徴兵されたらどうしますか?
Elmwood
Park High School のレスリング・チームの仲間だったポールは、1967年にベトナムで戦死していました。彼の姉マーリーンは私の同級生でしたが、同窓会の幹事を務めてくれたりしていたことから親しくなり、今年、広島を訪問してくれたのですが、その際に初めてポールの早過ぎた死について語ってくれました。
レスリング・チーム――写真の身体の上にサインしてくれたのがポール
ベトナム戦争当時アメリカでは選抜的徴兵制度を採用していました。抽選によって徴兵されたりされなかったりが決まるのですが、ベトナム戦争反対運動のシンボルになったのは、徴兵票が送られてきたときにそれを燃やすことでした。その他にも徴兵を避けるためにいろいろな方法がありましたが、ポールのように従軍した青年が多かったことも事実です。ベトナム戦争時に、兵役に服すべき年齢層だった人たちにはどのような選択肢があったのか、整理しておきたいと思います。
① 志願する―――徴兵の対象になってもならなくても、自分から志願してベトナムに行くことは可能でした。
② 徴兵票が送られてきた場合―――
(ア) 指示に従って従軍する。
(イ) 従軍しない。
① モハメッド・アリのように、法律に従わないことを公表する。その結果として罰を受ける。
② ホームレスになったり、カナダやほかの国に逃げることで司直の追及を逃れる。
③ 徴兵の対象にならないように、事前の工作をする。
(ア) カナダ等外国に移住する。
(イ) 医師の診断を受けて従軍することのできない医学的理由があることを証明してもらう。
(ウ) 行方をくらまして、徴兵票が届かないようにする。
1966年、まだベトナム戦争批判がそれほど強くはない時にモハメッド・アリは「私はベトコンに何の恨みもない。罪のない人たちに銃を向ける必要なない」と発言して徴兵を拒否しています。その結果、裁判で有罪に処せられ、チャンピオンの位も剥奪され拳闘もできなくなりました。その後彼の権利は回復され、リングでの活躍もさらに目覚ましいものになりましたが、戦争反対、人種差別反対の勇気ある行動がアメリカ社会を動かす上で大きな力になりました。その功績を称えて、オットー・ハーン平和メダルその他の賞が贈られています。
戦前の日本でも徴兵逃れをするために、徴兵検査の前の日に大量の醤油を飲んで体調を悪化させ、身体的に不適格という判定を貰うこと等が行われていたようですから、徴兵・従軍・戦死という道を辿りたくない人たちが様々な工夫をしていたことは理解できます。
しかし、ポールのように (彼は②の(ア)に該当するのだと思います)
従軍した若者たち、その結果、戦死した若者の家族や友人たちの気持として、違法手段によって徴兵逃れをした上、罰も受けない人たちのやり方がフェアではないと思ったとしても、それも理解できるのではないでしょうか。
アメリカの国民感情として、このような対立軸がはっきり表れるのが大統領選挙です。今回は候補の一人が女性でしたので、その点は争点とはなりませんでしたし、オバマ大統領もベトナム戦争時は子どもでしたので、争点になりませんでした。しかし、2004年の選挙では、民主党のケリー候補側は、彼が海軍の一員としてベトナム戦争に従軍したことを強調するキャンペーンを展開しました。ブッシュ候補が州兵にはなりましたが、ベトナムには行っていないこととの対比で、「リベラル」「軟弱外交」といった批判をかわすためです。
しかし、徴兵票が届いた後の若者の行動にだけ焦点が合わされる世界観は修正すべきなのではないでしょうか。それ以前の段階で隠されていることが大切だからです。
マスコミもそれにつられて動いてしまう国民も問題だとは思いますが、その背後にいる為政者たちの意図は、若者の間にこのような対立軸を作り出してしまう「戦争」についての責任を誤魔化すこと、そしてそのことで利益を得てきたエスタブリッシュメントの既得権を守ることにあるという事実にこそ、焦点を合わせるべきなのではないでしょうか。
この項では、ベトナム側から見るとベトナム戦争はどう見えどういう意味を持ったのかには触れていませんが、遠いアメリカから多くの物量そして兵士を投入してなぜベトナムまでやって来なくてはならなかったのか、理不尽な戦争としか見えなくて当然だったのではないでしょうか。
4月に「予科練平和祈念館(2)」でも触れましたが、何万もの若者たちや子どもたちの命を犠牲にしなくて済むような国策を考え実行することこそ、私たち年配の大人の責任です。そのための長期計画を着実に策定できる政治家を選ぶ責任も私たち有権者にあります。出発点としてこの点を今一度確認しておきたいと思います。
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コメント
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何回か考えたことはあるのですが、答えは出ません。
色々考える中で「自殺するかも」と云う選択肢も浮かびました。
投稿: ⑦パパ | 2016年12月15日 (木) 15時19分
「⑦パパ」様
コメント有り難う御座いました。答を出すのは難しい問題だと思います。その可能性も、「自殺」も含めて若者にとっては深刻な選択です。
もっとも私の場合、子どもの頃は軍人だった父の影響で、陸軍に入るべきか海軍が良いのか考えたこともありますので、その頃なら①が答でした。
投稿: イライザ | 2016年12月16日 (金) 11時01分