モルロアの課題
モルロアの課題
フランスがポリネシアで行った核実験の被害について、タヒチのNGO、キリスト教会、そしてヨーロッパの専門家等市民社会の組織や個人が協力して調査を行い、その結果を『モルロアと私たち』という報告書として、1997年に発表したことには前回触れました。
このような調査が大切であることは言うまでもありません。そしてこの報告書を手にした多くの被害者が、自分たちの経験を話し始めたことも重要です。核実験場で働いていた人たちは、契約の中にある禁止条項「ここで経験したことは、”軍事機密”に該当する。口外してはならない」を忠実に守って、深刻な健康被害を受け苦しんでいても、どのような状況で被曝したのか、沈黙を守っていたからです。
それと同時に、核実験の被害者の健康調査を医学的な立場から、フランス政府に代って行うことも必要でしょう。それを元にフランス政府に核実験被害の補償や人権回復を求めることができるからです。とは言っても、核実験が中止されてからも時間が経っていますので、その間に亡くなった被害者も多くいますし、今から多くの専門家の協力によって医学的調査が行われたとしても、疫学的に十分な結果が得られるかどうかも分りません。しかし、時間が経てばその状況はさらに悪くなるのですから、どのような形であろうと、専門的な調査実現の可能性を探ることが大切です。
今回、タヒチへの旅で御一緒した医師の振津かつみさんは、広島・長崎の被爆者について、またチェルノブイリや福島の核被害についても専門的な立場から関わり続けて来られた貴重な存在ですが、タヒチでも現地の医師との共同作業を開始するための準備等、積極的に行動する姿が印象的でした。
そして、モルロアの被害者から直接、当時の経験を話して貰うためにいろいろな人たちに働き掛けていました。以前の調査の際にも中心的な働きをした、「モルロアと私たち」のローラン・オルダム会長によると、このような聞き取りを行う上でのもう一つの問題は、言葉だということも分りました。被害を受けた多くの人たちの母語はタヒチ語なのです。タヒチ語からフランス語そして日本語へと、二度の通訳が必要になります。
このことは、6月28日の夜マタイエア村で開かれた集会でも確認することができました。約80人の参加者からは次々と自分たちの健康状態について、また子どもや孫たちへの影響が心配であることなどの発言がありましたが、先ずタヒチ語からフランス語に、そしてそれが日本語に訳されるという二段階が必要でした。
マタイエア村での集会で発言する振津さん。隣は通訳・コーオーディネーターの真下俊樹さん。一番左は、フランス語とタヒチ語のボランティア通訳を買って出てくれた「193の会」のリーダー。
もう一つ気付いたのは、広島・長崎の原爆についての基礎的な事実をタヒチの人たちに伝えることで、運動も次の段階にステップアップできるのではないかということです。例えば鎌田七男先生の書かれた『広島のおばあちゃん』そしてその英訳『One Day in Hiroshima』のような、被爆の実相についての医学的な解説を中心にした分り易い入門書をフランス語にも訳し、それをさらにタヒチ語に訳すことも、被曝者・被爆者の連帯から新たなエネルギーを創り出す上での有効なプロジェクトになるのではないかと思います。
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