タヒチへの贈り物 ――フランスの核実験による被害者に――
タヒチへの贈り物
――フランスの核実験による被害者に――
[数十年に一度という大規模な大雨災害によって亡くなられた方々にお悔やみを申し上げたいと存じます。又甚大な被害を受けられた被災者の方々には心からお見舞いを申し上げます。]
さて、昨2017年の8月に報告させて頂いたのですが、東芝国際交流財団から助成金を頂けることになり、フランスの核実験で被害を受けたタヒチの人々に、鎌田七男著『広島のおばあちゃんの』フランス語版を贈るプロジェクトが昨年春にスタートしました。
当初の予定では、昨年中にタヒチまで、贈り物を届けられる積りだったのですが、いくつか予期しない問題が生じて、ようやく今月になって、タヒチまで本を届けることができました。
東芝国際交流財団への事業報告を提出する必要も当然ありますので、そのための事業報告書をこのプロジェクトを中心になって引っ張って下さった、真下俊樹さんに書いて頂きました。真下さんは、國學院大學の講師ですが、同時にフランス領ポリネシアだけではなく、南太平洋地域の核実験とその被害についての専門家で、フランス語の翻訳・通訳等でも活躍している国際的な平和活動家として著名です。
詳細な報告書ですので、二回に分けてお読み頂ければ幸いです。
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プロジェクト: 鎌田七男・箸『広島のおばあちゃん』仏語版翻訳とフランスによる核実験被害者に向けての配布
財団法人東芝国際交流財団の助成金受給(¥1,600,000)により実施
フランスは1966〜96年に仏領ポリネシアのモルロア、ファンガタウファ両環礁で計193回の核実験(大気圏46回、地下147回)を行ないました。実験には、フランス軍関係者、民間企業派遣員のほかに、現地採用のポリネシア人労働者5千〜1万人(正確な人数は不明)が動員され、その多くが放射線を被ばくした可能性があります。また、大気圏核実験の放射性降下物による汚染は仏領ポリネシア全体に広がっており、元労働者以外の一般住民やその子孫への影響も懸念されています。
フランス核実験による被害者の存在は、最近までほとんど表面に出ることがありませんでした。そのおもな理由は、被害者の多くが「核実験について口外すれば、フランスの国防機密漏えい罪に問われる」と恐れ、口を閉ざしてきたためでした。しかし、1990年代になって被害者を支援する市民活動に支えられて被害者の掘り起こしが進み、2001年に仏領ポリネシアで初めて被害者団体が結成されました。これは、アメリカやイギリスの核実験被害者の運動に比べて、かなり遅い出発と言えます。
被害者の権利回復運動を効果的に進めるためには、被害の実態の正確な把握が土台になります。しかし、放射線の健康影響についてポリネシア人が得られる情報は、フランス政府、とくにフランス国防省から出される「フランスの核実験はクリーンで、影響はない」とするものがほとんどで、多くのポリネシア人は不信感を払拭できないのが実情です。反面、放射線被害の実相が正確に知られていないために、自分が苦しんでいる健康問題と過去の放射線被曝と関係があるかも知れないとは思いもよらない元核実験労働者や、逆にあらゆる健康障害を核実験と結びつけ、自らや子や孫の健康への不安や、罪悪感に苛まれているポリネシア人も少なくない現実もあります。このため、放射線の健康影響に関する科学的な情報が、核実験を行なったフランス当局ではなく、この問題について利益相反のない第三者的立場にある専門家から提供されることがポリネシア住民の間で望まれてきました。
2016年7月に「フランス核実験50周年記念事業」が仏領ポリネシアで行なわれたさいに、日本から秋葉忠利前広島市長、振津かつみ医師(放射線医学)、大島秀利毎日新聞論説委員、真下俊樹國學院大学講師の4名が参加しました。現地市民団体との交流のなかで、秋葉氏より「『広島のおばあちゃん』というリーフレットがあるので、そのフランス語版を作成して仏領ポリネシア市民に配布してはどうか」との提案があり、現地市民団体からも「是非お願いしたい」との期待が表明されました。『広島のおばあちゃん』(鎌田七男・広島大学名誉教授著)は、広島で被爆した「おばあちゃん」が、学童の質問に答える形で原爆の実相を語ると同時に、投下された原爆による放射線の健康影響を、科学的根拠に基づいて、中高校生にも分かりやすく解説した本です。上記のような現在の仏領ポリネシア市民の必要にも合致していることから、帰国後、具体化に向けて動き出しました。
2016年6月28日E.フリッチ仏領ポリネシア大統領と面談:写真右からB.バリオ前DSCEN部長(故人)、振津かつみ医師、E.フリッチ仏領ポリネシア大統領、秋葉忠利前広島市長、真下俊樹國學院大学講師、R.オルダム仏核実験被害者団体「モルロア・エ・タトゥ」代表
- プロジェクトの経緯
必要な資金については、公益財団法人東芝国際交流財団から助成を受ける可能性があることがわかり、プロジェクトの受け皿として秋葉氏が顧問を務めるNPO法人「文化の多様性を支える技術ネットワーク」(理事長:山崎芳男早稲田大学名誉教授)に引き受けてもらえることになり、東芝国際交流財団への助成金申請も同NPOで行っていただけることになりました。
仏語版『広島のおばあちゃん』の版権等について、著者の鎌田氏に相談した結果、本プロジェクトを契機に、氏の主催する「シフトプロジェクト」が仏語版の製作を行い、完成した本を「文化の多様性を支える技術ネットワーク」が東芝財団からの助成金の許す範囲で買い取り、仏領ポリネシアへ送付することになりました。当初、2000部を購入する計画でしたが、諸経費の関係で最終的に1000部を送ることになりました。
フランス語への翻訳は、フランソワーズ・ジャン東京工業大学リベラルアーツ研究教育院外国人教員が行いました。翻訳作業はおもに日本語版を底本とし、随時英語版を参照する形で行われました。また、同仏語版がより長く読まれるよう、原著者との合意の上で一部内容をアップデートするとともに、フランス語読者の理解を助けるための各種情報を追加しました。最終的な訳文を日本語原文とチェックする作業を真下が行いました。翻訳完了は、当初2017年4月頃の予定でしたが、訳者の健康上の都合により、予定から約半年遅れの2017年9月になりました(仏語版タイトルはLa vielle dame d’Hiroshima —
Éducation à la paix)。その後、2017年末に版下作成、校正、索引作成等の最終作業が終わり、翌2018年1月に印刷が完了しました。
仏語版『広島のおばあちゃん』La vieille dame d’Hiroshima 表紙
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ここからが読みどころなのですが、次回をお楽しみに!!
[2018/7/7 イライザ]
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