犯罪を犯してはいけない ――重言でないと伝わらないこともある――
犯罪を犯してはいけない
――重言でないと伝わらないこともある――
これまでも何度か繰り返してきましたが、「馬から落ちて落馬した」とか「注目を集める」といったような、無駄な、その上、美しいとは言えない表現に対しては、違和感のあることを私たちが発言し続けることで、より美しい日本語に満ちた社会ができて行くことを信じています。そう言った後で、正反対の主張をするのは気が引けますが、それでも現実には、明らかに重言だと言われている言葉、しかも、変換ソフトが必ず疑問符を付ける表現でも、正確に意味を伝えるためには使わざるを得ないものがかなりあります。今回はその一つを取り上げたいと思います。
それは、「犯罪を犯す」です。「犯」の字が既に使われていますので、「犯す」は重なってしまう、だから「犯罪を行う」とか「罪を犯す」に言い換えろという人もいます。でも、「罪を犯す」と「犯罪を犯す」では、意味が違います。
「罪を犯す」の方は、道徳的な意味合いが強く、極端な場合には、心の中で罪深いことを考えただけで「自分は罪を犯してしまった」、と思ってしまう人がいてもおかしくはない表現です。こんな場合に、「犯罪を犯してしまった」と思い込んで反省する人は多くはないでしょう。
対して、「犯罪」の方は、法律的に罪であると規定されていることがその意味ですので、それを犯すということは法律違反をすることです。
さらに、ある行為が「犯罪」であるためには、事実を元にそれが法律違反であることが立証されなくてはなりません。
今、世間を賑わしている日大のアメフト部の選手による「Kwansei Gakuin」 (ローマ字の綴りが「Kansei」でないこと、「西」が「せい」であるのは、漢音を採用しているからです。関心のない人にはどうでも良いことなのかもしれませんが) 大学の選手に対する傷害事件について、この視点を採用すると大切なことが分ってきます。
日大の内田正人監督は、「責任は全部自分にある」「だから辞任する」ということは言っていますが、何故、傷害事件が起きたのかについては何も語ろうとはしていません。
しかし、この事件が「罪を犯した」という内容ではなく「犯罪を犯した」という範疇の出来事なのだと、多くの人がビデオを見て感じているのですから、それが真実なのかどうかを確かめる必要があります。当事者である内田監督が自発的に説明するのが一番手っ取り早いのですが、司法の場では、「自分に不利になる証言をしなくても良い」そして「自分に不利になる証拠を出さなくても良い」という原則がありますから、それも尊重されなくてはなりません。
となると、真実を究明するためには、被害者が被害届を出して、裁判の場でたたかう必要がありそうです。そして、最新のニュースでは、被害者の父親が被害届を出したようですので、その方向に舵は切られています。
そして、裁判になれば、より真実に近付ける可能性が大きくなります。タックルをした選手 (A選手と呼んでおきましょう) が、いやいやながら、「NO」とは言えない監督に強制されてタックルをしたのか、それとも、自分の判断で、あるいは監督に「そんなことはしてはいけない」と強く教えられていたにもかかわらず犯行に及んだのかでは、犯罪の性質が全く違います。また監督自身が刑事責任を問われるかどうかも違ってきます。
監督や大学の権威が怖くて、真実を述べられなかったA選手が、刑事罰を前に、真実を話す可能性は大きくなるでしょうし、他の選手も、A選手だけが人身御供にされてしまう状況だと判断すれば、正直な証言をする可能性も増えるのではないでしょうか。
「犯罪」で大切なのは、裁判の結果として、法律違反が行われたという事実が確認されることです。事実確認なしでは「犯罪」かどうかの認定はできないのです。事実を述べずに「責任は自分にある」と述べることの無責任さは正にここにあります。そしてそれは、自らが犯罪行為に手を染め、自らの不利益を避けるために黙秘していることと、ほぼ同じことになります。
