核兵器の共有 ――わざわざ喧嘩を売るのは何故ですか?――
核兵器の共有
――わざわざ喧嘩を売るのは何故ですか?――
安部元総理が、核共有の議論をすべきだという発言をし、橋本元大阪市長もそれを上回る主張をしたとの報道が、全国的に波紋を広げています。
「核共有」または「核シェアリング」とは、日本の場合、アメリカの核兵器の提供を受けてそれを日本国土内に配備し、日本の飛行機がそれを搭載して投下するという契約を日米間で結ぶことを意味します。当然、非核三原則にも違反しますし、核の不拡散を規定しているNPT違反でもあります。また、核兵器禁止条約に違反していることは言うまでもありません。
安部・橋本両氏の主張は、ソ連崩壊当時、ウクライナが核兵器を保持する道を選んでいたら今回のようなことは起らなかったであろうという推測と、NATOの中で、ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ、トルコがアメリカとの間で核共有をしているという事実が元になっています。
以上について、大きく二点指摘しておきましょう。一つには、現在のウクライナの危機の原因の一つとして、NATOが東方に拡大しており、ロシアがそれをロシアへの脅威だと感じていることがあります。しかも、フジテレビでの番組の中で、安部元総理はプーチン大統領からそのことを何度も聞いていると自慢しています。
だったら何故、米欧との関係も良い日本として、ロシアの持つそのような不満がさらにエスカレートすることを避けるための外交的な努力をしなかったのでしょうか。目の前で、子ども二人が険悪な関係になり今にも喧嘩をしそうな状態を見ていた三人目の子どもが、喧嘩になるのを止めずに、喧嘩になったら、大きな石を持っている方が優勢に見えたから、自分も大きな石が欲しいと言っているような図式ではありませんか。
次に、安部元総理は、オバマ大統領が核の先制不使用政策を進めようとしたときに、強力にそれに反対して、アメリカが核の先制不使用政策を潰した張本人です。そんなことをした日本政府が、日本国内に核兵器を持つことになれば、それは、持つだけではなく、自分たちの方が先に核兵器を使うぞという意思表示にもなるのです。
二点目は、緊張状態にある北東アジアで、今そんな主張をして何になるのでしょうかという点です。緊張を高め、日本に対する信頼も何もなくなる結果は火を見るよりも明らかです。
まず、中国は核の先制不使用を宣言しそれを守ってきました。その中国に対して、「日本は核を持ち、先制使用も辞さない」とわざわざ言うことは、喧嘩を仕掛けていることに等しいではありませんか。
北朝鮮にしても、アメリカとの交渉の舞台を作るために、アメリカにまで核兵器を運搬できるミサイルを開発しています。でも日本に核兵器が配備されれば、日本の核兵器を叩けば良いという口実としてそれが使われ、アメリカに核兵器を使う前に、まず日本に核兵器を使うことになり兼ねません。
ロシアの場合はもっと深刻かもしれません。仮に北方領土が日本に還ってきたとして、アメリカと共有される核兵器が北方領土に配備されることになれば、それは大変大きなロシアへの脅威になります。にもかかわらず、北方領土の返還交渉に応ずるのでしょうか。
と言うことで、「核共有」などという発言をすること自体、日本と日本人への敵対心を大いに煽るだけになります。直ちに撤回した上で、例えば、ロシアの核使用を絶対に阻止することに的を絞って動くべきです。岸田総理が忙しいのであれば、安部元総理が特使としてモスクワに飛び、プーチン大統領を説得するといった、日本が本来果さなくてはならない役割を最優先することを願うのは、私だけではないと思います。
[2022/3/1 イライザ]
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コメント
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ウクライナの危機を利用して、国民に間違った考えを与えてます。
核保有していれば戦争にならないなら、どうして核保有国のインドとパキスタンは戦争しているのか。
数千発の核兵器を保有している米国が、どうして外国勢力により同時多発テロにあったのか。
この人達はどのよう説明できるのでしょうか?
そして核の共有を主張するのは、日米安保では米国の核の傘下にあると信じ切れてないと言っているのと同じではないでしょうか?
仮に米国が認めるなら、核の使用権限は米国が保有し、日本には維持管理費だけ負担させるだけだと思います。
NATOと同じ様に核の共有ができるなら、日米地位協定は改定できるでしょうが、米国はやらないでしょうね。
権力欲だけの政治家は、独裁政権を持ちたいのでしょうね。
弱虫だから、強い武器を持ちたがる。
投稿: やんじ | 2022年3月 5日 (土) 20時30分
「やんじ」様
コメント、有難う御座いました。
かつてフランスのシラク大統領が言っていたように、核兵器が平和のためになるのなら、全ての国が核兵器を持つべきなのです。
投稿: イライザ | 2022年3月 6日 (日) 13時23分