韓国の大学生と訪れた高暮ダム その2
韓国の大学生と訪れた高暮ダム その2
高暮ダム建設の歴史が明るみに出るきっかけとなったのは、1975年8月に朝鮮人被爆者協議会李実根会長から中国放送(RCC)三次通信部の山本喜介さんにかかった電話のようです。
三次の北、双三郡君田村へ、戦争中の朝鮮人労働者の強制連行・強制労働問題で調査に入りたいので、案内してほしい。できれば、誰か地元の人を紹介してほしい。」と。その調査がきっかけとなって、三次市内のジャーナリストや学校の教員、主婦などによって「県北の現代史を調べる会」が結成され、具体的な調査活動が始まり、当時の状況が、明らかとなったのです。昨日このブログで紹介した四車ユキコさんもそのメンバーの一員です。その貴重な調査結果は、1989年に発刊された「戦時下広島県高暮ダムおける朝鮮人強制労働の記録」という冊子となってまとめられています。
私も随分前に、この冊子を購入していたのですが、じっくりと読んだのは、今回が初めてです。
詳しいことを述べることはできませんが、高暮ダム工事現場には、家族を含めた労働者の総数は、5千人から7千人いたと言われ、そのうち朝鮮半島から連行された労働者の総数は、およそ2千人(推定)とみられています。まさに推定でしか、その人数を知ることはできないのが、当時の実態です。そして危険で厳しい差別の作業環境の中で、働かされ続けたのです。
高暮ダム堰堤横に建立された碑には、「高暮ダム朝鮮人犠牲者追悼碑」と刻まれていますが、もちろんそこには、犠牲者の名前も刻まれていません。本当に何人の朝鮮人がこの地で無念の死を遂げたのかも明らかになっていないのです。
しかし、「県北の現代史を調べる会」の人たちを中心にした地道な調査活動によって、当時の実態が明らかにされるとともに、地元の高野町や君田町の町村長たちが呼びかけ人となって、追悼碑が完成したのです。四車さんによれば「碑は、韓国の石で作られ、朝鮮半島の方に向けて」建立されています。そしてこの追悼碑の前で、毎年平和の祭典「高暮平和の集い」が開催されています。
特に、今回の訪問でも感じたことですが、地元高暮地区の人たちが、「こうした歴史が再び繰り返されないためにも『高暮ダムの歴史』を学ばなければならない」と努力されていることです。そして「高暮地区でなければできない『人権・平和の学習』をつくりあげる」ため、2001年7月には手作りで「強制連行と高暮ダム」という冊子まで作っておられます。その思いが、毎年の「高暮平和の集い」となって結実していると感じました。冊子の「発刊に当たって」にも記載されていますが、「地元として『触れたくない』という気持ちがあるのも事実ですが」との思いを乗り越えて、こうした活動が地道に、しかししっかりと続けられていることを改めて学ばされた今回の高暮ダム訪問でした。
全国各地で、中国人や朝鮮人の強制連行・強制労働の実態が明らかとなったのは、すべてこうした民間の人たちの努力によってです。国策によって進められた「強制連行・強制労働」の調査は本来国が責任をもって行うべきことです。「過ちを繰り返さない」ためにも、過去ときちんと向き合わなければなりません。
私たちが高暮ダムを訪れた前々日(25日)、韓国のソウル中央地裁が、三菱重工広島機械製作所で徴用労働された韓国人14人に対し、三菱重工に損害賠償の支払いを命ずる判決が言い渡されています。戦時町の強制連行・強制労働問題は終わっていないということです。
最後の触れておきたいことは、庄原市・庄原教育委員会が行政の責任として地元「高暮自治振興区」と共同して「高暮ダムの歴史を語り継ぐ」を発行していることです。そこには過去の歴史だけでなく「高暮平和の集い」についても、きちんとまとめられていることが印象的です。
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