無抵抗降伏論・その4 ――豪雨災害からの教訓 (13)――
無抵抗降伏論・その4
――豪雨災害からの教訓 (13)――
「自衛隊 ⇒ 災害救助隊」というパラダイム転換のための第一段階として、森嶋通夫氏の『日本の選択』の論理的帰結も加えて、次の三つの命題を説明しています。
(A) 軍隊としての自衛隊の適正規模は「ゼロ」である。
(B) 「国防」のための手段は、軍事力といった「ハードウェア」ではなく、外交や経済・文化等の分野における国際的な活動、つまり「ソフトウェア」ではなくてはならない。
(C) 人、知恵、金をこうしたソフト面に注入して国内では「防災省(仮称)」を創設し、防衛省は廃止するとともに、世界貢献をするために、国際的に活躍する「サンダーバード」のような組織を「防災省」内に創設する。
今回は、(B)の中でも、
(ア) 戦争を仕掛けられても、「降伏」する方が、その後の社会に取ってはより良い選択である。
に続いて、
(イ) ソフトウェア的国防にこそ、力がある。それを示している事例を示す。
です。
① 既に、第二次世界大戦におけるイギリスの軍備とその後の勝利の原因をどう考えるのかについて、森嶋氏は「軍事力」という「ハードウェア」面で勝ったというより、「ソフトウェア」面での「政治力」の勝利だと判断しています。
② 「歴史の教訓から学ぶことは大事である。第二次世界大戦から学ぶべきことは、最初は劣勢ではあっても、ヨーロッパのほとんど全ての国を自分の陣営に引き止め、さらにアメリカまで巻き込み、ソ連すら参戦させたことである。イギリスに勝利をもたらしたのは、軍事力ではなく、この政治力である。」
③ さらに、ポツダム宣言を受諾して降伏した日本の場合、「無条件降伏」ではなく、唯一の条件として日本側が提示したのが「国体の護持」だったと解釈されていますが、連合国側はその条件を認めたとは考えていなかったようですので、天皇の戦後の位置付けはかなり危ういものだったようです。その点について森嶋氏は、実質的に国体の護持は守られたと考えて良いだろう、そしてそれを可能にしたのは「ソフトウェア」的な実績だったと言っています。
④ 「しかし最初は天皇の地位は極めて危なかった。戦争犯罪人に指定される可能性すらあったのである。けれども、もし天皇が逮捕されたなら、日本では大規模な叛乱が起こり、日本に大部隊の占領軍を長期間駐留させても、なおかっ、占領業務は順調に行なわれえないであろうという理由で、天皇は免責された。この他にグルー国務次官(元駐日米大使)が天皇制存続論者で、彼がワシントンで日本を救う役割をしてくれたことや、さらに天皇御自身の皇太子殿下時代のイギリスでの交遊が、多くのイギリス人によって高く評価きれていたことが、日本に「国体護持」をもたらした重要な要因に数えられている。
これらの要因の内、最後の二つは、国際親善、国際交流、相互理解が強力な防衛手段になり得ることを明白に証明している。もっとも最初の要因、すなわち「天皇を逮捕すれば日本で叛乱が起こり、米軍自身が困るから天皇を逮捕しなかった」という推論は、関、猪木氏の「抑止力の理論」の一種であるが、彼らの理論とちがうところは、それが武器抜きの抑止力の理論であるという点である。当時の日本に武器がないことは、誰よりも占領軍自身が知っていた。武力の裏付けがなくとも抑止力は充分作用したというこの貴重な経験を、われわれは決して忘れてはならない。逆にあの時、徹底抗戦していたなら、国体護持どころか日本は全く滅亡していたであろう。」
ジョセフ・グルー大使・国務次官
(ウ) その具体的なアイデアとして、森嶋氏は次のような提案をしています。論争相手の関氏や猪木氏が当時の防衛費について、GNPの0.9%だったものを引き上げて3.4%にすべしとの主張を受けて、それでは、増加する2.5%をどう使うのかという点についてのものです。
① 「これだけの金をタンクや飛行機やミサイルの購入に費消するのでなく、私が主張している広い意味での防衛費、すなわち文化交流や経済援助や共産諸国との関係の改善や、欧米諸国との間の貿易黒字差額の縮小用に追加するならば、単に共産固との関係だけではなく、アメリカ、EC、東南アジア諸国との関係も非常に良好になるに違いない。日本は積極外交をしやすくなり、ソ連は日本の仲介能力を評価し、日本はそれだけ安全になる。
しかし、もし逆にこの2.5%で軍備を増強すれば、平和の風船は一挙に破れてしまうかも知れない。2.5%を算出する際の分母になる日本のGNPはそれほど大きいのである。」
となると、次の結論はほぼ自明なのですが、もう少し具体的にどのような活動をするのか、そして課題はどこにあるのか等、次回以降、詳しく考えて見たいと思います。
(C) 人、知恵、金をこうしたソフト面に注入して国内では「防災省(仮称)」を創設し、防衛省は廃止するとともに、世界貢献をするために、国際的に活躍する「サンダーバード」のような組織を「防災省」内に創設する。
[2018/7/22 イライザ]
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無抵抗降伏論=無抵抗幸福論
であるともいえそうですね。
そんなパラダイムシフトが起こりつつあるのは、
インターネットの力によるのでしょうね。
投稿: コウフク | 2018年7月23日 (月) 12時17分
「コウフク」様
コメント有り難う御座いました。
うまいっ! 座布団一枚です!!
投稿: イライザ | 2018年7月24日 (火) 23時24分