詭弁の技法・その4 ――戦争を始めた国が「挑戦者」?――
――戦争を始めた国が「挑戦者」?――
「戦後70年総理大臣談話」を読みながらでないと、その批判をしっかりとは御理解頂けないかもしれませんので、全文を次のページにアップしました。
「戦後70年総理大臣談話」 (以下「談話」と略す) が、詭弁の典型であることを検証する第4弾です。今回は「挑戦者」という表現を取り上げます。この言葉が使われている部分を引用しておきましょう。
「満州事変、そして国際連盟からの脱退。日本は、次第に、国際社会が壮絶な犠牲の上に築こうとした「新しい国際秩序」への「挑戦者」となっていった。進むべき針路を誤り、戦争への道を進んで行きました。」
「私たちは、国際秩序への挑戦者となってしまった過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、自由、民主主義、人権といった基本的価値を 揺るぎないものとして堅持し、その価値を共有する国々と手を携えて、「積極的平和主義」の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献してまいり ます。」
まず、戦前に日本という国家が、帝国主義・植民地主義を奉じていた欧米諸国に対して「挑戦」したという事実はあったと認めて良いでしょう。しかし、第一次世界大戦以後の日本の立場や政策、人類史的な役割を一単語で表現する場合に、「挑戦者」ではほんの一面しか捉えていない点が問題です。「全ての真実」ではないのです。
「挑戦者」とは辞書的定義では「戦いを挑む人」という意味ですが、拳闘の世界チャンピオンに対して「挑戦者」の誰の誰平という形で用いられる場合、きちんとしたルールに則っての競技における名誉ある立場というニュアンスが付いています。日本が戦前に果した世界史的な役割をこのような「フェア」なものであると認定してしまうのは、控えめに述べて行き過ぎです。
その点を理解して貰うために敢て極端な議論をしますが、ヒトラーやナチスドイツを「挑戦者」という言葉一語で規定してしまうことにほとんどの人が違和感を持つはずです。「フェア」で名誉ある立場とは相容れない要素が大き過ぎるからです。そして、この「談話」でもこの点には触れていませんが、日本はそのナチスと同盟関係にあり、ナチスの世界観を少なくとも容認してアジアで行動したのです。ナチスを「挑戦者」という一言で規定すべきでないのなら、日本を「挑戦者」と規定することも同じレベルで破廉恥な選択です。
アドルフ・ヒトラー総統との会談に臨む松岡洋右外相 (左)
(Wikimedia)
その点とも関係しますが、「談話」の中では、日本が1930年以降に「挑戦者」になったという時間軸で物語が進行します。しかし、これも限定し過ぎで、日清・日露戦争や第一次世界大戦の時代から、日本の「挑戦」は始まっていました。「三国干渉」や「21条要求」の事実がそのことを雄弁に物語っています。この点では「真実だけ」からも逸脱しています。
では、「挑戦者」の代りにどのような表現を使えば良いのでしょうか。それに答えることはかなり難しいと思います。それは、歴史観が違うからです。「新しい国際秩序に対する挑戦者」という流れとして当時の世界を理解するのは、これも「不都合な真実」を隠していることになるからです。これについてはさらに詳しく論じないといけませんので別稿に譲ります。
まだまだ問題にしなくてはならない点は多くあるのですが、一つ一つ取り上げ考えるたびに腹が立ちますし、このように言葉としての意味を正確に理解しつつ、「談話」の吟味や批判をすべきマスコミがその責任を果していないことにもフラストレーションを禁じ得ません。しかし、歴史を振り返ることが大切ではあっても、世界は毎日動いています。トランプ大統領に振り回されている昨今も心配です。
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