「尾木ママ」と対談しました (6) ――子どもの声の代弁者!――
「尾木ママ」と対談しました (6)
――子どもの声の代弁者!――
明るい社会づくり運動 (略して明社) が発行している『はーとふる』の特別企画で、教育評論家の尾木直樹さんと対談しました。司会は明社の澤田章好常務理事でした。
初めてお会いした尾木ママは、テレビでのイメージ通りの明るく、優しい方でしたし、テレビで拝見するより小柄な印象でしたが、御一緒しての存在感が大変しっかりしていた方でもありました。
尾木ママの最初の言葉は「子供の声の代弁者」だったことからも、彼の活動の中身が明確に伝わってきました。それも大人社会の一員として、大人全体、その中でも実際に子供たちの置かれている環境を変える力のある人たちに正確な情報を伝え、どう変えて行ったら良いのかを目標にしていることが良く分かります。「正確な情報」の中でも数字は大切です。
対談はまずコロナ禍での子どもたちの状況から始まりました。尾木ママの指摘してくれたのは、第一に、2020年度に自殺した子どもの数が小中高校生で507人に上るほど深刻だという事実でした。そして、国立成育医療研修センターが2020年4月からおよそ2か月に一回のペースで子どもたちの心のあり方について追跡・調査した結果として、2020年の4月には75%の子どもたちがストレスフルになっていて、一番ストレスが高かったことも指摘してくれました。
それは、ちょうど安倍総理が全国一斉休校を宣言した時と重なっています。休校になったのは、3月2日から春休み前ですので、3月一杯は学校に行けず、そのまま春休みになった子どもたちのストレスが、全国一斉休校によってさらに増したことは想像に難くありません。
ストレスが原因になって中等度以上のうつがみられる子どもの割合は小学4年から6年生で15%、中学生で24%、高校生では30%にもなり、20%の子どもたちが自傷行為や他傷行為に陥っているというデータも示してくれました。そのストレスの発散方法も子どもたちが必死に自分たちで考えていることの分るものばかりでした。これらの事実を目の前に、「ここまで子どもたちの心が乱れてしまったなんて・・・・・・・。涙が出てきます」という尾木ママの悲痛な叫びが胸に沁みました。
このような状況が我が国で起ってしまっているのは、やはり国全体、社会全体で子どもたちを大切にするという基本的な考え方が、目には見えないかもしれませんが、社会全体には浸透していないからだと言って良いように思います。日本と言えば子どもを大切にする社会だという「常識」が当たり前だと思ってきたのですが、数字も援用して子どもたちを巡る現実を見れば、それが単なる幻にしか過ぎないことが分かる、という点を尾木ママは強調しているのです。
それを現実と認める上で役に立つのが国際比較です。特に国際的に「法律」として認められている条約を、日本政府・日本社会がきちんと遵守しているのかが一つの判断基準になります。
子どもたちの権利を守るための国際条約の決定版は、「子どもの権利条約」です。日本は1994年に批准をしたのですが、国際的に保障されている子どもたちの権利が日本国内でも同じように認められ守られているのかというと、そうではないことが問題なのです。
例えば、尾木ママが指摘しているのは、条約の42条で「政府は国民に対して告知しなくてはいけない」という決りがあるにもかかわらず、政府はそれをしていません。事実、日本政府は国連の子どもの権利委員会から、条約を遵守していないというという理由でこれまで2回も勧告を受けているのです。これをお読みになっている皆さんの中にも、「子どもの権利条約」があることを知らない方がいても不思議ではないのです。
「子どもの権利条約」を日本国内に広め、子どもたちの権利を政治の場で尊重して行く上で、大切なことの一つが、各自治体毎に「子どもの権利条例」を作り、地域で子どもの権利を尊重して行く環境を作ることです。残念なことに、「子どもの権利条例」を作ることに反対する大きな力が日本中にあった、条例ができているのは川崎市や札幌市など、40ほどの自治体にしか過ぎません。広島市も子どもの権利条例の制定のために努力をしましたが、例えば「おやじの会」といった名称の市民のグループによる執拗な反対運動があり実現しませんでした。
改めて強調しておくと、この条約が規定している子どもの権利を実効性のあるものにするためには、国家としてはその趣旨を生かすための法律を作り、地方自治体は条例を作る必要があるのです。でも、「子ども庁」の設置も延期され、その間に名称を「子ども家庭庁」に変えるという、子どもの権利を薄める方向での動きも現れて、問題は複雑化しています。
以下、次回に続きます。
[2022/2/17 イライザ]
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