石川教授の講演・導入 ――共和制と専制政治――
石川教授の講演・導入
――共和制と専制政治――
7月22日に広島弁護士会主催で開かれた講演会の報告をさせて頂きますが、一人目はスダンダップコメディアンの松元ヒロさんでした。スタンダップコメディーの良さを味わうには、その場でリズムや躍動感、即興のセリフや間の取り方等、内容を要約したのでは伝わらない要素が多いので、是非、YouTubeで御覧下さい。その内の一つを貼り付けておきます。
https://www.youtube.com/watch?v=rw69U0ocvgM
東京大学法学部の石川健治教授の講演は、私の勉強不足の結果かも知れないのですが、これまで聞いたり読んだりしてきた憲法論とは違った次元からの内容で正に「目から鱗」でした。
石川教授の言葉を拾いながら説明すると、キーワードは、「人類の英知」「物語」「構造」「生活」です。
まず、憲法には人類の英知がまとめられている、ということなのですが、「押し付けられたから変えるべき」という主張と対極にある考え方だと言っても良いように思います。次にその人類の英知をどう表現するのかを考えると、それは「物語」である、ということに注目したいと石川教授は述べています。実は、アインシュタインの方程式「E = mc2」も同様に物語なのですが、それについては機会を改めましょう。
その物語を詳しく理解するために、憲法の構造的な分析を見事にして下さいました。これは講演の中でさらに詳しく論じられます。その構造の一つが重層構造です。その中で今回の講演で取り上げられたのが、「生活」という視点です。憲法が働き掛ける対象、あるいは主体になる存在等、憲法に関わる「世界」を「個人生活」「社会生活」「国家生活」「世界生活」という4層に整理した上で、それぞれの生活と憲法がどう関わるのかを理解することで、憲法の存在や意義、その位置付けがしっかりと伝わってきました。
冒頭で、石川教授は講演アウトラインとして4つの項目を掲げました。
⓪ 導入
① 憲法論の構造
② 9条論の構造
③ 今日的課題
まず導入部です。今私たちが直面している問題点を整理して、安倍総理が憲法記念日に提案した「自衛隊の存在を明記」の本質は、私たちが思っている以上に深刻であることを指摘してくれました。
これまでの改憲論は、「何かを変える」ためだった。例えば「戦後レジームからの脱却」。しかし、今回は「変えない」という方針に変った。しかし、何かが変わるはずだ。その何かを探そう。そのためにカントが重要だ。
[ここで、『恒久平和論』が書かれた背景、構成についての興味深い話がありましたが、長くなりますので省略します。]
カントは、恒久平和のためには共和制が必要だと言っている。実はアリストテレスの頃から、政治の形態は「君主制」、「貴族制」そして「民主制」と定式化されてきた。しかし、統治の仕方から整理すると、「専制」(despotic)と「共和制」(republican)だ。[注:専制とは独裁制とも訳される。]
共和制とは、執行権と立法権が分離されていることを指す。つまり、立憲的だということだ。民主制との違いは、民主制が専制(despotic)になり得る点だ。それは、公的決定を私的に扱う場合に発生する。そして、権力の私物化は平和を害する。これがカントの言い分だが、9条を認めた上で一部を付け加えるという提案を考えるに当って、「変えないのなら問題はない」と簡単に結論付けてしまわないで、「専制」か「共和制」かという視点から、背景を理解することが重要だ。
次回は、①憲法論の構造、です。
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