朝鮮半島出身被爆死者数は「数千人」なのか?
朝鮮半島出身被爆死者数は「数千人」なのか?
=「講演とシンポジウム」を開催=
3月3日、広島市中区地域福祉センターで「朝鮮半島出身被爆死者数は『数千人』なのか?―いまだ明らかでないその実態を考える―」という「講演とシンポジウム」が開催されました。その模様を報告しながら、この問題を考えてみたいと思います。
今なぜ、この「『講演とシンポジウム』を開催することになったのか」を、主催者の「韓国の原爆被害者を救援する市民の会・広島支部」は、案内チラシには次のように書いています。全文を引用します。
「2016年5月27日、オバマ大統領が広島を訪問し、アメリカ人被害者・日本人被害者と並び朝鮮半島出身被害者を追悼するスピーチを行った。朝鮮半島出身者に触れたことは好意を持って受け止められたが、その中で被爆死亡者数を『何千人』と述べたことに対する波紋が拡がった。この数字に疑問を抱き多方面に働きかける中で、この根拠が広島市の公式見解にあることがわかり朝鮮半島出身者の被爆に関わる三団体で広島市と協議を重ねた結果、資料が不十分で公式見解と言えない実態が明らかになった。被爆72周年を経て開催される講演とシンポジウムでその実態に迫る。」
一昨年のオバマ大統領の広島での演説が、改めて私たちに「朝鮮半島出身被爆死者数は?」という問題に向き合わせるきっかけとなったことがわかります。
「講演とシンポジウム」では最初に、韓国で「強制動員被害調査」の中心的役割を果たし来られた許 光茂(ホ グァンム)さんの「広島・長崎朝鮮人の原爆被害について」の講演が行われました。その内容は、自らがかかわってきた韓国政府総理大臣所属「対日抗争期強制動員被害調査及び国外強制動員犠牲者等支援委員会」が2012年12月に出した報告書「広島・長崎朝鮮人原爆被害に課する真相調査」をもとに「解明できたこと、できなかったこと」が詳しく報告されました。報告は、戦時期における朝鮮人強制動員の実態とそれにともなう原爆被害の実態を資料がある限りの実数を明らかした貴重なものでありました。そして例えば、広島には、半島の南部からの出身者が多く、長崎には、北部出身者が多かったことなど、私自身が新しく知る事実もたくさんありました。しかし、この実態調査はあくまでも「強制動員」によって被害を受けた人たちの実態に限ったものとなっていることは当然のことです。ですから、その後に行われたパネルディスカッションでパネラーの権俊五さん(在日韓国人被爆二世)が「先ほどの報告では、『韓国の広島』と言われる陜川(ハプチョン)の被爆者の姿が出てこない」と指摘されたように、日本による植民地支配以来、何らかの理由で渡日し居住、生活していた朝鮮半島の出身者の数は含まれていません。
続いて行われたパネルディスカッションは、長く在韓被爆者の支援活動を続けてこられた豊永恵三郎さんの司会・進行で進められ、まず先にも触れた権さんが、在日韓国人被爆者の立場から、先人たちが取り組んできた明らかにしている1970年4月に韓国人原爆犠牲者慰霊碑除幕式で発表された「朝鮮人被爆者:35,000人、死亡者数27,000~28,000人」を報告。続いて金鎮湖広島県朝鮮人被爆者協会理事長は、朝鮮被爆者協会として示してきた「被爆者数48,000人、一年以内に死亡したもの30,000人」という実態の報告。付け加えて「在朝被爆者の実態」にも触れ、支援が急がれていることを強調されました。最後に韓国の原爆被害者を救援する市民の会会長の市場淳子さんから、「総被害者50,000人 うち死亡者30,000人」という韓国原爆被害者協会の見解が紹介されました。付け加えて、「韓国国内の関連する資料館でも、その数字が示されていなかったり、違いがある」とことにも触れられました。ちなみに陜川には、昨年8月6日に韓国では初めてとなる「原爆資料館」が開館されていますが、ここでは韓国原爆被害者協会が示した数字が掲載されているようです。
当日会場で配布された資料には、この他にも広島市に対する公開質問状とそれに対する昨年9月22日付の広島市の回答などが含まれていましたが、別の機会に報告できればと思います。
私の感想です。許さんは講演の中で、「この実態調査で大きな力となったのは、生存者の証言です」と指摘されました。被爆から73年目が経過する今、その真実に迫ることは非常に難しいと思いますが、それでも生存者がおられる間に「少しでも真実に近づく努力を続けること」が、大切なことだと思います。「朝鮮半島出身被爆者数は『数千人』なのか?」という問いかけに、明確な答えを見出すことはできませんでした。その一番の原因は、当時広島市に在住していた朝鮮半島出身者の具体的な人数を示す資料が、今のところ明らかになっていないからです。そしてもう一つは、いつの時期までに亡くなった人たちを「被爆死」とするかも明確になっていないように思います。こうした様々な難しい課題はありますが、私たちがこの問いかけに「どう応えていくのか」「応えるために何をすべきか」を改めて考えさせられる「講演とシンポジウム」でした。
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