マーシャル諸島共和国の勇気と日本政府の情けなさ
マーシャル諸島共和国の勇気と日本政府の情けなさ
前回は、マーシャル諸島共和国 (RMIと略します) が、2014年4月24日、核保有9か国を国際司法裁判所(ICJ)に提訴したことを受けて今月5日に、同裁判所が予備的争点についての判断を下す予定であること、その結論は歴史的なものになる可能性のあることを取り上げました。今回は、RMIがこのような勇気ある行動を取るに至った背景を説明しておきたいと思います。
提訴した理由は、核不拡散条約第六条の誠実な交渉義務違反理由です。その6条では、批准国全ては二つの事柄について「誠実に交渉」する義務があると規定しています。その二つとは、
① 軍縮--核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置について
② 条約--厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な核廃絶に至る条約について
です。
まず軍縮についてですが、核保有国は 21世紀中続けて、現在と変わらぬ核兵器配備計画を積極的に推し進めようとしていますし、アメリカの30年間で1兆ドルを初めとして、核装備の近代化・最新化に予算を付けています。核保有国は、軍縮についての義務を全く無視しています。
次に、核兵器を禁止したり廃止したりするための多国間交渉を全て無視しています。核不拡散条約の効力が発生した1970年から46 年経った今でも、軍縮・条約どちらの分野においても、交渉の目処は全く立っていないのです。つまり、核不拡散条約の第6条違反が公然と行われているのです。
条約とは約束のことですから、この条約を批准し、自分たちに課せられた義務・責任はきちんと果たしている国が、違反を犯している国に対して「約束を守れ」と言う権利のあることは当然です。RMIはその権利を行使してICJへの提訴を行っているのです。
しかし、それだけではなく、他国とは違う条件もあります。それは、RMIが独立する前、アメリカ領だった時代に、アメリカの核実験で大きな被害を受けていることです。
1946年から1958年までの12年間、マーシャル諸島はアメリカの核実験場として使われ、この間に全部で67 回も核爆発が引き起こされたのです。平均すると、毎日、広島規模の原爆が、「1.6」 個爆発したことを意味します。その中でも最大だったのは、Castle Bravo と呼ばれる実験で、1954年3月1日に行われました。第五福竜丸が被災したのもこの実験ですが、その規模は、広島原爆の1,000 倍でした。このような被害を二度と起こしてはいけない、起こさせない、という決意のもと、RMIは核保有国を提訴したのです。
Castle Bravo
さらに、MRIはアメリカに対して、かなり弱い立場に置かれている国です。それは、独立国として認められ国連にも加盟はしていますが、RMIはアメリカとの自由連合盟約によって、国防と外交の面では制限を受けているからです。つまり国防のついてはアメリカが全面的に管轄し、外交についても内容によっては一部制限を受けるという立場です。
核実験の被害を受けたことで、アメリカとの関係も通常の独立国とは違った弱い立場のRMIがこれだけ頑張っているのですから、独立国であり、「唯一の被爆国」あるいは「唯一の戦争被爆国」と言い続けている日本政府が、共同で提訴をすれば、ICJもそれなりの理解をしてくれるはずだと思うのは私だけでしょうか。日本政府の方針については何度も (1,2,3) 指摘してきましたので繰り返しませんが、主権者である私たちの力で何とかしなくてはならない深刻な状況ではないでしょうか。
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コメント
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コメント
RMIと日本は、国防と外交は、アメリカとの立場がどう違うのですか?
むしろ日本のほうが低い立場にいると思います。在日米軍に莫大なお金と国土を提供し国民が虐げられているのですから。それに、提訴さえもできない地位ですからね。
「やんじ」様
コメント有り難う御座いました。まさにこの点についての問題提起のつもりで書いて見ました。
RMIの「国防」はアメリカの責任ですし、RMI市民はアメリカ軍に入ることが奨励されています。お金の面では「自由連合盟約」で、アメリカがRMIを支援することになっていますので、その点でも日本より得をしているようです。
そんな関係でもアメリカを提訴した勇気を見習うべきではという問題提起でもあります。
また、日本の場合の日米地位協定を、他国とアメリカの間の地位協定と比較するなど、国際比較によって、日本政府の情けなさや愚かさが次々と明らかになる、もう一つのケースだとも思います。
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RMIと日本は、国防と外交は、アメリカとの立場がどう違うのですか?
むしろ日本のほうが低い立場にいると思います。在日米軍に莫大なお金と国土を提供し国民が虐げられているのですから。それに、提訴さえもできない地位ですからね。
投稿: やんじ | 2016年10月 3日 (月) 13時13分
「やんじ」様
コメント有り難う御座いました。まさにこの点についての問題提起のつもりで書いて見ました。
RMIの「国防」はアメリカの責任ですし、RMI市民はアメリカ軍に入ることが奨励されています。お金の面では「自由連合盟約」で、アメリカがRMIを支援することになっていますので、その点でも日本より得をしているようです。
そんな関係でもアメリカを提訴した勇気を見習うべきではという問題提起でもあります。
また、日本の場合の日米地位協定を、他国とアメリカの間の地位協定と比較するなど、国際比較によって、日本政府の情けなさや愚かさが次々と明らかになる、もう一つのケースだとも思います。
投稿: イライザ | 2016年10月 3日 (月) 15時34分