――数学者、岡潔先生の警告――
――数学者、岡潔先生の警告――
英国のEU離脱、トランプ大統領の誕生と、きな臭い政治的な動きが続いた後、フランスではマクロン大統領、韓国では文大統領が誕生しました。イデオロギーや政策はさておいて、手続き的には無難な手法を採用するようですので、少しは安定化への流れが始まっているのかもしれません。とは言え、不安定要素がなくなった訳ではありません。今という時代を理解するために、1960年代に遡って、大数学者、岡潔(おかきよし)先生の言葉からヒントを得られればと思います。
数学者、岡潔博士は、多変数解析函数の分野で世界的業績を挙げ、1960年に文化勲章を受章した天才数学者です。同時に1963年に毎日新聞社から刊行された『春宵十話』(しゅんしょうじゅうわ)を手始めに、日本と日本人についてまた日本と人類の未来についての多くのエッセイを発表しました。これらのエッセイを通して、私たちの生き方について、また教育の重要性について「警鐘」を鳴らしたことでも高い評価を受けています。
1965年に出版されたエッセイ集『春風夏雨』の中には、「60年後の日本」という随筆があります。1965年の60年後は2025年ですので、もうそろそろ岡先生の憂えた状況に近付いていてもおかしくありません。それを検証するために、まず、このエッセイを要約しておきましょう。
岡先生は、人を中心に物事を考えるべきだという持論を述べた後、そのためには教育に力を入れなくてはならないことを強調しています。さらに、その年に発表された厚生省の調査で、「4歳児の3割までが問題児だ」と報告されていたことにショックを受け、この状態を改善するために三つの努力が必要だと説いています。
一つは、「戒律を守らせる教育」を行うこと。二つ目は、「国の心的空気を清らかに保って欲しい」こと。最後に男女問題について、「何を目標に」教育すべきなのか国は全力を挙げて究明すべきだが、時間が掛かるようなら当面は男女別学にすべきだ、と主張してます。
そして、この中で、次のような問題についても言及しています。
進駐軍が初めて来たとき「進駐軍は日本を骨抜きにするため、三つのSをはやらせようとしている」という巷説があった。セックス、スクリーン、スポーツである。今やこの三つのSはこの国に夏草のごとく茂りに茂っている。私に全くわからないのはこの国の人たちはこれをどう見ているのであろうかということである。
60年後の予測は、このような努力を行ったとしても、「六十年後には日本に極寒の季節が訪れることは、今となっては避けられないであろう。教育はそれに備えて、歳寒にして顕れるといわれている松柏のような人を育てるのを主眼にしなくてはならないであろう。」
1965年の時点で日本が崖っぷちに立っていることを指摘した岡先生の最後の文章は「もし転落し始めたら、今度こそ国の滅亡が待つばかりであろう」です。
「セックス、スクリーン、スポーツ」の内、「スクリーン」は今ならテレビとスマホなどの通信機器を指すのだろうと思います。それ以上に私たちが問わなくてはならないのは、今の日本の状況を「転落し始めている」と見るのか、その一歩手前と見るのか、いやまだまだ大丈夫と見るのかです。いくつかの可能性がありますが、皆さんはどう御覧になっているのでしょうか。
1965年とは時代も大きく変っていますし、岡先生の世界観、社会観、人間観はかなりユニークですので、私たち自身の頭と心を通して再吟味する必要がありそうです。特に処方箋の部分については、別の枠組からの検討も必要だろうと思います。同時に、岡先生が警鐘を鳴らさざるを得ないと思い詰めたほどの危機感の何分の一でも、私たちも持てないものだろうかと憂えてもいます。
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