井伏鱒二「黒い雨」の故郷をたずねまて
井伏鱒二「黒い雨」の故郷をたずねまて
井伏鱒二の「黒い雨」のふるさと、神石高原町小畠にある「歴史と文学の館 志麻里(しまり)」へ行きました。モデルとなった、重松静馬さんの原爆体験手記「重松日記」や、重松さんの尽力で井伏鱒二が当時の被爆者の人たちから聞き取りをした被爆体験をもとに、旧三和町(さんわちょう)が舞台の本です。重松文宏館長から、古民家を改造した小さな資料館で、小畠の歴史と「黒い雨」が出版される経過を貴重な資料を基にお話を聞きました。
井伏鱒二と親交のあった重松さんは、横川駅で被爆をしましたが、戦後、闘病をはさんで10年かけて、つけていた登用日記と覚書を原稿用紙250余枚に浄書した「被爆日記」を1962年(S37)、井伏鱒二に高覧の依頼をしました。最初は、子孫に残すことを考えていたが、「第5回原水禁大会」へ神石郡代表として出席した際、他府県の代表者が「あまりにも事実の認識がない」ことを痛感して、「原水禁運動の役にたつ」ことを願い反戦反核運動になればと依頼をしました。
しかし、小説になるまで2年以上の歳月がかかり、ベトナム戦争が泥沼に陥る1964年(S39)「書くことで反戦運動になれば」という思いで、「新潮」に「姪の結婚」として掲載が開始されました。井伏鱒二は、小説は虚構の世界であることから、登場人物や地名が実名だと「迷惑がかかることを懸念」していたが、重松静馬さんは資料提供者として「被爆者に対する最大の反戦反核となる。地名人名は実名で使ってほしい」と譲りませんでした。
わたしは「黒い雨」の中で、主人公の閑間重松が原爆投下後の市内を何度も歩き、「戦争はいやだ。勝敗はどちらでもいい。早く済みさえすればいい。いわゆる正義の戦争よりも不正義の平和の方がいい。」と言い切ったことばから、人間が人間でなくなる被爆の壮絶な姿を想像しました。
同じように、ブログ「ヒロシマの心を世界に」の「おすすめの本」にある、「奥田貞子 空が、赤く、焼けて 原爆で死にゆく子たちとの8日間」では「原爆の子~広島の少年少女のうったえ」(長田新 編 岩波書店)を読んだ衝撃より重たかった。「原爆の子」は希望が持てた本だったが、文字にして残せない幼子の原爆死の様子を、奥田さんの文字が伝えるという絶望でしかない、原爆の実相のむごたらしさが心を重くした。残された者の悲しみや痛恨の思いは「読む」ことや「聞く」ことで識ることはできるが、奥田さんは、語ることすらできない子どもたちの思いや、悲しみを伝えてくれました。
もうすぐ、ヒロシマの日をむかえます。あのきのこ雲の下で何が起きたかのか、ひとりひとりがどんなことを考え亡くなっていったのか想像することで、反核の思いをあらたにしたいです。
今朝、茗荷の初どりをしました。
広島県原水禁常任理事 中尾やすみ
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