論理の出発点 ――西欧流の「自由、平等、民主主義」ではなく日本の「情緒と形」――
――西欧流の「自由、平等、民主主義」ではなく日本の「情緒と形」――
『国家の品格』の内容のお浚いを、ここからは駆け足で続けましょう。これまでは、「論理と合理」が諸悪の根源であることを具体例で示し、特に論理については4つの理由を挙げて、それだけでは全ての問題の解決にならないことを「証明」する段階までをお浚いしました。
それと同時に、「問答無用」で正しいこととして認めるべきいくつかの命題が示されています。一つは「重要なことは押し付けよ」ですし、もう一つは、「論理の出発点が大切だ」です。後者は、論理を使う上での大前提でもありますから問題はないのですが、「重要なことは押し付けよ」と組み合わせると、結局は、「重要なことは押し付けよ」を強調することになっています。
そして第三章では、「論理の出発点」として西欧流の「自由、平等、民主主義」を採用することには問題があるので、それに代るものが必要であるという結論が示されています。
第四章ではその代りに、日本文化のエッセンスである「情緒と形」の重要性が述べられます。実はこれが「日本型文明」だという特徴付けもされます。言葉の意味を大まかに説明しておくと、「情緒」とは「もののあわれ」、そして「形」とは「武士道精神」です。
何故「情緒と形」が大事なのかは、第六章で詳しく説明されていますが、日本という国は「情緒と形」を大切にしてきたからこんなに素晴らしい国だったのだという歴史とともに、「情緒と形」を大切にすることで未来が開けてくること、さらには、「情緒と形」の持つ意味は日本だけに限定されているのではなく、世界に共通の普遍的な価値であることも説かれます。
藤原氏は、特に「武士道精神」に重きを置いて第五章では「武士道精神の復活」を提唱しています。
第七章では、日本人一人一人がこの「情緒と形」を身に付けることで、日本という国家が品格を持つようになること、そして品格ある国家の指標として①独立不羈②高い道徳③美しい田園④天才の輩出、が挙げられています。そして『国家の品格』の結論は次の通りです。
日本は、金銭至上主義を何とも思わない野卑な国々とは、一線を画す必要があります。国家の品格をひたすら守ることです。経済的斜陽が一世紀ほど続こうと、孤高を保つべきと思います。たかが経済なのです。
大正末期から昭和の初めにかけて駐日フランス大使を務めた詩人のポール・クローデルは、大東亜戦争の帰趨のはっきりした昭和十八年に、パリでこう言いました。
「日本人は貧しい。しかし高貴だ。世界でただ一つ、どうしても生き残って欲しい民族をあげるとしたら、それは日本人だ」
日本人一人一人が美しい情緒と形を身につけ、品格ある国家を保つことは、日本人として生まれた真の意味であり、人類への責務と思うのです。ここ四世紀間ほど世界を支配した欧米の教義は、ようやく破綻を見せ始めました。世界は途方に暮れています。時間はかかりますが、この世界を本格的に救えるのは、日本人しかいないと私は思うのです。
『国家の品格』はベストセラーになりましたから、この結論に感動したり賛同したりした人は多かったのだと思います。この結論について、またそれに至る議論について論じるのは別の機会に譲ることにして、本稿では内容以上に、「論理と合理性」を捨てた結果がどうなったのかという因果関係に注目しています。その視点から『国家の品格』の構成をまとめると、「論理と合理性」が駄目だということを示した上で、その代りに「情緒と形」を大事にしようという結論を導いています。しかもその結論は、「重要なことは押し付けよ」という大原理に従って、説得するというよりは押し付ける側面が強いように読めました。
私のまとめ方が雑すぎるのかもしれませんが、これまで一生懸命に読んできた『国家の品格』から得られた教訓は、人を説得する上で一番基本になるパターンでした。つまり、先ずダメなものを挙げて、その代りに自分が推奨している代替物を「売り込む」形だと言って良いように思います。
これはテレビショッピングの典型的なパターンでもあります。今までのフライパンだと焦げ付いたり、洗ってもきれいにならないといった「ダメ」な点が多くあり、それに代ってこの製品なら、油を使わなくても目玉焼きができ、洗うまでもなく汚れは落せるし、様々な料理も簡単にできる上、味も美味しいですよ、という謳い文句で「売り込む」様子は皆さん御存知の通りです。
これはトランプ候補の選挙運動でも有効に使われていました。「エスタブリッシュメントは駄目だ。何故なら、彼らは工場や仕事場を海外に移し、多くのアメリカ人から仕事を奪った。また多くの不法移民を受け入れ、犯罪を増やし麻薬の被害を拡大した。自分は、国境に壁を造って、仕事が海外に流出することも、違法な移民が入ってくことも許さない。」
これは一応、一つの「論理」になっていますが、多くの嘘を吐き、聞き逃しのできない差別発言や、「事実」の捏造等も視野に入れて考えたときに、何故、多くの女性がトランプ候補に投票したのか、あるいは差別される側の有権者がトランプ候補を支持したのか、そして何故当選できたのかについては別の枠組が必要になりそうです。
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