負けるが勝ち 国民投票の意味――コロンビア
国民投票の意味――コロンビア
コロンビアのサントス大統領の受賞が決った今年のノーベル平和賞ですが、マスコミその他に批判的意見が散見されます。その理由の一つとして、コロンビア政府と左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」との間の和平合意はできたけれど、和平案そのものは国民投票で否決されたことが挙げられています。さらに国民投票そのものに対する疑問も投げ掛けられています。結果が分り易いので、短絡的議論には持って来いのトピックなのでが、少し丁寧に考えて見たいと思います。
あまりたくさんの国の国民投票について同時に取り上げるのは難しいので、ここではコロンビアの和平案についての国民投票の他に、スコットランド独立についての国民投票、イギリスのEU離脱についての国民投票、そして日本の憲法改正についての国民投票、それに国民投票と言っても良いと思われるアメリカの大統領選挙を中心に考えたいと思います。
最初に強調したいのは、国民投票の結果と、国民投票の持つ意味や価値については切り離して考えるべきだという点です。日本の憲法改正とアメリカの大統領選挙についてはまだ結果は出ていませんが、その他のケースでは、国民投票の結果が私たちの期待していたこととは違うという共通点があります。そのことを出発点にして議論すると、国民投票そのものについての良し悪しという形になることも分ります。でも、それは切り離した方が良いというのが私の主張です。
抽象的かつ理想論に過ぎる考え方だと言われるかもしれませんが、世界各地で独裁制あるいはそれに近い政治が未だに横行している現状、法の支配よりは力の支配の方が「現実的」だと捉えられ容認されていることとの比較があまりされていないようですので、敢えて、「では国民投票より良い方法は?」という問で、問題提起をしておきたいと思います。
さて、コロンビアの国民投票は賛成49.76%に対して反対50.23%という僅差で否決されました。これで和平協議とその結果生まれた和平案が全てゼロになってしまうのでしょうか。政府とFARCとの協議は続いているということですので、これからの交渉次第でしょうし、他の反政府組織との協議も難しくはなるのだろうと思います。
反対派の考え方は、「誘拐や殺人といった罪を犯したゲリラが十分に処罰されない」と要約できるようです。それは、これまでの内戦の悲惨さ、そして自分たちがどれほど苦しんできたのかが十分に理解されていないという気持だと言っても良いでしょう。だからこそ和平が大切なのですが、そのプロセスで、被爆体験やそこから生まれた被爆者の「和解」の哲学が何らかの役割を果せないものでしょうか。日本政府に期待すること自体が無理なのかもしれませんが、キューバやノルウェーのように、別の立場からの「仲介」の可能性はないのでしょうか。
このケースでの「負けるが勝ち」は、ノーベル賞だけではなく、和平案の否決によって世界がコロンビアの状況を理解し始めたこと、その結果、長い間苦しみを味わい続けたコロンビア市民にとってより本質的な意味での支援が世界から届くであろうこと、とまとめられるのかもしれません。
そこで私たちがどう関われるのかなのですが、被爆の実相そして被爆体験、さらに被爆者が果してきた役割を世界の人々に理解して貰うことは大切です。それに加えて今私が反省しているのは、日本政府に期待ができないのなら、私たち市民やNGOが被爆者の哲学を元に、例えばUCLGが果しているような都市間連携の形で、あるいはほかの形でも良いのですが、他都市や他国の深刻な問題にももっと積極的に関わって来られなかったのか、という点です。
他の国民投票については、続編でお届けします。
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