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2016年12月25日 (日)

良質な労働力を永続的に確保するために―短時間勤務制社員制度を導入―

良質な労働力を永続的に確保するために―短時間勤務制社員制度を導入―

広島電鉄においては、2016年末の労働協約改定交渉において、「短時間勤務正社員制度」について労使合意しました。一部のマスコミでも先進的な事例として報道され注目を集めようとしています。

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今日は、その当事者の一方である労働組合の私鉄中国広電支部委員長佐古正明さんに「導入の背景や内容」について報告していただきました。佐古さんは、広島県原水禁の代表委員でもあります。

1.乗務員不足の中で

 

交通運輸産業は当然ながら年中無休の労働集約型産業です。勤務は早朝から深夜に及ぶ不規則勤務で労働時間も拘束時間が長く、12時間以上拘束される勤務も多くあります。その割に賃金水準は全産業の中でも低位に位置していることから、採用募集しても応募者が募集数にも達しないなど、若い人からは特に敬遠される職業となっています。全国的にも各社とも要員の確保には苦労しており、乗務員不足のため正常な運行を確保するのが困難な会社も出てくるなど深刻な実態があります。

 

労働力確保のためには労働条件全般の見直しも必要ですが、規制緩和以降企業間競争が熾烈を極め、また少子高齢化や景気の低迷などによって利用者が減少し、収益が落ち込む状態では条件の向上は遅々として進まないのも実態です。

 

そのような状況ですから労働力確保のためには男性が主力の現状から門戸を広げ、女性も働きやすい環境の整備をする必要に迫られていることになります。

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広島電鉄の労使は2010年から「多様な働き方」の議論を始めて今回の労使合意に至りました。労使の思惑はそれぞれ違う部分があります。会社は女性の採用を促進することで乗務員の確保をしたいという思いがありますし、組合側は既存の正社員の働き方の選択肢を広げたいという思いで、今回は双方の思惑が合致した結果といえます。

 

 

2.短時間でも正社員で働ける制度

 

「短時間勤務正社員制度」とは、育児や介護などを並行しながら短時間の勤務を選択できる新たな制度として発足します。新たに雇用される社員も、またすでに雇用されている社員もそうした家庭の事情や体力によって選択が可能となりますし、事情が消滅すれば正規の勤務体系に復帰することも可能です。賃金は勤務した時間分しか支給されませんが、育児や介護のために退職を余儀なくされることはなくなります。

 

2009年に在籍していた非正規社員を全員正社員化し、その後も採用は正規社員としています。しかし、せっかく採用して教育訓練を行って養成しても、育児や介護、また病休明けに体力の低下を理由に退職をするといった事例が相次いだため、働き方の柔軟化を求めて会社と交渉を重ねてきました。

 

 

3.制度の運用には組合員の相互理解が必要

 

しかし、現実に導入するとなると様々な問題が想定されます。電車やバスの乗務員は一か月単位の勤務で、循環表というシフトで勤務します。短時間しか乗務できないとなれば、専用のシフトを作成しますが、運行を確保するためには、短縮した分を誰かが補わなければならないのです。それは他の組合員の時間外労働への協力や公休出勤で補うしか方法はありませんから、それだけ他の組合員の負担になる部分が当然発生します。また、早朝や深夜の勤務を補う頻度が高くなることも想定されますから、割に合わないと感じる組合員も出てくると思います。しかし、これからの超高齢化社会を考えるときには、けっして他人事で片づけられる問題でもないと思います。困っている組合員をみんなで助け合うという職場の風土を作りながら制度の定着を図らなければならないと思います。

 

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また、今回の制度の合意とあわせて、シニア運転士制度を改定しました。現状65歳定年ですが、健康に問題がない働く意思のある者は70才まで働き続けられるという制度です。この制度も短時間勤務制度の運用を補完する制度としてスタートします。そこまで働いても大丈夫かと周囲からは心配されるかもしれませんが、広電は年に二回の健康診断と二年に一度のサイクルで人間ドックの受診を義務付けています。経費はすべて会社負担で、脳ドックと心疾患などのチェックを行い、運行の安全を担保させています。

