
その時には十分には答えられなかったのですが、後日「ひろめーる」にまとめたものを引用します。タイトルは (B) 「希望の見つけ方」です。
本論に入る前にという位の位置付けで、何故希望を見付ける必要があるのかを、一つの視点----私はこの視点がとても大切だと考えているのですが---からの確認をさせて貰いました。それは、希望があるかないかによって、核兵器廃絶のための私たちの行動を変えるべきではない、ということです。核不拡散条約再検討会議で良い結果が出たかどうかで私たちの行動を決めるべきではない、ということでもあり、その他、私たちを取り巻く様々な状況が、私たちにとって好ましいものかどうかで、核兵器廃絶運動をどの方向に持って行くのかを考えない方が良いだろうということでもあります。
勿論、変化の方向が大切なのですが、往々にして、状況が悪いとがっかりして、力が出てこないのが、私たちが日常的に経験していることです。しかも、それを当たり前のこととして、受け止める傾向があるような気がしているのですが、それで良いのでしょうか、という問題提起でもあります。
その理由は、前回触れたラッセルやアインシュタイン、その他多くの識者が指摘してきた事実、「人類が核兵器を廃絶するか、核兵器が人類を滅亡させるか、その選択は私たちに懸っている」です。状況が悪いときにこそ、核兵器を廃絶するための努力をなお一層強めなければ、私たちの目的は達成できないからです。希望が見えなければ、いや見えなくても、私たち自身で希望を見付けて努力を続ける必要があるのです。
では、どのようにすれば希望は見付かるのでしょうか。ここからが本論だったのですが、10日には時間がなくなってしまいました。以下、10日に言いたかったことを簡単にまとめたいと思います。
心理学でもまたベストセラーになっている人生の指南書の類でも、多くの人に希望を与える鍵になっているのは、また私自身、励まされて来たのは、恐らく究極的と言っても良いほどの絶望的な状況の中でそれでも人間性を失わずに生き続けた被爆者やナチスの収容所からの生還者の生き方であり、希望の発見の仕方です。中には、一見、私たちの日常的感覚からすると英雄的には見えないような事柄もあるのですが、それでも、人により場所や時により大きな勇気と希望の種になっている不思議さもあります。
8月5日付の朝日新聞に載った安佐北区の小島繁美さんの投書はその一例です。小島さんに希望を与えたのは兄妹の会話です。
「昭和20年の8月7日の昼下がり、広島市・宇品港の岸壁近くの砂地でいつ出るともあてのない島まわりの船を待っていた。---中略---
ふと気がつくと、近くの草むらで人声がした。きょうだいらしい二人。妹は13歳前後。兄は2、3歳年長か、着衣はボロボロでかなりの重症と見えた。妹は外傷が無いようで、自らの身体で日陰をつくって兄を気遣い、話しかけていた。
『お兄ちゃん、帰ったら母さんに「おはぎ」を作ってもらおうね』。---中略---最高にぜいたくで幻の食べ物だった「おはぎ」という言葉に、現実に戻され、希望を与えられた。」
この短い文章からは、小島さんが希望を見付ける心の動きと共に、兄妹の気持まで伝わってきます。お兄ちゃんはおはぎが好物だったのでしょう。それを良く知っている妹は、頼りにしているお兄ちゃんに、元気になって貰いたくて、そのお兄ちゃんと一緒に家に帰りたくて、おはぎの話をしたのではないでしょうか。船を待つわずかな間、おはぎのイメージが、小島さんだけではなくこの兄妹にも大きな希望を与えたであろうことは疑う余地もありません。家に無事辿り着いたことを小島さんと共に今でも祈っています。
これは、ヴィクトール・フランクルが彼の著書『Man’s Search for Meaning(意味を求める人間)』の中で述べていることにもつながっています。余りにも過酷な運命に絶望する人が次々と死に行く収容所の中で、それでも生き残った人たちに共通していたのは、収容所から解放された未来の自分の姿を具体的なイメージとして描けたという点だったと彼は観察しています。未来を描ける力と言っても良いのかも知れません。その未来をおはぎに託すことの出来た少女の知恵は、現在の私たちにも伝わっているはずです。
おはぎが余りにも即物的なら、朝顔の種を蒔くという手もあります。毎朝、朝顔が幾つ咲くのかを楽しみにするのも未来を描くことに繋がります。
もう少し俗世間的な次元で考えると、愚痴を聞いて貰いたくなるようなときは誰にでもあるはずです。相手が誰でも良いことにはならないでしょうから、たまには愚痴を聞いてもらえるような家族関係を作っておくことが必要だということになるでしょう。となると、「世界平和は家庭の平和から」という、半分は自戒の意味で使われている言葉が別の意味を持ってくるように思います。
最後に、こうした幾つかの可能性が示唆しているのは、フランクルの言葉を再度借りれば「人間が心から願い望む最高の目的は愛であるという真実」だということなのではないでしょうか。と、ここまで書き進めて改めて気付いたことなのですが、これまで意識して「愛」という視点から「原爆」あるいは「被爆者」を考えるということは余り行われてこなかったような気がします。被爆体験の非人間的極致を考えれば当然とも言えるのですが、被爆体験をより広く理解して貰うため、また核兵器廃絶へのエネルギーを集めるためにも、この視点も付け加えて被爆体験を見詰め直すことがあっても良いような気がしてきました。
署名運動に戻ると、署名すること自体が「希望」の表現になっていることもあるでしょうし、他の人たちの「希望」とつながることで社会を変えるための新たなエネルギーになるかもしれません。そして、この署名にどこかで何らかの形で触れる人が形作る鎖が、世界を動かすリーダーにつながるかも知れないのです。
[2022/4/1 イライザ]
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