あるいは、全く別の可能性のあることも指摘しておかなくてはりません。内田監督が暴力を憎む素晴らしい監督だ、ということが明確に証明される結果になる可能性もあります。
「犯罪を犯す」という表現の背後には、こうした状況が存在します。頭の中の妄想だけで「罪を犯す」ことになるケースとの違いはお分り頂けたと思います。重言も大切な場合があり、責任を取ると言っても、真実が明らかにならないままでは責任を取ったことにはならない点も伝わったでしょうか。
でも、内田監督の場合は、「責任を取って辞任する」と言っているのですから、何も説明せずに、嘘の上塗りを重ね、辞めようともしない安倍内閣よりは、チョッピリましだと言っても良いのかもしれません。
[2018/5/21 イライザ]
[お願い]
文章の下にある《広島ブログ》というバナーを一日一度クリックして下さい。
コメント
« 同じお題で書きましょう・「口癖」 ――「ことによると」と「Actually」―― | トップページ | アメフトと特攻隊 ――若者を欺いてはいけない―― »
「スポーツ」カテゴリの記事
- オリンピックの本を執筆します(2019.07.07)
- 習いごとは柔道 ――同じお題で書きましょう―― (2019.06.20)
- 暑い中のアルティメットの練習(2019.06.01)
- アメリカの高校のプール ――同じお題で書きましょう――(2018.07.21)
- アメフトだけがスポーツじゃない ――そして大学も原点に戻って欲しい――(2018.05.25)
「言葉」カテゴリの記事
- アメリカを見ずに広島は語れない ――「パール・ハーバー」⇒原爆という「岩盤的」信念を守りたい人々―― (2023.09.25)
- 加藤友三郎の高潔さ ――名誉・権力・金・地位等とは無関係―― (2023.07.08)
- 断酒の障害が分りました ――甘い言葉でした―― (2023.07.04)
- メモワール作成のためのインタビューでした ――30年も前を思い出して懐かしく楽しい一時になりました―― (2023.07.02)
- 採決は本当にあったのか ――6月8日の参院法務委員会採決に30年前の「採決」が重なりました―― (2023.07.01)
「教育」カテゴリの記事
- 数学を学ぶとは・教えるとは ――「数学人の集い」の楽しみ方―― (2023.06.11)
- 学校でとんでもないことが起きているようです。 ――生徒や学生はどうすれば良いのでしょうか―― (2023.06.08)
- 大学のブラック・ビジネスはいつ終わるのか ――入学しない人から入学金を取るのは止めるべきでは―― (2023.03.28)
- 広島市長選挙 ――唯一の争点は『はだしのゲン』の復活です―― (2023.03.27)
- 陸軍大将 山下奉文の遺書 ――現在の政治批判としても通用します―― (2023.03.25)
「若者」カテゴリの記事
- 数学を学ぶとは・教えるとは ――「数学人の集い」の楽しみ方―― (2023.06.11)
- 学校でとんでもないことが起きているようです。 ――生徒や学生はどうすれば良いのでしょうか―― (2023.06.08)
- マスコミに関心を持って頂き感謝しています ――お陰様で、G7広島サミットの全体像が浮き彫りになってきました―― (2023.06.02)
- 今日発売の『日刊ゲンダイ』を御覧下さい ――私論・G7広島サミットの総括が掲載されています―― (2023.06.01)
- 日記を付けなくても良いと考えた理由 ――去年も同じ日に日記のことを書いています―― (2023.04.23)
コメント
>何も説明せずに、嘘の上塗りを重ね、辞めようともしない安倍内閣よりは、チョッピリましだと言っても良いのかもしれません。
目くそと鼻くそくらい違いそうですね。
「⑦パパ」様
コメント有り難う御座いました。
ピッタリの表現、有難う御座います。今日は、愛媛の文書を否定しているようですし。年貢の納め時、も分らないようです。
