日米地位協定を変えられないのは? ――本音は「変えたくない」でしょう――
日米地位協定を変えられないのは?
――本音は「変えたくない」でしょう――
昨日に続いて、「嘘」と言えば、昨年12月の「タウンNEWS 広島平和大通り」の記事を再度お読み頂きたいのですが、そのテーマはTPPでした。また、それを受けて「『1984年』を読もう」では、日米地位協定についての嘘を取り上げました。
最近では、オスプレイの度重なる事故やジュゴン訴訟等のニュースでも関心がさらに高まっている沖縄の基地ですが、江崎鉄磨・沖縄北方相が「地位協定は見直さないと」と発言し、その後うやむやになりました。これは嘘と言うよりは無知ゆえに起きた混乱だったのかもしれません。
沖縄の歴史や現状そしてあまり理解されていない法的な枠組みを知るには、前泊博盛著の『日米地位協定入門』がお勧めです。
もし、安倍政権が、あるいは日本政府が沖縄の人々の気持ちを汲んで、本気で地位協定を改定したいと考えているのなら、この発言を奇貨として世論にアピールし政治的環境を整えることは可能だったのですから、ここにも安倍政権の本音が垣間見えます。
真実は皆さんも御存じの通り、正反対です。日本政府、特に安倍政権は、「何が何でも地位協定は変えない」にしがみ付いているのです。
そう思える究極的な根拠は、被爆者援護法を求める運動に対して基本懇と呼ばれる諮問委員会が1980年に出した意見の中にある「受忍論」です。つまり、戦争の際の犠牲は国民が甘んじて「受忍」せよ、という方針です。本当のところ、これが国としての戦争と国民との間の関係を明確に述べている言葉です。
それ以上に恐ろしいのは、これが戦争ではなくても、国民に被害が生じる場合の政府の態度だと考えると、いろいろな絵解きができることです。例えば福島原発の事故についての政府対応です。
地位協定を結ぶに至った日本政府はこの考え方に基づいて態度を決めているとしか考えられません。いや1960年に発効した地位協定が先で、基本懇はその考え方を踏襲したに過ぎないと理解した方が正確だと思われます。この点を浮き彫りにするため、仮に、地位協定を改定したいと日本政府が提案したとして、日米間でどのようなやり取りになるのかを想定してみました。
(日) 日米地位協定を改定したい。特に日本側に裁判権を譲って欲しい。つまり、米兵が、基地の外で犯罪を犯した場合、日本の警察が逮捕し、日本の刑事手続きに従って捜査、起訴、裁判をすることを認めて欲しい。犯罪によって被害を受けた日本人の人権を守るためだ。
(米) 人権を守ることは最重要事項だ、しかし、裁判権を譲渡することはできない。それは、米国政府が、世界のどこであっても米国人の人権を守る義務を課されているからだ。米兵が、日本国内で犯罪を犯したとしても、彼/彼女の米国人としての人権は守らなくてはならない。しかし、被疑者を日本側に引き渡して、日本の制度による捜査や裁判を受けさせると、米本土で保障されている被疑者の権利が侵害される。例えば、米国では弁護人が同席しない場所で警察や検察から尋問されることはない。その権利は保障されているからだ。しかし、日本の警察では弁護人抜きでの尋問が普通で、そのことだけから考えても、米国人の人権は侵害されてしまっている。
[陰の声] もし日本政府が日本人の人権を本気で守る気があるのなら、この時点で、「日本の法律や制度を変えて、アメリカ以上に被疑者の人権が守られる制度にするので、その暁には地位協定を改定して欲しい」といった発言をするはずです。
(日) ――――――(声なし)
[陰の声] 黙って、地位協定をそのままにすることで、日本政府は沖縄の人々の人権を侵害するだけでなく、被疑者の人権を保障する制度への改変にも頬かむりをすることになります。でも、基本懇の「受忍論」を大前提にすると、このどちらも政府としては「当然」の対応だということになります。
問題が大きくなり過ぎた感があるかもしれません。でも、ジュゴン保護の立場からの訴訟がアメリカの裁判所で真剣に取り上げられ、基地問題が脚光を浴びるようになるなど、一つずつ、大切な行動を積み重ねることでより大きな波が生れます。
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コメント
アメリカ政府の言い分はそうなんでしょうが、でも、この言い方だと、観光で日本に来ているアメリカ人も適用されないと理屈は通らないのではないでしょうか。
また、日本以外の国では、同じでない国もあるのではと思います。
日米安保で、アメリカ軍は日本の法律の規制も憲法の制約を全く受けません。
日本政府は、全く関与できないのです。
東北の大震災では、「トモダチ作戦」と称して、アメリカ軍を日本政府の了解もないのに自由に動かしました。救援用の物資を積んでましたが、あれが武器や弾薬や核兵器が積まれていても日本政府は何も言えなかったでしょうね。
日米安保で、アメリカ軍はこの国を自由にでき、日米アメリカ軍人とその家族は、軍事行動中でなくともその身分と地位を守るための日米地位協定だと思います。
日本の領土には、日本政府とアメリカ軍政府の二つの政府が存在しており、日本政府はアメリカ軍政府に属されているという事でしょうね。
日米安保と地位協定は、二つで一つですから、地位協定だけを改正はできないと思います。
日本は首都圏上空を自衛隊は守ることができない、アメリカ軍に支配された国なんでしようね。
「やんじ」様
コメント有り難う御座いました。
