自動車運転の安全性を高めるために (1) ――客観的なデータで議論しましょう――
高齢者がブレーキとアクセルを踏み間違えて、死亡事故を含む深刻な事故が起きている。この事態を解消するために、出来るだけ早く高齢者から免許証を取り上げるべし。
といった趣旨の全国的キャンペーンが、マスコミ主導で全国的に広がっています。何故、このように理不尽なキャンペーンが展開されているのかについては、このところ始った秋篠宮バッシングとともに、近い内に分析しますが、まずは、高齢者と交通安全について、少し冷静に考えてみたいと思います。
出発点は、客観的なデータによって状況を把握することです。意外な真実が見えてきますし、見えるべきデータが公表されていないことにも気付くはずです。
まずは、高齢者が交通事故でどのくらいの数死亡しているのかを見てみましょう。警察庁交通局交通企画課が発表した、2018年10月末の「交通事故統計」に掲載されている分り易いグラフです。
「年齢層別・状態別死者数」のグラフです。手前から奥に行くにしたがって年齢層が上がっています。一番奥は、65歳以上です。また、「677」人と死亡者数がいた番多いのは、65歳以上の歩行者です。それは、左から右に移る列では、一番左が「自動車乗車中」、そして右から二番目が「歩行中」そしてその左隣りも死者数が「234」人と多いのですが、これは自転車乗車中です。
「歩行中」という状態が示しているように、これは、高齢者が加害者ではない事故による死者も含まれています。簡単に言ってしまえば、高齢者が被害を受けその結果死亡した交通事故を数えているのです。自ら危険運転をして亡くなった場合も含まれますので、全て相手が悪い訳ではありません。
問題の一つは、このグラフに劇的に示されているほど多くの高齢者が交通事故で死亡しているのですが、これを放置しておいて良いことかという点です。この統計に示されている高齢の死亡者を減らす対策も、高齢者が起こす事故と同じくらい熱心に推進されてしかるべきなのではないでしょうか。横断歩道以外で道路を横断したり、走行中の車の直前や直後を横断する等の「法令違反」が約半数なのですが、残りの約半数には過失がないのですから、高齢の歩行者を守るための対策という視点ももっと強調されてしかるべきでしょう。
免許の返納と、高齢の歩行者が事故で死亡するケースを結び付けることも可能です。論理的には問題はあるのですが、分り易い喩えで問題点をアピールしておきます。仮に、高齢の運転者が免許証を返納すれば、歩くか自転車に乗るかという交通手段を取らざるを得ません。それは、死亡率としては運転より倍近い可能性の交通手段を偉ぶ事になるのですから、より深刻な生命の危険にさらされることになるのです。そんな犠牲を強いるだけの信頼できる根拠が実際にあるのでしょうか。
思った以上に説明が長くなってしまいました。この項は続きます。
[2019/6/21 イライザ]
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