世界を変えたアスリート ――モハメッド・アリが生れてから75年――
世界を変えたアスリート
――モハメッド・アリが生れてから75年――
年の瀬になって、今年一年の出来事が色々頭に浮びます。良いことも悪いことも沢山ありましたが、大相撲の暴力事件とその後の混乱はまだ続いています。スポーツ界のヒーローたちは、多くの子どもたちの憧れの的であり、大きくなったらこんな人になりたいという目標にもなっています。
ですから、彼ら/彼女らの社会的・道義的な責任は大変大きいのですが、もちろんスポーツの世界で秀でた仕事をする人全てが聖人君子ではありませんし、その必要もないでしょう。しかし、彼ら/彼女らの影響力の大きさは無視できませんし、また多くのスポーツ・ヒーローたちが素晴らしいロール・モデルとして子どもたちのお手本になってきたことを思い起すと、やはり期待をしてしまいます。2003年の広島市の平和宣言には、次のような期待の言葉が述べられています。
世界中の人々、特に政治家、宗教者、学者、作家、ジャーナリスト、教師、芸術家やスポーツ選手など、影響力を持つリーダーの皆さんに呼び掛けます。いささかでも戦争や核兵器を容認する言辞は弄(ろう)せず、戦争を起こさせないために、また絶対悪である核兵器を使わせず廃絶させるために、日常のレベルで祈り、発言し、行動していこうではありませんか。
そして今思い出しているのが、ボクシングのヘビー級チャンピオンだったモハメッド・アリです。昨年の12月にも取り上げていますが、1942年生まれで、昨年亡くなっています。生きていれば今年は75歳です。ボクサーとして、また全てのアスリートの象徴として良く知られていますが、アメリカにおける市民権運動、そしてベトナム戦争反対運動、世界平和のための発言と行動でも、世界を引っ張る存在でした。
By
Ira Rosenberg [Public domain], via Wikimedia Commons
恐らく一番良く知られているのは、1966年に、アメリカの徴兵基準が緩められ、アリもほぼ真っ先に召集される事態になった時、「私は、ベトコンに何の恨みもない。だから、ベトナムには行かない」と、徴兵を忌避する態度を公にしたことでしょう。その後、テレビ番組や新聞・雑誌等のインタビュー、各地での講演等で同じ趣旨のことを力強く訴えています。
マスコミの前での次の言葉は有名です。
私はベトコンと喧嘩をしているのではない。私の故郷ルイビルで、黒人が基本的人権を認められず犬のように扱われているのに、何で制服を着て、我が家から一万キロも離れたところで、肌の茶色の人たちに爆弾を落し、また銃で撃って殺さなくてはならないのだ。
また、ある学生集会では次のように述べています。
私の敵は白人だ。ベトコンでも、中国人でも日本人でもない。私が自由を欲しいときにそれに反対する奴らだ。私の欲しい正義に反対する奴ら、そして平等を要求する私に反対する奴らだ。アメリカ国内で、私の信教の自由のためには闘わず、私を外国に送って戦争をさせる。でも、このアメリカで私の権利のためには立ち上がってくれないお前たちだ。
しかし、アリは逮捕され、下級裁判所では有罪判決を受けます。ボクシングのタイトルも剥奪され、3年間は国内外で試合する権利さえ奪われます。1971年には最高裁判所で無罪を勝ち取りますが、ボクサーとして最も活躍できたであろう3年間を棒に振らなくてはならない過酷な試練に晒されます。
あまりにも多くのものを失ったのではないかという質問に彼は次のように答えています。
私は何も失っていない。それどころか、私は多くのものを得ている。私の心は平穏だ。そして魂にも平和が宿っている。今目の前にいる皆さんからの尊敬の念を勝ち得た。それだけではなく世界の人々から私への温かい共感を貰うことができた。
自らのキャリアで一番大切な時に、それを投げ打って、平和・人権・平等といった理想実現のために働く勇気を持つことは誰にでもできることではありません。でも、それにほんのチョッピリでも近付こうとする努力くらいはしても、罰は当らないと思うのですが。
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日本の国技と称する競技の選手たちにも見習って欲しいものだと思ってしまいました。
投稿: 見習い | 2017年12月27日 (水) 08時46分
「見習い」様
コメント有り難う御座いました。
モハメッド・アリの他にも見習いたいアスリートは沢山います。そして、社会を変えるための表現や行動も多様です。このシリーズで、その中の何人かを御紹介できれば幸いです。
投稿: イライザ | 2017年12月27日 (水) 16時18分