戦争と科学技術 オバマ演説と2000年平和宣言
オバマ演説と2000年平和宣言
オバマ大統領の広島演説を読み解く試みに戻ります。
戦争と科学技術との関係は複雑です。科学技術は人間に力を与えますので、その力を戦争のために使おうと考える人が出てくるからです。その顕著なケースが原爆・核兵器であることは言うまでもありません。
ですからオバマ大統領の広島演説でもそのことに触れています。
しかし、この空に上がったキノコ雲の姿は、最も明確に人類が抱える矛盾を想起させます。思想、想像、言語、道具作りなど、人類が自然界から離れ、自然を従わせることができると示す能力は、同時に、比類のない破壊力も生み出したのです。
物質的な進歩や社会の革新が、どのくらいこうした真実を隠してしまっているでしょうか。私たちはどれだけ簡単に、暴力を崇高な理由によって正当化してしまっているでしょうか。すべての偉大な宗教は、愛や平和、公正さにいたる道を説いていますが、どの宗教も信仰の名のもとに人を殺す信者を抱えることを避けられません。
国は犠牲や協力によって人々が団結するという物語を語り、台頭して偉大な成果を生みました。その同じ物語は、自分とは違う他者を虐げたり、非人間的に扱ったりすることに使われてきました。
私たちは科学によって海を越えてコミュニケーションできますし、雲の上を飛ぶこともできます。病気の治療や宇宙の解明もできます。しかし、そうした発見が、効率的に人を殺す機械になり得るのです。
近年の戦争は私たちにこうした真実を伝えています。広島も同じ真実を伝えています。技術のみの発展だけでなく、同様に人間社会が進歩しなければ、我々を破滅させる可能性があります。原子を分裂させた科学の革命は私たちに道徳的な進歩も要求しています。
これこそ私たちが広島を訪れる理由です。
(マーカーを付けた部分は、科学技術とは少し趣が違いますので別扱いにしました。)
つまり、科学技術の進歩は、必然的に人間が道徳的進歩を遂げることも要請している。だから広島に来るのだ、という主張です。科学技術進歩と人類の道徳的進歩とを並行して実現するという形での問題定義です。そして最後には、その答も広島にあることを示唆しています。
その広島では科学技術をどう捉えているのか、2000年の平和宣言が示しています。全文は、こちら で御覧頂くことにして、以下、特に関連のある部分を引用します。
コンピュータはもちろん鉛筆も、いや文字さえなかった太古から今日まで、20世紀が他のどの時代とも違うのは、人類の生存そのものを脅かす具体的な危険を科学技術の力によって創(つく)り出してしまったからです。その一つが核兵器であり、もう一つが地球環境の破壊であることは、言うまでもありません。そのどちらも私たち人類が自ら創(つく)り出した問題です。その解決も当然、私たち自身の手で行わなくてはなりません。
核兵器の廃絶を世界に向って呼び掛けてきた広島は、さらに、科学技術を真に「人間的目的」のために活用するモデル都市として新たな出発をしたいと思います。広島そのものが「人間的目的」の具現化であるような未来を、広島の存在そのものが「平和」であることの実質を示す21世紀を創(つく)りたいと考えています。それは人間の存在そのものを危機に陥れた科学技術と、人類との「和解」でもあります。
平和宣言では、「人間的目的」のために科学技術を使うこと、そして科学技術と人類の「和解」という形での解決を提示しています。
どちらの言い方も重要ですが、私たち一人一人がこのメッセージを日常の世界でどう生かして行くのかも大切です。
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