憲法調査会での金子発言 ――無抵抗降伏論を独自に表明――
憲法調査会での金子発言
――無抵抗降伏論を独自に表明――
西日本豪雨災害からの教訓のまとめとして、防災省の設置を提案してきましたが、組織的には、自衛隊を災害救助隊に改組するという説明が分り易いと思います。これが可能である大きな前提として、仮に海外からの侵略があったとして、自衛隊が武力に依って抵抗するのではなく、威厳を持った降伏によってできるだけ多くの人の命を守ることが大切であること、またその後の日本社会において、ソフト面を生かしての非暴力抵抗運動を通して、原状回復を行うことこそ、より良い選択であるという、「森嶋通夫理論」を御紹介しました。
今回は、これと同様の考え方を国会の中の憲法調査会で披歴した、金子哲夫衆議院議員(当時)の発言をお読み頂きたいと思います。森嶋理論とは全く独立した形で、自前の提案をきちんとされている姿は立派ですし、国会の議事録にその発言が残されていることにも意味があります。以下、議事録の一部です。読み易いように改行等を行っています。
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第154回国会 憲法調査会国際社会における日本のあり方に関する調査小委員会 第4号
平成十四年(2002年)六月六日(木曜日)
午後二時二十九分開議
○金子(哲)小委員 社民党の金子でございますけれども、私は、非核三原則にかかわって少し発言をしたいと思います。
先生のおられるところでもぜひ発言をしたかったのですけれども、最後は、宗教的信念などと核兵器廃絶の問題がとらえられているということについて極めて驚きを持っております。
我が国が、政府が、非核三原則のみならず、国連においてたびたび国連決議の中で核兵器廃絶のための提案をしていることは事実でありまして、それは世界から核兵器をなくそうということ、我が国が非核三原則を持っているからということだけではないと言わなければなりません。そもそも、ただ被爆国であるということでもありません。
つまりは、その被爆の体験の中から、核兵器の非人間性というものについて、既に国際司法裁判所でもその点については明確に規定をされているわけでありますけれども、そういった核兵器の持つ非人間性とそのことによる被害というものに着目をして、再びそういうことがこの地上の中に起きてはならないということで核兵器の廃絶というものを訴えてきたし、また、そのことによってその説得力を持つという意味においても非核三原則というものが提起をされているように私は思えるわけです。
そうしませんと、万々が一のときにということをお話しになりましたけれども、万々が一のときというのは一体どう考えればいいのか。それは、つまりは、核兵器が一日にしてつくられるわけではありませんから、そのことを想定しておれば、いずれ非核三原則を否定して政策を変換しなければ、万々が一に備えることはできないということになるわけでありまして、そういうことに論点が行くこと自身も私にとってはある種の驚きでもあります。
ですから、私は、やはり核兵器というものについて、核兵器の持つ本質的な意味、また核兵器の破壊力、放射線障害の持つ意味ということを実体験として知っている我が国だからこそそのことが言えるというふうに思うので、むしろ私は、日本の外交姿勢の中にあって、唯一の被爆国というまくら言葉は国連の中でも何度も表明をされますけれども、広島や長崎で起きた事実に対して、そのことを世界にどれだけ知らしめる努力をしてきたのかといえば、極めて残念ながらそれは行われていない。
例えば、被爆者の皆さんや平和団体の皆さんが原爆写真展などを通じて被爆体験を広げようという努力をしてきたわけでありますけれども、それすらも、日本政府がたった一度も国連においてそういうことをやったということを私は知りません。そういう努力というものこそが、今唯一の被爆国としての役割だと思います。
憲法とのかかわりにおいても、憲法九条の論議のみならず、憲法にうたわれております国際条約との関係の中において、NPT体制の中に日本も批准をして入っている限りこれをむしろ促進していく役割というものがあるわけでありまして、そういう点からもありますし、憲法上からいっても、これは国会の中で、園田外務大臣も随分前の国会ですけれども発言をされておりますように、日本国憲法全体の中に、国民の生命を守っていくという憲法精神からいっても、この非人間的な核兵器を日本が持つということ、非核三原則を変えて核兵器を持つということはあり得ないということをおっしゃっておりますけれども、私もそのとおりだと思います。
そういう意味で、やはりもう一度、唯一の被爆国、また被爆体験をした国家としての被爆というものの意味について、私は、国会の中でも改めて論議をした方がいいのではないかということを強く思っております。
以上です。
○赤松(正)小委員 公明党の赤松正雄です。
先ほど、ちょっと時間が足らなくて、私が申し上げたことが少し中途半端に終わったんじゃないかと思いますので、その補足と、それから、今金子委員がおっしゃったことに関係すること等について二、三お話をしたいと思います。
まず、先ほど、日本の国がこれから直面するであろうというか、今もうしているんですけれども、選択肢が二つある。一つは、憲法を改正して普通の国になるという選択肢と、もう一つは、今のまま憲法のいわば解釈改憲の道を続けて特殊な国の道を歩んでいく、この二つが我々の前に横たわっているだろう。ここは一にかかって国民世論の動向と深くかかわってくると私は思います。日本の国の多くの人々が、今申し上げた大きく分けて二つの道のどちらをとろうとするのか、これはやはり真剣に国民世論の動向というものを見定めていかなくちゃいけない、そんなふうに思っています。
