総理大臣に任期を――そして罷免も 憲法上は許されています
憲法上は許されています
自民党総裁の任期を現在より長くするかあるいは無期限にする、この二者のどちらかにするという自民党の決定について、その影響と私たちに何ができるのかを考えてきました。自民党の総裁の任期は、それが法的拘束力は持たないものの、総理大臣の任期を実質的に決める上でそれなりの役割を果してきました。そのこととの関連で、現在は存在しない総理大臣の任期が必要だという主張をしました。それはアメリカの大統領には任期があることをお手本にしていました。
アメリカ大統領についての規定とその意味は分り易いのでまずそちらを使いましたが、私たちに取って一番基本的な憲法の規定から、論理的に引き出せる根拠もあります。それは憲法の第15条です。
第15条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
ここで「公務員」という言葉が使われていますが、その中には当然総理大臣も入ります。憲法でそれを説明しているのは第99条です。
第99条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
第99条で総理大臣を筆頭に挙げて、国会議員、裁判官と例示を続けて、「公務員」と言っているのですから、総理大臣は「公務員」の一番典型的な例と言っても過言ではありません。その公務員を罷免するのは「国民固有の権利」なのですから、私たちが総理大臣を辞めさせることができるのです。
第一次池田内閣
この点があまり注目されないのは、第15条にはこの後に公務員の本質について、さらに選挙についての項目が並んでいるために、つい「罷免」を見落としてしまうからなのではないかと思っています。第15条全体を掲げておきましょう
第15条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
現行法の立場では、国民固有の権利である総理大臣を選ぶこと、そして必要があれば罷免することは、国民が直接行使するのではなく、国会に託しています。内閣不信任については第69条に規定があります。
第69条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
不信任の決議は過半数で成立するので、憲法改正よりはハードルが低いのですが、それでも、現在のように与党勢力が2/3を占めている状況では、内閣が暴走してもそれを止める手立てはありません。
特に小選挙区制になり、当選するため、いやそもそも選挙に出るためにさえ政党に属し、かつ執行部の覚えが目出度くないと公認も貰えないというほど、政党、その中でも執行部の力が巨大化しています。そんな状況で内閣の不信任案が通る可能性などまずは考えられません。それとは逆に、図に乗った内閣が憲法の解釈改憲をし、戦争させるために自衛隊を海外に派遣するといった「暴政」を続けているにもかかわらず、国会の力ではそれを止めることができないのが現行の制度です。
制度的なレベルでの対応に限って考えると、今の小選挙制度を改めて、比例代表制度あるいはそれに使い制度にすることで、国会の構成によって内閣の暴政を止められるようにするか、国会も独裁政治の共犯になるような状況であったとしても国民が主権者としての意思を現実にできる制度を作るかといったことを考えなくてはなりません。
一つの答えになり得るのが、「国民投票」によって内閣の辞職を求めるという、現在私たちが持っていない手段を創設することです。罷免を頻繁に行うなどという無茶なことはすべきではありませんが、論理的には、罷免を定期的に行うのが任期ですから、総理大臣の任期を決めるというより現実的かつ効果的なことから始めたら良いのではないかと思います。
今の状態の国会がそんなことを検討さえしないであろうことは十分に理解しています。何とか私たちに共感してくれる世論を作れないか、懸命に努力することも必要です。それは、多くの皆さんが寝食を忘れて取り組んでくれていることです。同時に、現実として存在しなくても、また近い内に実現する可能性は低くても、論理的に考えると、私たちはこんな力も持っているのだ、それが主権在民の意味なのだという基本を再確認することからも、新たなエネルギーが生まれてくるのではないでしょうか。
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