 

 

以上、広島電鉄で労使合意した「短時間勤務正社員制度」の導入の背景と内容について報告します。

 

 

 

私鉄中国広電支部委員長 佐古正明

 

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コメント

路面電車ファンさん、コメントありがとうございます。
熱烈なエールに心より感謝申し上げます。

マスコミがあまり注目しないのは、今回の短時間正社員の制度は、まだ実際に適用を受ける社員が存在していないというのもあるのかもしれません。しかし、来年には確実にその恩恵を受ける社員が出てきます。

現状、長時間労働やもの言えぬ職場風土の中で、自殺にまで追い込まれるような働き方を強いられている日本の労働者の働き方は、今こそ見直す時期であり、労働と生活の調和をいかにして均衡のとれたものにするかは、企業だけでなく労働組合にも大きな責任があると思っています。

そういった意味で今回の取り組みが広まっていけば、働き方も少しは変化していくと思います。私たちは制度を具体的に進めることでその有効性を証明していきたいと思います。

一路面電車ファンとして、日頃から感謝しつつ利用している広電の労使が、このように画期的な制度を作られたことに心から敬意を表します。

大企業も含めて、企業・資本の利益を優先して、そのために働く人間の権利や生命をないがしろにする風潮が顕著になりつつある今、広島の、しかも私たちの愛する路面電車をシンボルとする企業が、全国の先進例になっていることを本当に誇りに思います。

カープの優勝も嬉しかったのですが、今回のニュースは、もっと直接、私たちの生活に影響を与えるものです。地元のマスコミも全国のマスコミの広島支社も、なぜもっと熱心にこの事実を全国に広めないのでしょうか。芸能人のスキャンダルに現(うつつ)を抜かし、どうでも良い番組作りに時間を掛ける代わりに、この制度の歴史、意義これからの展望等について、全頁の特集や一時間特別番組を作ることで、多くの市民や働く人たち、そして経営者にも希望と力を送ることになるはずです。


やんじさん、コメントありがとうございます。
 おっしゃる通り、先ずは今以上に賃金や労働条件が向上することが理想ですね。
ただ、人件費の増加などに対応させるために運賃値上げすれば収益が増加するか、といえば必ずしもそうならないのが現実です。値上げをすれば、必ず他の交通手段(他社の利用、徒歩や自転車など)に変更したりする、利用者の逸走(利用者離れ)が起きてしまい、利用者数の減少によって値上げの効果は限られることになります。安易に運賃値上げは出来ないのが苦しい実情です。
 公共交通は安価で手軽に利用していただくことで、本来の役割を果たせると思っていますが、日本のように公共のものでありながら私企業が利潤追求のための手段として存在している以上、採算性が優先されることも事実です。私たちは限られた企業利益の中で、労働組合の立場で働く人たちの条件の向上も目指しながら、本来の利用しやすい公共交通機関としての価値を上げていきたいと思っています。
 電車の免許については、宮島線の免許はJRや他の私鉄と同じ国家資格の免許です。ただ、難易度は同じだと思いますよ。他社へ転職する人もいますが、他社から転入してくる即戦力の人が結構います。これは電車に限らずバスの運転士も同じです。

今までのパート労働が、正社員となれるのですね。
そうなれば、社会保証も充実しますからいいですね。
でも、賃金が上がらなければ、なんの解決にもならないでしょうね。
現実として、運転者はシフト以上に働かないといけない給与だからです。
運賃をあげるべきですね。昼間なんてとくに休日は、ほとんどの路線は赤字でしょうから。
今のような大型バスの必要性があるのかも。
あまり知られていないかもしれませんが、それも少数だとは思いますが。
広電に就職し、路面電車の運転免許から、郊外線の運転免許を取得したら辞める人もいるそうですね。
それは、郊外線の運転免許は、JRや大手私鉄と同じ免許であり、JRや大手私鉄より取得しやすいからだそうです。あの宮島線で試験をするからとか。

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