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2017年1月25日 (水)

トランプ大統領の就任演説にこだわるのは --世界、特に日本の状況との共通点を理解するため―― その前段

トランプ大統領の就任演説にこだわるのは

--世界、特に日本の状況との共通点を理解するため――

その前段

 

トランプ大統領の就任演説を聴きながら頭に浮んだのは、「空虚」「中身がない」「荒涼」といったような言葉で表される光景でした。こうした情緒的な反応から理性的な解決策に至ることはないだろうと思いつつ、より知的な前向きのメッセージを探そうと努力しました。アメリカのメディアの分析から、「情緒的」だと思っていたことこそ実は多くの人が共有していた受け止め方だったことが分ってきました。

 

それを端的に示してくれているのが、ワシントン・ポスト紙の作った次のリストです。これは、ジョージ・ワシントン以来、大統領が就任演説の中で使った単語の中には含まれていない、つまり就任演説の中では初めて使われた単語のリストです。24語あります。

            

24

                 

 大まかな訳を付けておきましょう。左の上から下に、次の右の列に移って上からです。

 

流血   大虐殺   枯渇  (修理・手入れの不足による)破損(状態)、荒廃 (金を)たくさん持っている   インフラストラクチャー   イスラム教の   婦人   光景   引き裂かれた   錆びついた  悲しい   連帯   広がり   盗みつつある   盗まれた   補助金漬け    墓石   罠にかかって捕らえられた   10兆憶ドル単位で   実現していない   止めることのできない   都市の   吹きさらし

 

黄色いマーカーで示したのは、否定的な言葉です。その他にも、「金をたくさん持っている」は、教育システムにお金はつぎ込んでいるのに教育の質は酷い、というために使われています。一言コメントしておくと、これは真実ではありません。また「イスラム教」は「イスラム教徒によるテロは全滅する」という文脈で、これも否定的に使われていますし、世界にはその他のテロも多くあります。「婦人」(lady)は、ジェンダー間の平等という視点からは、既に使われることの少なくなった言葉です。こう見てくると、新しく使われた言葉の傾向として、アメリカの現状が如何に酷いのかをこれまでの大統領が使わなかった表現によって、ドラマチックに訴えていることが分ります。「ドラマチック」の中には、不正確な表現、誇張や差別的な傾向もあります。

 

特に強調したいのは、ドラマチックであることと真実であることとは別物だという点です。例えば、トランプ大統領が訴えている「そして犯罪とギャングと麻薬が、あまりにも多くの命を奪い、あまりにも多くの可能性を実現しないままこの国から奪い去った」では、アメリカにおける犯罪が危機的状況にあるかのような印象を受けざるを得ないのですが、近年の傾向は正反対です。世界と同時に、アメリカも「非暴力的」そして「平和」になっているのです。ここに掲げた犯罪率のグラフを御覧下さい。

 

Photo

 薄緑は、実際の犯罪率ですが、濃い緑は、「昨年と比べて今年の方が犯罪が増えている」と感じている人のパーセントです。選挙期間中であれば、市民の「誤解」に訴えることもそれなりに理解できます。しかし、それでさえ「リーダー」たるべき人間が行ってはいけないと思いますが、一国のトップの大統領が、自国の犯罪率についての誤解を助長するような発言をすることなど常軌を逸しているとしか言えません。

 

「誤解」の範疇に入るのかどうかわかりませんが、次の一節では、「ワシントン」を責めそのワシントンの政治家を責め、富は全て彼らが掠め取ったと主張しています。

 

「今まであまりに長いこと、この国の首都の少数の人たちが政府の恩恵にあずかり、国民がその負担を担ってきました。ワシントンは栄えたが、国民はその富を共有しなかった。政治家たちは豊かになったが、仕事はなくなり、工場は閉鎖した。国の主流派(エスタブリッシュメント)は自分たちを守ったが、この国の市民は守らなかった。」

 

この辺りでオバマ大統領もブッシュ大統領も苦笑いをしたような気がしましたが、そうだとすると、その意味は明らかです。「ワシントン」という言葉でトランプ大統領が批判をしたい人たちの中には、恐らく大企業もあるのでしょうが、このスピーチから、仕事がなく貧困に苦しみプライドが傷付けられてきた人たちが期待するのは、その集中した富が、貧しい国民に再配分されるということでしょう。

 

では新たな「ワシントン」として、その仕事、つまり貧しい人たちの味方としてこれまで理不尽に蓄積された富を、「鼠小僧」のように庶民に分け与える役割を果す人々はどんな人たちなのでしょうか。トランプ政権の閣僚を見ると、圧倒的に多いのが、億万長者、あるいはスーパーリッチと呼ばれる人たちです。何度も報道されいますが、再度お浚いしましょう。

 

例えば、国務長官のレックス・ティラーソン氏は石油の最大手であるエクソン・モービルCEOから転身、財務長官のスティーブン・ムニューチン氏はゴールドマン・サクス出身で、ヘッジ・ファンドのオウナーでリーマンショックにも関係、商務長官のウィルバー・ロス氏は鉄鋼、繊維、自動車業界の再編にあたる再建王、労働長官のアンドリュー・パズダー氏はCKEレストランのCEO、運輸長官のイレーン・チャオ氏は大手企業の取締役として高給を取り、父は輸送業の大富豪、教育長官のベッツィ・ディボス氏はAmway創設者の息子の妻、中小企業長官のリンダ・マクマホン氏は夫とともに、ワールド・レスリング・エンターテインメントのトップ。

 

何度も示しますが、全人口の1パーセントに属し、高い給料を貰い米国の全資産のほとんどを所有している人たちです。

 

Photo_2

赤は、トップ1パーセントの収入の人たちの年収、青は下の方の90パーセントの人たちの年収。

 

この人たちが、貧しい人たちのために本気で仕事をするとして、自分自身の資産については全く考えることなく、それが仮に減ることになってもという気持になって、フェアで実効力のある所得の再配分をすることができるのでしょうか。

 

またまた、前置きが長くなりました。次回は日本と世界に視野を広げて行きます。

 

 

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