「忘れられた」金輪島
今日は古くからの友人、竹内良男さんの活動を簡単に紹介させて下さい。最初にお会いしたのはもう20年以上前になりますが、当時は高校の先生でした。広島に深い関心を寄せ被爆者の皆さんとの親交も深く、毎年、修学旅行では生徒を引率して広島を訪れていました。広島訪問の準備もとても丁寧に続けていました。生徒が自分たちで調べ学んだことを自分たちの手で記録に残し、それが次の年の生徒に役立つといった精力的な活動に圧倒されたことを覚えています。
そして最近のメールでは、今年の一月から東京で<ヒロシマ2016連続講座>を始めたことを知らせてくれました。広島から離れるほど広島への関心が低くなることを憂えての企画ですが、添付した年間計画を御覧頂ければ分るように、幅の広いそして広島理解のために本質的な事柄を取り上げ、一流の講師が話をすることになっています。自動車の運転適性検査でも「老化」がはっきり分る、つまりエネルギーレベルも下がっている身からは、どこからこれほどの創造的なエネルギーが湧き出て来るのか、ただただ感服しています。
でも、最近彼が送ってくれた『「忘れられた」金輪島』という冊子と、彼の最近の活動についての資料には、さらなる驚きが待ち受けていました。カープ戦では「神ってる」という表現が定着しましたが、二打席連続ホームランを体験したような気持でした。
金輪島のすぐ近くにあるもう一つの島、似島(にのしま)は、市内からも見える安芸小富士(あきのこふじ)のあることで市民には親しみのある島ですし、戦争中に陸軍の検疫所があったことから原爆後には臨時の被爆者避難所・病院として機能したことも良く知られています。約一万人の負傷者が宇品経由で似島に避難、その中の少なからぬ人たちはここで亡くなっています。仮埋葬をした場所も複数あり、広島市は1971年、90年、2004年に遺骨の発掘調査をしています。2004年の平和宣言でもこのことには触れられています。
宇品、似島、金輪島そして江田島の相対的位置関係
それに対して金輪島は、元宇品の目の前にあるにもかかわらず、原爆との関係という文脈で語られることが比較的少なかったような気がします。今回の竹内さんの労作は、2013年に金輪島を訪れたことを契機に、関係者の話を聞き、島内の原爆に関わる遺跡等を調査した結果の中間報告です。また、携帯用の島の地図と簡単な歴史そして知識をまとめた、「島歩きガイド」まで準備されていました。
冊子・「忘れられた」金輪島
島歩きガイドの表紙
金輪島は造船の島です。今は「新来島宇品どっく」ですが、戦前・戦中は軍の造船所として機能していました。そのため1945年には、学徒動員で働いていた生徒たちも含めて約2000人の人が島内で働いていたようですが、そこに、原爆で負傷した人たち約500人が避難してきたのです。
似島でも十分な医療体制はなかったのですから、金輪島の場合、もっと劣悪な状態で、この島から小屋浦等に移され人たちもあったようです。1998年には、この島に原爆死没者慰霊碑が建立されましたが、それはこの島で父を喪った田邉芳郎さん兄弟の尽力によるものだそうです。
島歩きガイドの中身
「小さな島の哀切な物語」という副題の『「忘れられた」金輪島』を是非お読み頂きたいのですが、「金輪島」という、ある意味では小さな存在に焦点を合わせることで、これまで以上に鮮明にそして深くまた普遍的な意味と共に、被爆の真実が浮き出てくる不思議さからも、私たちは新たなエネルギーを汲み取ることができるような気がしています。
このような新たなそして真実に至る視点から、被爆体験を見つめ直すことを可能にしてくれた竹内さんに感謝しています。
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