日米憲法事情 ――アメリカは最高裁、日本は内閣が憲法破壊?――
日米憲法事情
――アメリカは最高裁、日本は内閣が憲法破壊?――
最初にお詫びです。昨日の記事は、「いのちとうとし」さんの担当だったのですが、それを失念していて私が割り込むような形になってしまいました。申し訳ありませんでした。昨年も好評だった渓流釣りの記ですので、まだお読みになっていない方、是非、御一読下さい。
もう一つ、「さっちさん」が指摘して下さったように、Sさんから頂いたのは「ゼンマイ」ではなく「ワラビ」でした。御指摘有難う御座いました。
さて今日は憲法記念日、しかも憲法施行70周年という記念の年です。立憲政治・民主主義・そして平和な生き方を守るために決意を新たにしたいと思います。
この70年間、日本国憲法が様々な試練を潜ってきたことは御存知の通りですが、特に安倍内閣になってからの状況は目に余ります。何とかしなくてはならないという気持だけはあってもどうすれば良いのか、なかなか具体的かつすぐ行動に移せるアイデア、しかも必ず効果の上がる方策を思い付かないのは残念なのですが、ちょっと枠組みを変えて考えて見たらどうかなと考えて見ました。それは日米の憲法を比較することです。そこから何らかのヒントが得られるかもしれません。
議論を簡単にするために、前から取り上げている、「選挙を金で買える」ことにしてしまったアメリカの最高裁判所の判断を取り上げます。
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アメリカの最高裁判所、夕暮れ時の正面玄関です
世界で一二を争う資産家であるコーク兄弟の作ったネットワークに属する「United
Citizens」という組織が、2010年に「企業が選挙に使う金額には上限を設けてはいけない」という最高裁判所の判決を勝ち取りました。詳細は、2月7日付の記事に掲載しましたが、要点だけ抜き取って再掲します。
2008年にCitizens United という、コーク兄弟から膨大な資金を受け取っている団体が、ヒラリー・クリントン候補についてのネガティブ・キャンペーンの一環としてオン・デマンドのビデオを作り、そのビデオを宣伝するメディア・キャンペーンを精力的に行いました。連邦選挙委員会(FEC)は、これが超党派キャンペーン改革法違反だと判断して、中止命令を出したのですが、CU側は、表現の自由を保障している憲法の修正第一条違反であることを理由に、裁判を起こしました。
最終的には最高裁判所が判決を下したのですが、その判断には重要な4つのポイントがあります。
① FECそして、超党派キャンペーン改革法は、憲法の修正第一条違反を犯している。
② 企業にも、個人と同様に「表現の自由」が与えられている。それは「表現」することが可能などのような主体についても、この自由が保障されているからである。
③ 巨額の資金が使われているという事実だけから、政府がそれを「腐敗」であると断定することはできない。つまり、いくら以上なら腐敗であり、それ未満ならそうではないという客観的な基準を設けることができないからである。
④ 支出額の制限を加えることは、市民の知る権利を侵害する可能性がある。情報を広げるのにはお金がかかるという理由で作られた規制によって、ある情報が隠されてしまうのは市民の知る権利の侵害になり得る。
この結果、CUそしてコーク兄弟、ならびに多くの億万長者たちは、選挙戦を勝つためには無制限に自分たちの資産を使えるようになり、アメリカ社会は大きく変りました。
ここで憲法に関連して大切なのは、②に掲げられている「「表現」することが可能などのような主体についても、この自由が保障されている」です。「どのような主体」の中には当然企業が入るからです。
つまり、アメリカ憲法で保障されている「表現の自由」を享受する主体には、私たち人間、形容詞を付ければ、人間として生れ「自然人」としての権利を受ける立場の私たちだけではなく、「法人」として、法律的に人格を認められている存在まで含まれているということです。
法律的な契約は人間と人間の間で行われるのが自然なのですが、経済活動を行っている企業が企業という立場で契約を行えなくなるととても不便です。法人がこうした経済活動を行えるように法律を整備するのは「合理的」だと考えられます。
わが国でもこの点が大きく取り上げられ、「特定非営利活動法人」、略して「NPO法人」に法人格を与える、という法整備が1998年に行われました。それまでは、多くの市民活動の団体は単なる「任意団体」としてしか認められず、その結果「法人格」がないため、活動するために事務所を借りたり、電話の契約をしたりするときにも団体名での契約はできませんでした。メンバーの一人の名義で契約を行わざるを得ず大変不便だったのです。
企業やその他の団体に「人格」を与えることにそれなりの合理性があることは御理解頂けたとして、では、その「人格」が享受できる権利はどのくらい広いものなのか、というのが、2010年のアメリカ最高裁判決の焦点でした。例えば、テレビ局や新聞社には「表現の自由」が認められています。それを敷衍して、マスコミという事業をしていない企業、例えば極端な例を挙げれば兵器を作っている企業にも、同じように「表現の自由」があるのだという結論です。
日本では、特定秘密保護法や共謀罪といった形で「表現の自由」を制限する方向性が強く打ち出されています。単純化するとアメリカでは逆に、「表現の自由」が企業や団体にも広範に認められ、それが民主主義の危機として捉えられているという、一見相反する方向性を示す問題を抱えているように考えられます。
事実、アメリカで今、大きな運動になっているのは、「企業は『人(person)』ではないことを憲法の修正、あるいは法律の整備によって確認しろ、という声なのです。
日本の法律では、企業が選挙のために無制限に資金を投入することは認められていませんから、それだけ見ると、日本の方がまだましな状況にも見えますが、問題はそれだけではありません。以下、次回に続きます。
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