「アベノミクス」に騙されるな! (その2) ――「アベノミクス」の実態は「安倍のミス」――
「アベノミクス」に騙されるな! (その2)
――「アベノミクス」の実態は「安倍のミス」――
立命館大学の大田英明教授の2007年の論文「所得格差および税制と経済成長 ――中長期的影響:分配なくして成長なし――」のはしがきを御紹介しましたが、それをさらに敷衍した二つの論文が、「アベノミクス」の真実の姿を完膚なきまでに、白日の下に晒しています。
一つは、(I) 「Why the monetary easing under ‘Abenomics’ has been ineffective in recovery of the Japanese economy?: Integration of the markets between the US and Japan」です。「アベノミクス」の下に行われた金融緩和が何故日本経済の回復に効果を挙げなかったのか--日米の市場の一体化」とでも訳しておけば良いのでしょうか。
もう一つは、(II) 「Economic Growth through Distribution of Income in Japan: Road to Stable Growth with Progressive Income Tax System」です。大雑把に訳しておくと、「所得配分による日本の経済成長――累進課税制度を元にした安定的成長への道」です。
「アベノミクス」とは、「三つの矢」として①金融緩和政策、②財政政策、③構造改革の導入を柱としています。最初の金融緩和のみ過去5年以上継続していますが全く実体経済の回復には効果がありませんでした。また、二番目の財政支出は2013年度の最初のみ公共支出を拡大しましたが、その後、政府は一貫して緊縮政策(GDP比で前年比マイナス)を継続しています。これは景気回復には逆効果です。また、3番目の構造改革は労働市場の自由化(派遣法の自由化、労働関係法案など)や経済特区を外資誘致の柱にする(例:カジノ法案など)を導入するものであり、直接的に経済成長を促進するどころかむしろこうした規制緩和は勤労者の賃金水準はますます低下するような政策をとっており、事実上、アベノミクスは経済成長を促進するものではありません。むしろ富裕層と大企業を優遇することのみ力点を置いたものです。これは一連の資産課税の減免、法人税の軽減措置の導入などにも表れており、法人税収は過去20年間一貫して低下しています。
その結果として、前にも示した経済の基本的な体系の内、賃金の増加については、高齢者であれば、年金額の減少と税金や保険料の上昇で、「増加」したのは支出だけということは実感されていると思いますし、働いている皆さんの中では、実際に賃金が増加しているとは感じていない方々の方が多いのではないでしょうか。この背景には、アベノミクスの第3の矢にあたる規制緩和策の一環として労働市場の完全自由化に伴う非正規雇用の拡大があります。このため、労働賃金全体を大幅に抑制することとなり、現在では、求人広告の過半数は非正規雇用です。非正規雇用は正規雇用の年収の/1/3にしかすぎません。このため、こうした規制緩和は着実に一般勤労者の賃金水準を低下させてきました。また、日本はOECD諸国でも貧困層の比率は本も高い国の一つです。
金融緩和によって、市場に出回っているお金の量が増えれば、その中の一定の割合が投資に回されますので、「投資の拡大」につながるはずなのですが、大田論文の(I)では、それが起きていないことを証明しています。ただし、大田論文についての解釈はあくまで私の独断と偏見に依存していますので、誤りがあったり、誇張があったりすれば、それは私の責任ですので、その点についてお断りしておきます。
さて、マスコミには「マイナス金利」とか「質的・量的金融緩和」とか「異次元金融緩和」といった
難しい言葉が飛び交っていますが、基本的には、日銀の操作で「市場」、つまりお金のやり取りをする世界のことをこう呼んでいます。その中で扱われるお金の量が「異常に」増えているということです。それが、回り回って景気を良くして、賃金も上がるといった未来図を描いているのが「アベノミクス」なのですが、大田論文(I)では、この「金融緩和」は経済成長率や実体経済の回復にはほとんど効果がなかった(株価は成長率にほとんど関係ありません)という結論になっています。つまり、「アベノミクス」は失敗だったのです。特に2013年のアベノミクス導入の重要目標とされたインフレ目標の年2%は依然として達成せず、デフレ脱却には至っていません。
By Wiiii [GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html) or CC BY-SA 3.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], from Wikimedia Commons
その結論に至ったのは、BVARという統計手法を使って、日米の金融や経済指標に関連のある数字を、分り易いモデルに変換し、しかもいくつかの数値の間の因果関係もハッキリさせたからです。こうした高度の分析の結果、金融緩和によっては実質的に経済が上向きにはならなかったことを示しています。
他の経済学者の分析と違う点は、一つには、日本という国内だけに視野を限らずに、日米両方を同時に考察したことです。またその際、日米の金融緩和政策の時間的な差も考慮した上での分析になっているという点です。
確かに、金融緩和によって、日米にはお金の量が増えました。しかし、それはアメリカの都合に依って時期・量が決められていたので、アメリカの景気回復には役立ったけれど、日本の景気回復とはつながらなかった、というのが一つの結論です。具体的には、米国の量的緩和(QE)の終了した2014年10月に合わせて日銀は量的・質的緩和(QQE)も第二弾としてマネー供給を大幅に拡大してきており、それが国際資本移動に伴い米国市場に流入し、大半は米国市場など国外に流出してきたことがあります。すなわち、日本よりむしろ米国のために大量のマネーを日銀は供給してきました。
さらに、日銀の金融緩和によって増えたお金は、日米ともに、生産性を高める部門に使われたのではなく、短期的かつ投機的な使い方をされてしまいました。日本国内では特に(米国では株価上昇による資産効果で一般国民も消費を増やし、企業も設備投資を増加させる効果がみられましたが、日本ではそれは見られませんでした(日本では株保有は資金に余裕のある富裕層が中心で一般庶民は米国のように保有せず銀行預金という特徴があるからです。)つまり、「アベノミクス」が目的とした「投資の拡大」にはならなかったというのが、もう一つの結論です。
それでは、日本経済を復活させるためにはどうすれば良いのか、という問に答えてくれるのが大田論文(II)です。解決策は、経済学の基本に戻って、しっかりした累進課税制度を採用することです。つまり、お金持ちからは、貧乏人よりたくさんの税金を払って貰うという税制にしよう、ということです。そして、所得の少ない人に取っては、裕福な人よりも大きな犠牲を払わなくてはならない消費税の「逆進性」を改善することで、その結果として大多数の国民の中低しょててく層の消費拡大が見込めます。
大田論文(II)は、(I)より分り易いので、次回をお楽しみに。
[2018/7/30 イライザ]
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