自動車運転の安全性を高めるために (3) ――交通事故総合分析センターの資料を元に――
前回のお浚いから始めましょう。警察庁交通局の分析によると、高齢者の事故については次のような結論が大切だということになります。
75歳以上高齢運転者による死亡事故は、75歳未満の運転者と比較して車両単独事故が多く、特に工作物 衝突や路外逸脱事故が多く発生している。また、人的要因では操作不適が最も多く、特にブレーキとアクセル の踏み間違いによるものの割合が高い。
そこで、「イタルダ」という略称でも知られている交通事故総合分析センターの『特集 運転操作の誤りを防ぐ ─駐車場、高齢者に多いペダル踏み間違い事故─』から、参考になりそうな数字をグラフとともに検討してみましょう。
この説明にも出ているように、「ペダルの踏み間違い」が原因事故では、確かに高齢者の場合の発生率は高いのですが、事故は、ハンドル操作やブレーキ操作が原因で起こる場合も深刻です。それら全てを合算した「操作不適事故全体」が一番上のグラフなのですが、ほぼ左右対称です。
となると、対策面では、若者と高齢者両方を視野に入れないと効果がないことが分かります。高齢者の「免許返納」に力を入れるだけでは問題の半分を無視していることになるからです。
とは言え、「ペダルの踏み違い」による死亡事故は多いので、その内容をもう少し詳しく見てみましょう。運転状況と道路状況です。
他の項目は無視して良いとは言えませんが、「車両の単独事故」と「駐車場」が圧倒的に多いことが分かります。この二つに注目して事故数を減らすために「免許の返納」という手段を選ぶとしたら、高齢者の説得には「お前の運転で人を殺す可能性が高いから免許を返納せよ」と言う代りに「あなたにもっと長生きして欲しいから、運転は控えて欲しい」というメッセージの方が、事実を踏まえた、しかも受け入れ易いものだと思うのですが、如何でしょうか。
もう一つ、グラフを御覧下さい。類型別のグラフですが、ここでの問題点は、単独事故ではなく、車が人に対しての凶器になっている場合です。
車両単独や車両相互の場合も勿論問題なのですが、「人対車両」で突出しているのは、「75歳未満の運転者」の場合なのです。そして、75歳以上の運転者の場合の危険性については触れられていても、75歳未満の運転者が「人対車両」事故を起こす率がこれほど高いことには一切触れられていないのです。
高齢ドライバーに対する偏見と予断に満ちた説明です。これで「結論ありき」の説明の実態はお分り頂けたと思いますが、具体的な対策はどうすれば良いのか、高齢者の経験に基づいた知恵も交えながら次回取り上げたいと思います。
[2019/6/23 イライザ]
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コメント
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交通事故が多いから高齢者に免許を返納しろというのは、合理的な根拠もなく、法治国家とも思えない主張ですし、ドライバーには違法とも思える多重課税と負担を強いて予算を搾り取っている国ですから、有効な対策はいくらでも可能に思えます。
それより、高齢議員による弊害の方が遥かに問題に思えるのは、南区に住んでいるからでしょうか。
投稿: 工場長 | 2019年6月24日 (月) 12時17分
「工場長」様
折角コメントを頂きながら、忙しさにかまけて、今気が付きました。
「高齢議員」は確かに問題です。議員の定年を決めることが流行った時期がありましたが、それも遠い昔のことなのでしょうか。
でもそれ以上に問題なのは、「世襲議員」なのではないでしょうか。「世襲議員」には投票しない、という世論が高まるだけで、政治は何倍も良くなるように思うのですが--。
投稿: イライザ | 2019年6月28日 (金) 16時11分