『音楽高校からメロディが消えるまで』 ――感動的なフィクションです――
『音楽高校からメロディが消えるまで』
――感動的なフィクションです――
著者の須磨光氏はビジネスコンサルタントとして意欲的な活躍をされている方ですが、2018年に小説として『誰が音楽高校を潰したのか?』を上梓、広島の音楽関係者に高い評価を受けました。
つい最近、その文庫版が出版されました。『音楽学校からメロディが消えるまで』というタイトルです。文庫版と言っただけでは不十分で、前作と比べて、広島音楽高校の廃校という事実を、極端に言えば突き放す感じでフィクションとしての完成度を高めた好著です。
著者の音楽と音楽高校への愛に満ちているのですが、それだけに止まらず、生きる意味について真摯に問いかけつつ、人間の持つ限界を踏まえてのユーモアに富む楽しめるフィクションでもあります。
多忙な方には、本書の最後の4ページだけでも読んで頂ければと思います。
前著『誰が音楽高校を潰したのか?』の感想をAmazonに載せて頂きましたので、それも参考にして頂きたく、ここに再掲します。
『誰が名門音楽高校を潰したのか?』は音楽と音楽教育を愛する全ての人に読んで貰いたい好著である。読み易く楽しいだけでなく、人間としてどう音楽や芸術に関わるべきかについても考えさせられる啓蒙書でもある。
本書はフィクションの形を取っているが、舞台が私立の広島音楽高等学校であることに、多くの方が気付かれるのではないだろうか。須磨氏がフィクションの形を採用したのは、一つには、登場人物を傷付けたくないという著者の優しさであり、また本書のテーマには普遍性のあることを強調したかったからではあるまいか。
そのテーマの大前提として、世界には音楽を愛する様々な人たちが存在し、音楽の神髄を若い世代に伝えて行くために多くの大人たちが努力し続けている現実がある。そしてややもすると世間的理解では、「音楽の世界」を構成するのは、音楽を提供する作曲家やパフォーマーとそれを楽しむ聴衆、音楽事務所や演奏会やテレビ番組等の関係者、そして音楽の専門家になりたいと研鑽を続ける若者たちくらいなのだが、本書では、音楽の勉強に打ち込む多感な若者たちを支える「保護者」に焦点を合せた点が特筆に値する。それは著者自身の経験であるとともに、保護者の目を通した音楽教育論であり、学校という組織運営論でもある。また、都市という視点からの文化論でもあり、もっと身近な効用としては、PTA役員のための実戦的マニュアルとしても役立つかもしれない。
音楽高校で学ぶ若者たちの心意気から、音楽を愛する先生方や市民たちの織り成す物語は保護者である著者の魂を揺さぶり、未来への希望となって終末を迎える。それは、「噂」や「風評」も含めて、人間たちの作り出す複雑な絵模様から抜け出して、スッキリとした光に照らされる未来だ。その感動を味わうために一読をお勧めする。
[2022/2/24 イライザ]
[お願い]
文章の下の《広島ブログ》というバナーを一日一度クリックして下さい。
« 大好きなホンダN-WGNのボンネットが開かない ――マニュアルが全く役に立ちません―― | トップページ | 「昔馴染みの病院長から旧友たちへ」 ――転倒しない、滑らない―― »
「文化・芸術」カテゴリの記事
- 広島大学病院YHRPミュージアム ――かぼちゃの作品が沢山あるユニークな美術館です―― (2023.06.30)
- 数学を学ぶとは・教えるとは ――「数学人の集い」の楽しみ方―― (2023.06.11)
- 職責を果たす広島市の職員 ――基礎自治体では、信頼関係を作り易い―― (2023.04.02)
- [追悼] 大江健三郎さん ――「先生」なのですが、それ以上の存在でした―― (2023.03.14)
- H君を偲ぶ会 ――没後3年、80人が集いました―― (2023.02.27)
「旅行・地域」カテゴリの記事
- 4年振りの敬老会に参加しました ――高齢化社会の現実についても考えさせられました―― (2023.09.18)
- コストコも完全に「広島化」しました ――そして多忙のため、ブログはしばらくお休みします―― (2023.07.28)
- 被災地に人を送り込むな ――5年前の教訓は生きているのでしょうか?―― (2023.07.18)
- 我が家から30分のところに、こんなにきれいな滝がありました ――できれば動画をアップしたいです―― (2023.06.06)
- 老人クラブ総会でした ――カラオケは禁止でした―― (2023.04.25)
「音楽」カテゴリの記事
- 断酒の障害が分りました ――甘い言葉でした―― (2023.07.04)
- 日記を付けなくても良いと考えた理由 ――去年も同じ日に日記のことを書いています―― (2023.04.23)
- アレクセイ・リュビモフ ピアノ リサイタル ――引退宣言を撤回して再度来日してくれました―― (2023.04.15)
- H君を偲ぶ会 ――没後3年、80人が集いました―― (2023.02.27)
- 明けましておめでとうございます(2023.01.01)
「若者」カテゴリの記事
- 数学を学ぶとは・教えるとは ――「数学人の集い」の楽しみ方―― (2023.06.11)
- 学校でとんでもないことが起きているようです。 ――生徒や学生はどうすれば良いのでしょうか―― (2023.06.08)
- マスコミに関心を持って頂き感謝しています ――お陰様で、G7広島サミットの全体像が浮き彫りになってきました―― (2023.06.02)
- 今日発売の『日刊ゲンダイ』を御覧下さい ――私論・G7広島サミットの総括が掲載されています―― (2023.06.01)
- 日記を付けなくても良いと考えた理由 ――去年も同じ日に日記のことを書いています―― (2023.04.23)
「子ども」カテゴリの記事
- 数学を学ぶとは・教えるとは ――「数学人の集い」の楽しみ方―― (2023.06.11)
- 学校でとんでもないことが起きているようです。 ――生徒や学生はどうすれば良いのでしょうか―― (2023.06.08)
- 成田発言のおぞましさ検証 ――立ち止まって考え始めたら、怒りで震えが止まらなくなりました―― (2023.02.24)
- 集団自決や集団切腹のリアルな記憶を大切に ――成田悠輔氏の持論への違和感―― (2023.02.23)
- 『はだしのゲン』の何が問題なのか ――本当は松江市の先例と同じ理由?―― (2023.02.22)
コメント
« 大好きなホンダN-WGNのボンネットが開かない ――マニュアルが全く役に立ちません―― | トップページ | 「昔馴染みの病院長から旧友たちへ」 ――転倒しない、滑らない―― »
広島音楽高等学校、野々村彩乃さん。YouTubeで、甲子園での君が代斉唱。感激しました。まだ、高校生です。才ある人は,十代でも、光るものですか。何度、聴いても、きき飽きません。
投稿: 60sp | 2022年2月24日 (木) 01時15分