負けるが勝ち (2) 国民投票の意味――イギリス、スコットランド、日本
負けるが勝ち (2)
国民投票の意味――イギリス、スコットランド、日本
前回は、コロンビアの国民投票を取り上げましたが、つい筆が走って――と言うのは不正確で、キーボードが走ってと言うべきなのでしょうか――大切なことを書き忘れていました。
それは、そもそも最終決定が国民投票によって行われること自体に大きな意味があるという点です。南米は独裁政権や軍事クーデターが頻発し政治が不安定だった歴史があります。加えて、半世紀以上にわたる内戦の影響は、想像することも難しいくらい深刻なはずです。そんな中、結果は否決になったと言え、そもそも和平案についての合意ができそれを国民投票で承認するという、「法の支配」の立場からは高く評価できるステップを踏んでいること自体に意味があるのではないでしょうか。
「法の支配」そして「立憲主義」という視点から我が国を見ると、コロンビアの方が「民度」が高いとさえ言わなくてはなりません。何故なら、本来であれば国会が発議し、国民投票で決めなくてはならないと憲法が定めている第9条の解釈について、その全ての手続きを無視して、閣議決定による「解釈改憲」をしてしまったからです。国民投票は「民意」を測るのではなく「民度」を測るという側面のあることは当然なのですが、その国民投票にさえ付さないで国政の大方針を決めても良いと考えている政権は、もう独裁政治の領域に入っているとしか言えないのではないでしょうか。
次にイギリスですが、イギリスがEUに残るのかあるいは離脱するのかという選択は、集団的自衛権を認めるかどうかとほぼ同列の重みを持ちます。イギリスという一国の枠組みを大切にするのか、主権の制限を受けてでもEUという集団の中での協調と存在を選ぶのかという問題だからです。そして集団的自衛権は、ある意味ではその対偶に位置しています。自国の防衛に限って国権を発動して自衛隊が動くのか、その国権を拡張解釈して他国の戦争にまで関与するのかという選択だからです。
重要なのは、このレベルの決定にあたってイギリスは国民投票を実行したという事実です。日本との比較で、法律に書いてあるから当然だという言い訳は使えません。日本の場合は、憲法に規定されていても実行しなかったのですから。
イギリスのEU離脱決定という結果に終わった国民投票については、「そもそも国民投票をしたことを後悔している」「もう一度やり直せないのか」「これからこの決定に縛られる投票権のない若者より、老い先短い高齢者の意向が尊重されるのはおかしい」「国民投票そのものの限界を示した」等々、様々な論評が加えられました。
しかしこの国民投票は、英語の表現の方がぴったりするのですが、「blessing
in disguise」です。日本の諺で近いのは「災い転じて福となる」ですが、英語の意味は、表面的には「災い」に見えるけれど、本当は「福」が隠されているケースだよ、という意味です。
この点については、7月30日のエントリー、「独立」 = 「平和」、で取り上げましたので、簡単に要約しておきましょう。スコットランドの独立を問う住民投票の目的は、スコットランドにあるイギリス唯一の核基地を閉鎖してスコットランドもイギリスも非核保有国になること、そしてNATOから離脱して非軍事国家になることでした。当然、EUからは離脱しません。
その住民投票で、独立派は僅差で負けました。でもイギリスがEUから離脱することになり、事情は一変しました。スコットランドはイギリスの傲慢な姿勢に付き合って、EUから離れるという事態に甘んじてはいないでしょうから、再度住民投票を行って、今度は独立派が勝つという作戦を立てています。そうなれば、世界の核廃絶や非軍事化も進み、力の支配という枷から解放される国も多くなるはずです。そうなれば、正面切って「災い転じと福となった」と言っても良いのではないでしょうか。そして、「負けるが勝ち」という結論になります。
アメリカの大統領選挙については次回をお楽しみに。
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