今回、被害者の親は大阪では誰でも知っている有名な維新の市議で、これが加害者の親なら散々叩かれると思いますが、顔を出して会見までしても、そのことが報道には一切出てこないことに違和感があります。
「関西パパ」様
コメント有り難う御座いました。
ネット上では、このことが取り上げられ始めているようです。加害者選手の記者会見もあるようですので、全体像はハッキリするでしょう。
大学は教育の場でもありますので、若者の将来を大切にしたいですね。
10ヤード進む事を競うのに、15ヤード減のペナルティーを連続で2回やったのに、何の注意も交代もない。
明らかに作戦通りという事ですね。
国が乱れる時は、政治が腐敗した時ですから、内閣と官僚が腐っているのですから、民間の力のある人が同じことをしても不思議ではないですね。
嘘、隠す、改竄し、真実を語らずに辞める。
全く同じですね。
宮川選手の記者会見を見ましたが、
これはかなり悪質なパワハラですね。
日大の体質ですね。
宮川選手は爽やかな印象を残しましたが、
しかし、
ちょっとアホだともいえますね。
「やんじ」様
コメント有り難う御座いました。
安倍政治が周回遅れの世界観を日本中に撒き散らした結果だとも言えそうです。その点についても詳しく検証して行きましょう。
「パワハラ」様
コメント有り難う御座いました。
「アホ」と言うのはちょっと可哀相だと思いますが、比較的容易に力で捻じ伏せられる選手を選んで「実行犯」にしたのではないでしょうか。
« 同じお題で書きましょう・「口癖」 ――「ことによると」と「Actually」―― | トップページ | アメフトと特攻隊 ――若者を欺いてはいけない―― »
>何も説明せずに、嘘の上塗りを重ね、辞めようともしない安倍内閣よりは、チョッピリましだと言っても良いのかもしれません。
目くそと鼻くそくらい違いそうですね。
投稿: ⑦パパ | 2018年5月22日 (火) 10時11分
「⑦パパ」様
コメント有り難う御座いました。
ピッタリの表現、有難う御座います。今日は、愛媛の文書を否定しているようですし。年貢の納め時、も分らないようです。
投稿: イライザ | 2018年5月22日 (火) 10時38分
今回、被害者の親は大阪では誰でも知っている有名な維新の市議で、これが加害者の親なら散々叩かれると思いますが、顔を出して会見までしても、そのことが報道には一切出てこないことに違和感があります。
投稿: 関西パパ | 2018年5月22日 (火) 12時29分
「関西パパ」様
コメント有り難う御座いました。
ネット上では、このことが取り上げられ始めているようです。加害者選手の記者会見もあるようですので、全体像はハッキリするでしょう。
大学は教育の場でもありますので、若者の将来を大切にしたいですね。
投稿: イライザ | 2018年5月22日 (火) 14時21分
10ヤード進む事を競うのに、15ヤード減のペナルティーを連続で2回やったのに、何の注意も交代もない。
明らかに作戦通りという事ですね。
国が乱れる時は、政治が腐敗した時ですから、内閣と官僚が腐っているのですから、民間の力のある人が同じことをしても不思議ではないですね。
嘘、隠す、改竄し、真実を語らずに辞める。
全く同じですね。
投稿: やんじ | 2018年5月22日 (火) 15時42分
宮川選手の記者会見を見ましたが、
これはかなり悪質なパワハラですね。
日大の体質ですね。
宮川選手は爽やかな印象を残しましたが、
しかし、
ちょっとアホだともいえますね。
投稿: パワハラ | 2018年5月22日 (火) 19時25分
「やんじ」様
コメント有り難う御座いました。
安倍政治が周回遅れの世界観を日本中に撒き散らした結果だとも言えそうです。その点についても詳しく検証して行きましょう。
投稿: イライザ | 2018年5月22日 (火) 20時51分
「パワハラ」様
コメント有り難う御座いました。
「アホ」と言うのはちょっと可哀相だと思いますが、比較的容易に力で捻じ伏せられる選手を選んで「実行犯」にしたのではないでしょうか。
投稿: イライザ | 2018年5月22日 (火) 20時53分