日米間に、安保条約や地位協定等の不平等な関係があり、それを変えなくてはいけないという点については、賛成して頂けたのだと思います。
しかし、日本政府がアメリカ政府に対してそんな提案もしていませんし、アメリカの意向に対しての反論も、あらゆるレベルでしていません。日本政府を変えるためには、私たちが安倍政権や日本政府の基本的な価値観を重層的・具体的に理解して、広範な運動を作るためのエネルギーが必要です。
そのために少しは役立つ想定問答として活用して頂ければ幸いです。
≪一日遅れのそれも雑魚の魚交じり...≫
『戦後史の正体』by孫崎享 をきっかけに、
今、『知ってはいけない ....』by矢部宏治 を読み終えましたが、
知れば知るほど、暗い気持ちに。
国民がもっと賢くならないと、このままズルズル戦後100年を迎えてしまう。
小選挙区制に党議拘束を蹴って青票投じた広島旧1区の
社会党代議士、のような方 or 前文科省事務次官、のような方。
このような秀でた方に舵取りを願わない限り、ことは動かない。
いやそういう他人頼みがよくないのだよ。わかってる。
ひとりびとりが考え、出来る範囲で行動する。これね。
でも凡人はスーパーマン(ウーマン)を期待してしまうのですワ。
「されど映画」様
コメント有り難う御座いました。
プラトンやカント、ニーチェのような偉人・哲人たちも賢人政治に期待していたようですので、スーパーマン(ウーマン)の存在と役割は人類にとって自然なのかもしれません。
そして、ニュートンやアインシュタインのような天才の仕事も、時代の流れを考えると、天才と呼ばれた彼らではなくてもいずれは誰かが同じ結果に辿り着いたであろうという見方もあるようです。それを政治の世界に敷衍すると、必要な時にはスーパーマン(ウーマン)が登場するはずだと楽観視して良い、と強弁することも可能です。
それも信じつつ、地道な努力も続けたいと思います。
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アメリカ政府の言い分はそうなんでしょうが、でも、この言い方だと、観光で日本に来ているアメリカ人も適用されないと理屈は通らないのではないでしょうか。
また、日本以外の国では、同じでない国もあるのではと思います。
日米安保で、アメリカ軍は日本の法律の規制も憲法の制約を全く受けません。
日本政府は、全く関与できないのです。
東北の大震災では、「トモダチ作戦」と称して、アメリカ軍を日本政府の了解もないのに自由に動かしました。救援用の物資を積んでましたが、あれが武器や弾薬や核兵器が積まれていても日本政府は何も言えなかったでしょうね。
日米安保で、アメリカ軍はこの国を自由にでき、日米アメリカ軍人とその家族は、軍事行動中でなくともその身分と地位を守るための日米地位協定だと思います。
日本の領土には、日本政府とアメリカ軍政府の二つの政府が存在しており、日本政府はアメリカ軍政府に属されているという事でしょうね。
日米安保と地位協定は、二つで一つですから、地位協定だけを改正はできないと思います。
日本は首都圏上空を自衛隊は守ることができない、アメリカ軍に支配された国なんでしようね。
投稿: やんじ | 2017年8月23日 (水) 11時57分
「やんじ」様
コメント有り難う御座いました。
日米間に、安保条約や地位協定等の不平等な関係があり、それを変えなくてはいけないという点については、賛成して頂けたのだと思います。
しかし、日本政府がアメリカ政府に対してそんな提案もしていませんし、アメリカの意向に対しての反論も、あらゆるレベルでしていません。日本政府を変えるためには、私たちが安倍政権や日本政府の基本的な価値観を重層的・具体的に理解して、広範な運動を作るためのエネルギーが必要です。
そのために少しは役立つ想定問答として活用して頂ければ幸いです。
投稿: イライザ | 2017年8月23日 (水) 18時20分
≪一日遅れのそれも雑魚の魚交じり...≫
『戦後史の正体』by孫崎享 をきっかけに、
今、『知ってはいけない ....』by矢部宏治 を読み終えましたが、
知れば知るほど、暗い気持ちに。
国民がもっと賢くならないと、このままズルズル戦後100年を迎えてしまう。
小選挙区制に党議拘束を蹴って青票投じた広島旧1区の
社会党代議士、のような方 or 前文科省事務次官、のような方。
このような秀でた方に舵取りを願わない限り、ことは動かない。
いやそういう他人頼みがよくないのだよ。わかってる。
ひとりびとりが考え、出来る範囲で行動する。これね。
でも凡人はスーパーマン(ウーマン)を期待してしまうのですワ。
投稿: されど映画 | 2017年8月24日 (木) 17時18分
「されど映画」様
コメント有り難う御座いました。
プラトンやカント、ニーチェのような偉人・哲人たちも賢人政治に期待していたようですので、スーパーマン(ウーマン)の存在と役割は人類にとって自然なのかもしれません。
そして、ニュートンやアインシュタインのような天才の仕事も、時代の流れを考えると、天才と呼ばれた彼らではなくてもいずれは誰かが同じ結果に辿り着いたであろうという見方もあるようです。それを政治の世界に敷衍すると、必要な時にはスーパーマン(ウーマン)が登場するはずだと楽観視して良い、と強弁することも可能です。
それも信じつつ、地道な努力も続けたいと思います。
投稿: イライザ | 2017年8月25日 (金) 12時08分