歴史的人物たちの真実 ――いわれなき誹謗中傷に晒させることも――
――いわれなき誹謗中傷に晒されることも――
「歴史的人物」で真っ先に頭に浮ぶのは、湯川秀樹博士です。子どもの頃、日本人で初めてノーベル賞を受賞したというニュースが、日本全国を歓喜の嵐で包んだことと無関係ではありません。そして、中学に入ってからだと思いますが、湯川先生の自伝『旅人』が、ラジオで毎日か週一だったのか記憶は定かではありませんが、朗読される番組がありました。それを聴くために、午後6時には必ず家に帰っていたほどでした。
その中のエピソードで良く覚えているのは、夢の中で思い付いたアイデアを忘れないようにするため、枕元にノートと鉛筆を置いておき、目が覚めると忘れないうちにそのアイデアを書き留めていたということです。確か、中間子の理論もそのノートのお蔭で完成したということだったので印象が強かったのだと思います。
天才的数学者岡潔博士もエッセイ集の『春宵十話』等の中で、数学的問題を解決するために、台風の接近する海を見たくて危険を承知でフェリーに乗ったとか、北海道大学の研究室では寝てばかりいて「嗜眠性脳炎」という綽名を付けられたといったエピソードを披露しています。
「歴史的人物」や「偉人」と呼ばれる人たちの、こうした浮世離れしたエピソードばかり読んでいたせいなのかもしれませんが、彼ら/彼女らが社会との接点を持ち、そして中にはその接点が、御本人に取っては必ずしも好ましいものだけではなかったことさえ、長い間想像できませんでした。特に私が尊敬していた人物についてはその傾向が強かったような気がします。
勿論、成長するに連れ「偉人」や「歴史的人物」のリアルな側面についても学ぶことができましたので、子ども時代のような偶像崇拝には縁がなくなっていました。でも最近、改めて現実の厳しさを感じることがあり、「偉人」や「歴史的人物」の「偉大さ」を考える上で、そのような厳しさを乗り越えた事実も合わせての「偉大さ」なのだということを痛感しています。
きっかけを作ってくれたのはキャノン氏です。その前に、戦後のアメリカを振り返っておきましょう。
1946年の夏、彼の祖父ジョン・ハーシー氏のレポートが『ニューヨーカー』に掲載されたのは、アメリカの世論の9割は「原爆投下が正しかった」と考えていた頃です。一日に30万部も売れたのですから、多くのアメリカ市民があるいは直接そのレポートを読み、あるいはそのレポートの報道や抄録に触れ、音声化された番組を聞いてショックを受けたことは当然です。その結果、原爆についての疑問が生じたのも自然だったはずです。
それは、原爆投下を正当化しなくてはならない立場だった米政府や軍産複合体 (当時この言葉はまだありませんでしたが) にとっては「不都合な真実」でした。正当化のために当時のエスタブリシュメントは、真珠湾攻撃の悪辣さの誇張、対ソ連戦略としての力の外交の強調、原子力の「平和利用」の積極的推進、そして「不都合な真実」のメッセンジャーだったハーシー氏の抹殺等の手段を取りました。
ハーシー氏に対する脅迫や嫌がらせは勿論、マスコミ界からも一部を除いて距離を置かれることになり、CIAその他の諜報機関の監視下に置かれ、家族も含めて精神的にも痛め付けられることになりました。
そのくらいのことをするのが当り前なのは、真珠湾攻撃と原爆投下の正当化についてのアメリカ政府や関係者そしてマスコミの説明が、だんだん膨らんでいったことからも明白です。前にも述べたように、トルーマン大統領の原爆投下直後の記者会見で、原爆投下により救われたアメリカ人の数は25万人でした。それが50万になり、のちにイギリスの首相チャーチルは150万とまで言っています。
ハーシー氏は、原爆投下を正当化し核兵器と核抑止論を信奉する側の人たちから批判され、攻撃されたのですが、ナチスの被害を蒙り、二度とそのような悲劇を繰り返してはならないと考え行動する側の人たちからの批判の対象になったのが、オットー・ハーン博士です。
次回に続きます。
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