夜書いたラブレターをそのまま彼女に送るな 推敲で目を覚ませ
推敲で目を覚ませ
夜書いたラブレターを急いで彼女に送って破局を迎えてしまった若者の話は、都市伝説なのかもしれませんが、夜という時間の魔術があり、アルコールでも入っていれば最高傑作が生まれたと思い込み、また、映画や芝居のセレナードのシーンなども頭に浮かんで、今ここで彼女に届けなくてはという気持になるのはよく分ります。でも私のように人生をそれなりに過ごしてくると、時間という百薬の長とも仲良くなるものなのです。そして時間がお膳立てをしてくれるのが「推敲」です。実はこの言葉は、前回取り上げた「多作多捨」と一対の概念なのです。
「多作多捨」は、言葉を書く人間の多くが実践しているか、意識している言葉なのだと思います。この言葉を知らなかった私も⑦パパさんややんじさんも同じように反応したのですから。
しかし、こうして文字にしてしまうと、誰にでも多作ができ誰にでも多捨ができてしまうような印象を与えてしまいそうですが、そうではないことを昨夜、「10分間俳句」というブログで教えて貰いました。f
「十分間俳句」さんがここで説明しているのは正岡子規が連続して、いわば一息で読んだ次の4句です。
雪ふるよ障子の穴を見てあれば
いくたびも雪の深さを尋ねけり
雪の家に寐て居ると思ふばかりにて
障子明けよ上野の雪を一目見ん
ほぼ同じ時に読んだ句でも、「いくたびも雪の深さを訪ねけり」の良さは一目瞭然ですね。でも、大切なのは、これを読んだ時の子規には、どれが良いものなのかという意識はなかったのかもしれないということです。少し時間をおいて、「これが良い」という判断ができたのかもしれません。あるいは子規以外の誰かが子規の苦吟している様子を見ながら「いくたびの----」がダントツに良いと判断したのかもしれません。あるいは違いは分っていても、そのまま詠み続ける意味があったのかも知れません。その場合でも後になってから秀句を拾い出す作業は必要です。
「多作」には問題がなくても、「多捨」は簡単に、いわば自動的にできることではなさそうです。しかし、私たちが経験的に知っているのは、他の人に見て貰う、少し時間が経ってから再度読み返してみる、いくつかの基準を設けて、試験の採点でもするかのように姿勢で読み返してみる等々、多くの駄作の中から珠玉の一篇を探す秘策です。
「多捨」のためには、良いものを判別する力、選ぶ力が必要だということですが、「選別力」「審美力」という言葉もあります。多くの候補の中で私はあえて「選球眼」を使いたいと思います。「珠」と「球」を掛けているのですが、独立したいくつもの「句」からより良いものを見抜ける力です。
それよりもう少し広いのが「推敲」です。これは一つ一つの句や文章の一部を変えてより美しいものに、あるいはより詩的なものに変える作業も含みます。もちろん、「選球眼」もその一部です。
実はここまで書いてきて、ため息をついています。多くのブロガーさんに倣って、ブログはとにかく毎日書くようにしよう、今年もそれは続けようと、一年の計にも掲げたのですが、やはり日常の波乗り作業に流されて、原稿のできるのが日付の変わる頃になるのもしばしばです。それから丁寧に「推敲」それも、英国の詩人ディラン・トマスは50回から100回と言っているのですが、それでは日が昇ってしまいますし、次の日の仕事にも影響が出ます。
創造する仕事には常に矛盾が付きまといますが、最低限、誤変換の数を少なくするという目標くらいはクリアーした上で、次の段階を考えられればと思います。
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