『生類憐みの令――道徳と政治』 ――追悼 板倉聖宜先生 (2)――
『生類憐みの令――道徳と政治』
――追悼 板倉聖宜先生 (2)――
2018年2月7日に逝去された板倉聖宜先生が手掛けた分野の一つ、そして私自身が大きな影響を受けた歴史や社会の見方についての名著には、『生類憐みの令――道徳と政治』と『差別と迷信――被差別部落の歴史』(共に仮説社)、さらには『禁酒法と民主主義――道徳と政治と社会』があるのですが、恐らく知られていない事実も多く盛り込まれている『生類憐みの令――道徳と政治』を御紹介しましょう。
「生類憐みの令」とは、江戸時代の第5代将軍徳川綱吉 (1646~1709) が発した一連の法令の総称で、特に犬を大切にすることが強調されたと、私たちは教わってきました。そのため、綱吉は「犬公方 (いぬくぼう)」というあだ名まで付けられました。このことは御存知かもしれません。ちなみに、「公方」というのは征夷大将軍の別称です。
By 日本語: 土佐光起
English: Tosa Mitsuoki ("歴代徳川将軍の肖像") [Public domain or Public domain],
via Wikimedia Commons
綱吉が何故「生類憐みの令」を出すに至ったのかという理由として「俗説」では次のようなストーリーが流布されています。『生類憐みの令』の説明を少し変えて引用します。
世継ぎを病気で失った綱吉は,何とか子どもが欲しいと思っていましたが、隆光という僧侶が,「上様に子どもができないのは,前世で犯した殺生の罪の報いです。ですから生類、つまり生き物を憐れんで殺さないようにするのが一番大切です。特に上様は戊年生まれだから犬を大切にしなさい」と勧め、その結果、綱吉は「生類憐みの令」という一連の法令を出し,犬を殺したり傷つけたりしたものを厳罰に処するようにした。
その結果、犬を虐待したことを理由に島流しや死刑といった重い刑罰を下された人も多く、今でも「悪法」の典型だ、と考えている人たちも多くいます。
その一方、「生類憐みの令」文字通り現代的に訳してみると、「動物愛護法」ということになるのですから、世界史的に見ても、17世紀にそんな素晴らしい法律があった日本は世界に誇る動物愛護国だったという解釈も成り立つはずです。
この「生類憐みの令」を取り上げる板倉聖宜先生の姿勢はと言うと、裏表紙の言葉が分り易いと思います。
道徳的にせよ政治的にせよ,正しいこと,正義を広め実現していくには,社会の運動法則をきちんと見極めてかからないと,とんでもない逆効果をおこしかねません。
本書は,問題を予想しながら楽しく読み進むうちに,「生類燐みの令」の本当のすがたが,はっきりと理解できるようになっています。また,「生類憐みの令」という歴史的事件の実態を追っていくことによって,道徳や政治の問題を社会の法則とからめながら考えることができるようになるでしょう。
また,学校での授業ですぐに使えるように「授業書」も収録してあります。本書があれば,道徳や在会科の時間にすぐに授業にかけることができます。
現代語の訳は「動物愛護法」なのですから、犬以外の動物も保護の対象になっていたと考えらますが、本当はどうなのでしょうか。「予想」しながら考え、そして資料に当って事実を確認する板倉方式の特徴である「問題」を一つ二つ見てみましょう。問題の前の解説も引用します。
魚の中でも<生きたまま売られていて比較的大衆的な食べ物>もありました。ウナギとドジョウです。ウナギとドジョウは生きたものをザルなどに入れて運び歩いて,注文があるとお客の目の前で生きたまま料理したのです。これも残酷といえば残酷です。[中略]
〔問題6 )
では,このときに,ウナギやドジョウを生きたまま売ることは許されたでしょうか。どうでしょう。
予想一一ウナギやドジョウを生きたまま売ることは,
ア.禁止された。
イ.例外とされて,許可されていた。
答は、バナーの後に。
今でもそうですが、江戸時代も犬は身近な動物でしたから、犬を大切に、という綱吉の政策が多くの市民に影響を与えたことは事実です。そして、その実を上げるために綱吉は「犬小屋」を設置するまでになりました。そこで問題です。
〔問題4 )
綱吉は,いまの東京都中野区のJR線中野駅近くに,幕府直営の犬小屋を建てさせて,江戸中の野犬をそこに集めて育てることにしました。
それなら,その犬小屋ができてまもなくして,その幕府
の直営の犬小屋に収容された野犬は何匹くらいになったと
おもいますか。
(参考〉当時の江戸の町人の人口は40~50万人でした。
予想
ア· 100匹ぐらい
イ· 1000匹ぐらい
ウ· 1万匹ぐらい
エ 10万匹ぐらい
オ.その他( 匹くらい)
答は、バナーの後に掲載しますが、『生類憐みの令』という本の楽しさを少しは伝えることができたでしょうか。
こんなに楽しい本を子どもたちが小さい頃に、どの予想が正しいのかをワイワイガヤガヤ話しながら、一緒に読むことができなかったことは、子どもたちに申し訳なかったと思っていますし、私自身そんなに楽しい時間を味わえなかったことを残念に思っています。
先生の著書は仮説社でお求めになれます。アマゾンでも扱っています。それと、先生のお弟子さんのサイトだと思いますが、「板研情報局」でも役に立つ情報を読むことができます。
[2018/3/8イライザ]
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[答] ウナギやドジョウももちろん禁止されていました。でもそれでは生きて行けない魚屋たちは、例えば「アナゴ」と称して売るという手段で何とか法の目を逃れていたようです。
次の問題ですが、『徳川実紀』によると「エ」の10万匹です。別の資料では、8万2000匹はいただろうと書かれているとのことです。
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