自然に出てくる”if”
2016年7月16日アップ
自然に出てくる”if”
小選挙区制度を導入するための法案が衆議院で可決、参議院で否決された結果、憲法59条の規定で両院協議会が開かれました。その結果は、協議が整わずその報告を衆議院議長にしたところ、その報告を受け取って貰えなかったところまで、前回説明しました。
もう皆さんには何が問題なのかお分りだと思います。憲法は、国会に衆議院と参議院を認め、それぞれが意味のある活動を行い、採決を通じてその意味を表明することを大前提としています。二つの異なった「議院」があるのは、医療根面での「セカンド・オピニオン」のように、そして「複数の」ということは「多様である」ことの始まりという意味なのですが、より良い判断に達するための人間の知恵が元になっていると考えるべきだと思います。
しかし、両議院が協議をして、より良い結果を出す努力も認めています。その両院協議会が妥協案を作ることができず、打ち切りを決めたのであれば、元の大原則である憲法59条に従って法律案は廃案になる、つまり法律にはならないという結論が本来の59条の意味です。
宮川隆義著『小選挙区比例代表並立制の魔術』(政治広報センター刊、1996)ではこの最終段階を次のように捉えています。「憲法と国会法を遵守すれば、この政治改革関連4法案は、両院協議会決裂の段階で廃案になったはずだった。細川・河野のトップ会談を斡旋した土井たか子衆議院議長の仲裁案は、『施行日を空白にして議決し、施行日の決定は各党協議機関に委ねる』という、事実上の廃案だった。土井議長の仲裁通りに妥協しておけば、政治改革熱病が醒めた時期に、頭を冷やした与野党で現実的な最終決着がつけられるはずだった。」
宮川氏も「憲法と国会法を遵守すれば、この政治改革関連4法案は、両院協議会決裂の段階で廃案になったはずだった」ことを確認しています。つまり憲法と国会法が守られなかったために、小選挙区制が導入されたのです。
宮川氏の記述は土井さんに好意的な解釈をしていますが、それを要約すると、土井さんは4法案を廃案にしたかった。そのためにトップ会談を斡旋して、廃案にするための自分の「仲裁案」を示した、ということになります。
ここで歴史の「if」が登場しますが、そんなことを意識していなくても、自然に出てくる疑問です。もし、宮川氏の言う通り、本当に廃案が目的なら、仲裁などせずに、両院協議会の報告をそのまま受ければ良かったのではないでしょうか。いや、廃案を目的としていなくても、憲法と国会法の規定通りの運用をする積りなら、協議が決裂したのですから、法案は廃案という結果になったのです。このシナリオの方が簡単で手続き的にも問題がなかったはずです。
加えて成田氏の述懐を信じると、土井さんは議長権限を逸脱して、両院協議会決裂の報告を受け取らなかったことになります。両院協議会の議長が公式にその結果を報告に来た以上、それは「報告」であって、議長が決定する権限を持っているのではありませんから、それを受けないということはあり得ません。きつい表現をすれば、これは憲法59条違反です。
しかも、こうしたやり取りは当時現場にいた国会議員にさえ詳しくは伝えられていませんでした。当然、選挙制度によって大きな影響を受ける選挙民そして子どもも含めた市民には、新聞を通してその結果が伝えられるだけで、国の方向を定める重大な決定が行われた実態は知らされていませんでした。
そこで再度歴史的な「if」を考えて見ましょう。両院協議会では妥協案ができなかった時点で、59条の本則に戻ることが何らかの理由で好ましくないと、衆議院ならびに参議院両院の議長二人とも考えた場合、憲法に規定のない「仲裁案」を密室の中で作り、それを原案にして、衆議院や参議院での審議を省略して「形式的」に両院業議会案として提出し「形式的」な決定をする代りに、国民投票に付することはできなかったのでしょうか。
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