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2016年12月24日 (土)

『数学で未来を予測する』     野崎昭弘先生の力作を楽しむ


『数学で未来を予測する』

野崎昭弘先生の力作を楽しむ

 

ジョージ・オーウェルの『1984年』の中心的なテーマの一つは言葉です。「ニュースピーク」では、語彙を減らし言葉の意味を変え、市民が頭を使わないよう、その結果、「ビッグ・ブラザー」の言う通りに、そしてその意図を忠実に報道するマスコミの思う通りに従順に、羊のように行動するシナリオが描かれていました。

 

日本の、そして世界の現状と重なることが大変心配なのですが、それに対抗する手段を私たちは持っています。一つは言葉を大切にすることです。「広島ブログ」に参加しているブロガーの皆さんが、言葉にこだわり丁寧に発信を続けていらっしゃることが、民主主義を維持し守る上での基本なのだと、皆さんのサイトを覗かせて頂く度に痛感しています。

 

言葉を大切にする第一歩は、言葉の意味をきちんと知り、正確に使うことだと思います。それは、言葉の違いに注目することです。例えば、「手前」と「貴様」「君」「あなた」をごっちゃに使ってしまっては人間関係のぶち壊しになってしまいます。

 

「分別」のある人が評価されるのは、こうした差異を大切にするからなのではないでしょうか。そして、物事を「分ける」そして「違い」を大切にすることから生まれた成果の一つが「数学」という学問です。「一円」と「100円」を同じだと扱っては商売は成り立ちません。その違いを抽象化して、論理的に堅固な構造に創り上げたものの一つが数学なのです。

              

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 原爆製造というとんでもないことをもたらした物理学、人の生命を救える手段を提供してきた医学や生物学も、そもそもその基礎に数学があって初めてこのような力を発揮できます。このように間接的な関わりによって数学は大きな力を持っていますが、その力はもっと直接に私たちと関わっています。

 

ここからちょっと誇大宣伝になりますが、その一つが未来を予測する力です。例えば、算数の時間に次のような問題を解いたことはありませんか。

 

太郎君の家から直線で5キロのところに学校があります。太郎君が朝8時に家を出て、一分間50メートルの速さで学校に向かうと、830分の始業時間に遅刻しないで学校に着いているでしょうか。その時刻に太郎君は、家からどのくらいの距離のところにいるのかも答えなさい。

 

問題としてはあまり良い出来ではありませんが、この問題では、太郎君の行動の未来を予測することが求められています。そして、その問には答えが出るのです。それが数学の持つ未来予測能力です。その数学の力を使って、複雑化する金融市場で大金を得た成功者の話は皆さん御存じだと思います。10億円の宝くじが宣伝されている昨今、数学の力で当り籤を買えないものかと考えてしまうのも人間の性かもしれません。

 

それは無理な話なのですが、数学で予測できることできないことを分り易く整理して説明してくれているのが野崎昭弘先生の『数学で未来を予測する』(PHPサイエンス・ワールド新書)です。

  

Photo

 

この本で扱っている「予測」には次のようなものがあります。

 

 日本は今後も、高い技術力を維持できるだろうか?

 わが社は経済危機を乗り切れるだろうか?

 わが家は家庭崩壊せずに、子どもたちを育てられるだろうか?

 私の年金は、将来どうなるだろうか?

 明日の天気は晴れ? ?

 台風は何時頃接近するのだろうか、今日は電車で帰れるだろうか?

 地球が平穏に回り続け、明日また太陽が、東から昇ってくれるだろうか?

 

この全てを整理・分類して、その中で数学が威力を発揮するものについて詳しく分り易い説明があるのですが、野崎先生の著書の特徴の一つはユーモア精神に溢れていることですので、難しい説明も楽しめるのが魅力です。そして本質的な指摘も貴重です。

 

例えば⑦ですが、これはほぼ確実に明日も起ることですので、誰の予測も同じになるはずです。そして仮にその予測が外れたとしても、私たちにはなす術がありません。せめてアルキメデスのように、太陽まで届く棒があれば、梃の原理で少しは違う結果にすることは可能かもしれませんが、でも、そんな棒でも太陽の近くでは燃えてしまうでしょうから意味はなくなってしまいます。

 

しかし、世の中には、私たちの生活にかなりの影響がありながら、「嘘」と言っても良いような「予測」が罷り通っており、それを信じている人もたくさんいます。本書を読むことでそんな被害から身を守れれば、という老婆心から本書をお勧めしています。

 

ただし、今すぐアマゾンから注文するのは待って下さい。本屋さんで中身を見て、読めそうかどうかを確認して下さい。内容には結構数学的な部分もありますので、買ったのは良いけれど「ツンドク」になってしまっては勿体ないですから。

 

一つの可能性として、何人かの方と一緒にこの本を「読む会」を作って、定期的に集いお互いの勉強の成果を共有するというのはどうでしょうか。私も数学を勉強しましたので、それなりのお手伝いはできそうです。

 

またまた「宿題」になってしまいましたが、年末年始に未来に思いを馳せるのは日本文化の伝統です。未来のための勉強も良いかも知れません。

 

 

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