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2018年1月 6日 (土)

黒人差別に抗議したフットボール・スター ――キャパ―ニック選手の投げ掛けた波紋――


黒人差別に抗議したフットボール・スター

――キャパ―ニック選手の投げ掛けた波紋――

 

2003年、マンハッタンビル・カレッジの女子バスケットボール・チーム選手、トニー・スミスはゲームの始まる前の国歌の吹奏の際にアメリカ国旗に背を向け、イラク戦争反対の意思表示をしました。それから10年以上経っていますが、20168月には、サンフランシスコ・フォーティ・ナイナーズのクォーターバック、コリン・キャパ―ニック選手が黒人差別に抗議する行動を取りました。国旗掲揚・国歌吹奏の際に起立はしないで最初は座り込んでいたのですが、後にスタイルを変えその後、地面に膝を着く姿勢を貫いたのです。

 

これは、相続く白人警察官による黒人射殺事件、そしてその後警官が不起訴になったり、仮に裁判になっても、白人警官に有利な結果になっていることに端を発しています。

 

こうした事実は、2014年にホルダー米司法長官が公表した報告書に盛り込まれています。

 

産経ニュースの報道によると、「ホルダー長官が4日発表したクリーブランドの警察に関する報告書は、過剰な発砲など「不合理かつ不必要な武器使用」があったと認定。また、「過剰な権力行使は散発的なものではない」として組織の体質自体に問題があると指摘した。

 

同報告書に記載された事例は、201013年の約600件。この中には、警官が1211月、丸腰の黒人住民2人が乗る車と約35キロにわたってカーチェイスを繰り広げた後、車両に約140発の実弾を撃ち込み、2人を死亡させたという事件も含まれている。同警官は訴追された。

 

その他、この地図が示すように、アメリカの南西部や山岳部の州では特に、警察官による殺人事件の率が高いようです。

 

               

Map_of_killings_by_law_enforcement_

             

By Lauren Thibert (Own work) [CC BY-SA 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0)], via Wikimedia Commons

 

さて、キャパ―ニックがこの行動を始めてすぐ、2016年の9月にオクラホマ州で起きた白人警官による黒人射殺事件も引き金になり、多くのプロフットボール選手がキャパ―ニックを支持して、国旗掲揚・国歌吹奏の際に座り込むか、膝を着くといった行動に出るようになりました。その他のスポーツでは、サッカー、野球、バスケットボール、バレーボール、アイスホッケー等の選手が同様の行動を取るようになりましたし、プロ以外の場でも、大学生や高校生のアスリートたちがそれにジョインしました。

 

マスコミや企業でも、キャパ―ニック支持の声は多くありましたが、同時に選手たちの中にも、また市民の中にも「国旗や国歌に対する侮辱だ」と考え、キャパ―ニック批判の声も広がり、支持か糾弾かという分裂が至る所で見られるようになりました。

 

しかし、キャパ―ニックと共に闘おうとする声は一向に収まらず、トランプ大統領は就任後の9月に、「国歌吹奏の際に起立しないプレーヤーは首にすべし」という趣旨のツイートを何度も発しました。それに対して、プロリーグNFLの選手たち、それもほとんどのチームのプレーヤーたち少なくとも200人は、抗議のために、国歌吹奏の際には膝を着いたり、ロッカールームに止まってその場には参加しないという行動を取る結果になりました。

 

フットボールチームのオーナーたちの中には、トランプ大統領に巨額の寄付をした人もいますので、トランプ支持派も多いのですが、選手たちの表現の自由を認めるオーナーもいて、ここでも両極端に分れることになりました。

 

さて、キャパ―ニック選手に戻ると、彼は、2016-2017のシーズンを終えてフリー・エージェントになりましたが、その後、どのチームからもオファーがなく、NFLのチーム・オーナーたちが談合によって彼を排除していると見られても仕方がない状態が続いています。キャパ―ニック選手は、NFLを談合により彼自身の働く権利を奪った廉で訴えています。

 

今年になって早々、その訴訟の手続きが始まっています。シャバーニっくとともに行動する多くの選手たちの熱は収まらず、同時にキャパ―ニックをシンボルとする人権派、リベラル派に対する攻撃も一層激しさを増してきています。

 

経済的格差によってアメリカという社会が分断されていることは周知の事実ですし、独裁政治か民主主義かという抗争も激しさを増しています。人種を初めとして様々な線で区分けをした結果、少数派としての立場に追いやられた人々の切り捨ても容赦なく行われています。

 

そんな中、「政治とは一線を画す」が金科玉条であるとされてきたスポーツの世界でも、その考え方そのものが実は非常に重い政治性を持つ事実に気付いた人々が声を上げ始めているということなのではないでしょうか。そして既得権を持つ人々はそれを守ろうと躍起になり、その結果としての分断が起っています。その中で良識派が闘い地歩を固め、多くの人に勇気とエネルギーを与えています。今後の展開がどうなるのか予断を許しませんが、トランプ政権そのものに大きな打撃を与え得るほどの影響力をスポーツ界は持っています。

 

それと対照的に日本の状況を考えると、安心する気持にはなれませんが、スポーツ界そのものの体質も問われているような気がするのは私だけでしょうか。

 

 

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