裁判官弾劾裁判所 ――制度ができて今年で70年目です――
裁判官弾劾裁判所
――制度ができて今年で70年目です――
トランプ大統領が誕生した時には、任期中に弾劾され罷免されるのではないかという予測もありましたが、このところ、物議を醸すことも少なくなっているようですので、弾劾の可能性も低くなったと言えそうです。
そして弾劾制度は、アメリカだけにあるのではなく、対象になるのは大統領だけではありません。我が国の裁判官弾劾制度は、憲法で規定されている制度ですので、憲法が発効した時にこの制度も発足し、今年で70年になります。
この制度に私が関心を持ったのは、20年前、50周年の時に『裁判官弾劾制度の50年』という分厚い書物を贈られてからです。
最近書庫を整理していて見付けたのですが、我が国の制度の概要や歴史だけでなく、海外の弾劾制度の紹介もあり、時間があれば読んでみたいと思ってはいますが、何しろ大部ですので、まずは付録の冊子を読んでみました。もっとも、ネット上には、裁判官弾劾裁判所の公式ホームページがありますし、そちらには最近の状況も載っていますので、お勧めします。
でも折角、概要が分りましたので、報告させて下さい。
この裁判所設置の根拠は憲法15条です。
第15条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
それに基づいて64条で、設置が規定されています。
第64条 国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。
2 弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。
裁判官も人間ですから、過ちを犯すことはあります。その結果、裁判官としては相応しくないと法律で決めているような行為があった場合、裁判官訴追委員会と呼ばれる、いわば検察のような役割を果す委員会が、訴追することを決めれば、裁判官弾劾裁判所で裁判をすることになります。流れは次の通りです。
弾劾裁判所は一審制で、職務停止や罷免になった裁判官が再審の請求をすることはできません。その代り、罷免されてから5年経つと、「資格回復請求」ができるようになっています。
制度ができてから実際に訴追され弾劾裁判が行われた件数は、全部で9件あります。最初の二件は、1948年、終戦直後という時代を反映して、両件とも闇物資に関わった案件でしたが、結果は「不罷免」でした。
その他の7件は、罷免になっているのですが、1977年の罷免事件は、「前内閣総理大臣」の関係する汚職事件の捜査において、「検事総長の名をかたり、不当な指揮権発動の言質を取ろうとして現職総理大臣に対してかけられた謀略電話」の録音テープを新聞記者に聞かせた、というものですが、これも時代の色が濃く映し出されています。
平成に入ってからは3件の罷免が行われていますが、それぞれ、「3人の少女に児童買春をした」、「ストーカー行為をした」そして「乗客の女性に対し下着を盗撮した」と、これも時代の流れが裁判官にまで及んでいることを示していると言って良いのかもしれません。
罷免された7人のうち、資格回復裁判によって、資格回復に至ったのは4人です。その他の内、一人は裁判の請求をしましたが、棄却され、残る二人は、資格回復請求の資格がないか、請求をしていないようです。
弾劾裁判にかけられる裁判官は、例外中の例外だと思いますが、だからこそと言うべきか、そんな人たちにもと言うべきなのか分りませんが、弾劾裁判の歴史が社会全体の変動を反映していることに一種の感慨を覚えています。
因みに、アメリカでは200年以上の歴史がありますが、その間、大統領も含めて19件の訴追があり、8人が罷免されています。
[お願い]
文章の下にある《広島ブログ》というバナーを一日一度クリックして下さい。
« 11月のブルーベリー農園 | トップページ | ブルーワイン ――羽田空港の魔力には勝てない家系かも―― »
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- 英文毎日 (The Mainichi) への投稿がアップされます ――「核の先制不使用」実現のため、海外に拡散して下さい―― (2023.03.22)
- 歴史は生きている ――杉並区のイベントで人生を振り返ることになりました―― (2023.03.21)
- 杉並区の岸本聡子区長にお会いしてきました ――69年前も今も杉並から新たな動きが始まっています―― (2023.03.20)
- Responsibility of Prime Minister Fumio Kishida, elected from Hiroshima, On the occasion of the G7 Summit in Hiroshima (2023.03.16)
「歴史」カテゴリの記事
- 歴史は生きている ――杉並区のイベントで人生を振り返ることになりました―― (2023.03.21)
- 杉並区の岸本聡子区長にお会いしてきました ――69年前も今も杉並から新たな動きが始まっています―― (2023.03.20)
- 「記憶が不確かだから記録を残す」の意味を葬り去った自民党政治 ――それでも過去の記録を忠実に残す努力をし続けよう―― (2023.03.11)
- Change.orgへの投稿 ――これからももっと多くの皆さんに署名して頂くために―― (2023.02.26)
- 「新たな制裁」ではなく「異次元の和平工作」を ――1945年、その時日本が求めたのは―― (2023.02.25)
「アメリカ」カテゴリの記事
- 英文毎日 (The Mainichi) への投稿がアップされます ――「核の先制不使用」実現のため、海外に拡散して下さい―― (2023.03.22)
- Responsibility of Prime Minister Fumio Kishida, elected from Hiroshima, On the occasion of the G7 Summit in Hiroshima (2023.03.16)
- 「成田プラン」の反論は米谷ふみ子さんがしていました ――芥川賞受賞作家が14年も前に―― (2023.03.15)
- ロンドンに着きました ――ロシア上空は飛べないので14時間掛かりました―― (2023.03.03)
「日本政府」カテゴリの記事
- 英文毎日 (The Mainichi) への投稿がアップされます ――「核の先制不使用」実現のため、海外に拡散して下さい―― (2023.03.22)
- Responsibility of Prime Minister Fumio Kishida, elected from Hiroshima, On the occasion of the G7 Summit in Hiroshima (2023.03.16)
- 「記憶が不確かだから記録を残す」の意味を葬り去った自民党政治 ――それでも過去の記録を忠実に残す努力をし続けよう―― (2023.03.11)
- Ahmadiyya Muslim Peace Prize ――Acceptance Speech by Former Mayor Akiba―― (2023.03.05)
- アハマディア・ムスリム平和賞を頂きました ――共同通信の植田支局長の記事をお読み下さい―― (2023.03.05)
「憲法」カテゴリの記事
- [追悼] 大江健三郎さん ――「先生」なのですが、それ以上の存在でした―― (2023.03.14)
- 「記憶が不確かだから記録を残す」の意味を葬り去った自民党政治 ――それでも過去の記録を忠実に残す努力をし続けよう―― (2023.03.11)
- 成田発言のおぞましさ検証 (3) ――1,000万人もの人をどう殺すのですか?―― (2023.02.28)
- G7広島サミットについて岸田総理に申し入れをしてきました ――その後、記者会見を開きました―― (2023.02.15)
- なぜ、憲法が機能していないのか ――矢部宏治氏によると憲法より上の安保法体系が原因―― (2023.02.12)
コメント