私は個人的には、憲法第九条については、第一項はもちろんそのままですが、二項については整理する必要があるだろうなという考え方でおりますけれども、公明党は現時点で、二つ目の、憲法第九条については改正をしない。問い詰めてみたことはありませんが、今の私の仕分け方でいくと、恐らく二つ目の方向を行こうとしているんだろうな、こんなふうに思っております。これが先ほど言い残した部分でございます。
それから、今、非核三原則にまつわる話ですけれども、いわゆる核をつくらず、持たず、持ち込ませず、この非核三原則については、私ども公明党は、私が政策形成にかかわった時点で、三原則ではなくて、もう一つ、いわば運動論的につけ加えないと話が決着しないというふうに言って盛り込んだことがあります。それは、持たせずということであります。
つまり、持たない、つくらない、持ち込ませないといっても、つくって、それをやろうとする、持つという意思を持つ国があるわけだから、そこに対して持たないようにという働きかけ、つくらせずでもいいんですけれども、そういうことが運動として起こってこないと、自分たちはつくらない、持たない、持ち込ませないと言っていても何も現実的な意味を持たない、そういうふうなことを主張いたしました。
一方では、全く逆ではありませんけれども、持たず、つくらずはいいけれども、持ち込ませずというのを掲げるのは日本もおかしい、だから非核三原則ではなくて非核二原則でいいのではないかというふうなことを指摘される向きがあるということについても、私は、その人のそういう主張があるという立場は十分に理解できるつもりでおります。
今回の福田官房長官の発言は、恐らく、政府首脳という立場を少しお忘れになって、評論家的に、純理論的に核の問題についてお話をされたのだろう。その辺はもう少ししっかり、用心深くお話をされた方がよかったのではないのかなという印象を持っております。
最後、三つ目に、社民党の金子さんに聞きたいんですけれども、実は共産党の山口さんに聞きたかったんですが、おられないので、別に疑似的相手だということではないんですけれども、この調査会は大いに論争した方がいいと思うので言います。
実はきのう、有事法制の地方公聴会で仙台へ行ってきました。要するに、万が一、僕は、万が九千九百九十九、平和外交的努力をすることは当然だ。九千九百九十九までやって、あとの一に対して使っちゃいけない有事法制だけれども、つくって、その用意は最低限する必要はあるんじゃないのかというスタンスなんです。
だから、そういう意味合いで、日本共産党から推薦された方、あるいは社会民主党から推薦された方のお話を聞いていて思ったのは、要するに、九千九百九十九のことだけで、万が一のことについては触れられない。だから、詰めていけばどうなるんですか、こう聞いたら、いわば非暴力抵抗主義というかそういうことを、現実にその言葉をおっしゃいました。
要するに、日本共産党の方に聞きたかったのは、二年前に、必要なときは自衛隊を使うということを彼らは決めているわけですね。それに対して、今は使わないときと決めておられるのかどうか、その辺がよくわからないということを聞きたかったんですけれども。
金子さんは、万が一の場合、やはり非暴力抵抗主義というんですか、そういう格好でいかざるを得ないと思っておられるんでしょうか。自衛隊のありようというものと絡めて言っていただきたいと思います。
○金子(哲)小委員 では、もう私の持ち時間ありませんので、短くお答えしたいと思います。
自衛隊の問題については、この委員会でも私ども社民党の政策について御意見が出たことはありますので、その点については今質問が直接ありませんので、とりあえずおきまして、万々が一のお話。
実は私のホームページにもその点について、あえてと問われればということで書かせていただいておりますけれども、私は、非暴力抵抗でいい。といいますのは、その中につけ加えておりますのは、もし万々が一のときに想定をされる軍事的な紛争により命を失うこと、そのことと、万が一のときに非暴力抵抗によって仮に失う命とはどちらが多いかと、本当に考えてみたとき、戦争、紛争によって、いわば軍事衝突によって失われる命の方がはるかに多いというふうに私自身は思っております。それは日本国民のみならず相手の国を含めて、そういうふうに思っております。
ですから私はそのことを書いておりますけれども、それでもそれに対する批判は確かにあります。私の考え方としては、暴力、軍事的な力によって紛争を解決して失う命よりも、特に近代戦争においては、軍人軍属の失われる命よりも一般の非戦闘員と言われる人たちが、とりわけ第二次世界大戦以降、ベトナム戦争もそうですけれども、近代兵器の中で失われる命の方がはるかに多い状況を考えてみますと、そういう非暴力抵抗によって失われる命の方が少ない。そしてまたそのことは、もし仮にそういうことが起きたとしたら、国際社会の中にあってそのことが永続的に続くとは到底思えないというふうに私は思っておりますので、そういう見解を持っております。
○藤島小委員 今の件に関してですけれども、戦争になったときに軍人軍属の犠牲者が多いか、一般の国民の犠牲者が多いかというふうに置きかえることがちょっと問題があるんじゃないかと思うんですね。
侵略されることで国民の権利とか自由が全く侵害され、あるいは婦女子が全部犯される、そういうことに対して、本当にそのままほって、見ていていいのか。例えば湾岸戦争にしてもそうですけれども、ヨーロッパのいろいろな紛争にしてもそうなんですけれども、それをほっておいていいのかということがやはり一番問題じゃないかなと私は思います。
[2018/8/10日 イライザ]
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