かき船問題を考える―その3
世界遺産原爆ドームの景観は守られたのか
=なぜか開催されなかった広島市景観審議会=
「かき船かなわ」が、平和大橋下流から400m上流の現在地(元安橋下流・原爆ドームから200m の近さ)に移動すること明らかになった2015年1月日本イコモス国内委員会は、調査団を派遣し「世界遺産原爆ドームバッファゾーン内における牡蠣船移動設置への懸念表明」を広島市に提出しました。その中で、バッファゾーンの役割について「単に世界遺産周辺の景観を規制し整えるゾーンというだけでなく、この資産の持つ鎮魂と平和への祈念の意味との深いつながりを持ったエリアと認識されるべきです」と指摘し、かき船移設への強い懸念を表明ました。特に「鎮魂と平和への祈念」ということを指摘していることは、原爆ドームが他の世界遺産と違う「負の遺産」という性格を持っていることを示しています。しかし、残念なことに広島市は、この日本イコモス国内委員会の懸念表明に答えることなく、計画を推進してしまいました。
そもそも世界遺産のバッファゾーン(緩衝地帯)は、その遺産を適切に保護するため、世界遺産登録申請とともに申請者によって明示したものです。それは、申請した日本政府、そして広島市の共同の意思だったはずです。しかし、今回の「かき船」問題では、最初に検討されるべき「世界遺産原爆ドームの景観について」は、十分な検討がなされていないばかりか、むしろそれをないがしろにして推進されてきたのです。
情報公開によって入手した資料などからいくつか指摘したいと思います。
「かき船の元安橋すぐ下への移転」問題が行政の具体的テーマとなったのは、2013年度(平成25年度)からです。バッファゾーン内への移設の問題は、その年の9月19日に行われた国土交通省太田川河川事務所と広島市の協議の中で「景観への配所について」が議題となり、国側の問いに対し広島市は「原爆ドームのバッファゾーンの場合は、重要事項に該当するので景観審議会にかけるべきだと判断している」と明確に答えています。ところが開示文書を見ると「バッファゾーン」のことについて広島市の担当部局(観光ビズネス)が初めて市民局平和推進担当に問い合わせが行ったのは、翌年の5月になってからです。平和担当は、無視されたままだったようです。しかも、広島市は、国に「景観審議会に諮る」と約束しながら、実際には景観審議会には一度も諮っていません。広島市は、景観審議会に諮らなかった理由を「かき船は『船』だから」と理屈にならない理由を挙げていますが、あまりにも不自然です。
広島市は、事前の協議で約束したことを無視したばかりでなく、国土交通省には「景観審議会を開催しなかった」ことを知らせていません。ですから太田川河川事務所は、私の指摘によってはじめてその事実を知ることになったのです。ところが国土交通省は、広島市が明らかに約束違反をしているのもかかわらず、許可を取り消そうとはしなかってのです。何か取り消せば不都合なことがあったのでしょうか。こうした広島市に遠慮する(無批判な)姿勢は、その後も続きます。
問題はそれだけではありません。国土交通省は、「景観への配慮」について独自の検討を行う責任があったにもかかわらず、その検討を全く行っていません。これは許されないことです。1996年に国が行った原爆ドームの世界遺産登録申請にあたって、国は、ユネスコに対し、文化財保護法などとともに、河川法を明示し、原爆ドームとその周辺を含め保存し、保護することを約束しています。そのことは、今回の問題で国は、むしろ河川法によって「世界遺産の景観を保護する」責務を果たすべきだったはずです。
当時広島市は、「広島市景観計画」を策定するため、何度も景観審議会を開催していたのですから、景観審議会の意見を求めることは、できる環境にありました。だから余計に「なぜ景観審議会に諮らなかったのか」という疑問がわきます。
ところで2014年7月4日に広島市長名で「広島市景観計画」が公示されました。その中では、この原爆ドームのバッファゾーン中心とした地域が「平和都市ひろしまを象徴する景観づくり」の「景観計画重点地区」となっています。かき船が設置された地域は、その中でも最も重要な「A地区(平和記念公園地区)」に指定され「景観形成の方針」として「平和記念公園と平和大通りなどの道路、橋りょう、河川、河岸緑地を含む地区とし、平和記念公園の役割にふさわしい良好な景観の保全及び形成を図ります。」としています。「かき船は平和公園の役割にふさわしいのですか」「河川を含めるのであれば当然、船も該当するはず」「保全って今の景観を大切にということでは」と疑問がわくのは当然のことです。市長自らが定めた「景観計画」になぜ自らが反するようなことをするのでしょうか。
結局広島市は、かき船問題で景観審議会をはじめ第三者の意見を全く聞いていません。イコモスの懸念表明にも同じ説明を繰り返すのみですした。これでは理解を得ることはできません。
確かにこれまで何度か世界遺産原爆ドームの景観をめぐる問題が起きています。ただ今回大きく違うのは、「原爆ドームとバッファゾーンを保存整備し、世界的価値を後世に伝える役割を持つ」国や広島市が所有し管理する場所で起こっていることです。
原爆ドームの世界遺産化は、165万筆を超える市民の署名が大きな力となって実現したことを忘れてはなりません。国や広島市は、市民から原爆ドームを後世に正しく伝える責務を負っているはずです。世界遺産原爆ドームは、世界の人々の共有の財産であることを忘れてはなりません。
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