ヒロシマ演説を支える「時代精神」とは (ヒロシマ演説を読み解く――その2)
ヒロシマ演説を支える「時代精神」とは
(ヒロシマ演説を読み解く――その2)
歴史に残る名演説は、いわゆる「雄弁術」等という言葉で呼ばれる技術的な面はさておいて、二つの相反する特徴を持っています。一つは、永遠の真理を述べていること。もう一つは、その時代、時代の空気、あるいは「時代精神」を反映していることです。
古代ローマのキケロの演説やリンカーンのゲティスバーグ演説がそのお手本です。もう少し現代に近いものでは、1961年のジョン・F・ケネディ―大統領就任演説、1963年のキング牧師による「I have a dream」演説などがあります。
ケネディー演説を起草したのは、当時のアメリカを代表する知識人たちでした。多くの市民がマスコミ等を通して読んだり聞いたりしていたことを実際に書いたり喋ったりしていた人たちの言葉がそのまま演説になったのですから、「時代精神」そのままと言っても良いスピーチだったのです。
御記憶の方もいらっしゃると思いますが、1960年代のアメリカにおける公民権運動、それと連動したベトナム戦争反対運動のリーダーの一人がキング牧師でした。彼はその時代の精神を創った人たちの中でも大きな役割を果しました。その彼の演説が時代精神の表現だったことは、言うまでもありません。
オバマ大統領のヒロシマ演説も当然、今の時代精神を反映しています。それをどう表現すれば良いのか迷うところですが、前にも書いた通り、アメリカの言論界で注目されてきた何冊かの書物の内容を紹介するのが一番早道だと思います。これらの著作とヒロシマ演説とを比較してみたいと思います。
その内の一冊が、コーネル・ウエスト教授の『人種の問題』です。署名は既に御紹介済みですし、オバマ大統領の広島訪問の意義もこの本に言及しながら説明しました。でもそれだけではこの本の重要性を示したことにはなりません。少し過激になりますが、この演説の「種本」だという言葉を使いたいほどの一冊です。その中でウエスト教授が整理してくれた「変革のための4原則」は、6月10日付けのブログで紹介しましたが、再度掲げておきます。
① 変革のための力は私たちの中にある。歴史的な文脈を踏まえた上での私たちであり力である。
② 「Life」が基本。生命・日常生活・人生・人類--身近なところから始めて、多くの人と共鳴し、人類が一体となって行動する。
③ 変革は未来の世代・子どもたちのためにする。
④ こうした変革を行う上で、古い枠組みに捉われない勇気あるリーダー、同時に、”Better
Angels of Our Nature”(私たちの中にある最善のもの)を引き出すことのできるリーダーが必要。
また、この4つの内の②と④については、不十分な形ではありますが、同じく6月10のブログで取り上げました。
さらに、6月5日付のブログ、「ヒロシマ演説を読み解く――その1[平和市長会議]」では、ヒロシマ演説の最後に近い部分を取り上げて、それが平和市長会議の考え方をなぞっていることを指摘しました。そこで引用した部分の直前はアメリカの独立宣言中の有名なフレーズ、「生命、自由、そして幸福の追求」でした。
「生命」から始まって、次に6月5日のブログで引用した部分では普通の人々の「生活」に思いをはせ、原爆で亡くなった方々の「人生」を振り返っています。これは、原則の②、英語では全て「life」なのですが、の大切さを強調している部分です。
さらに、「ヒロシマ演説を読み解く――その1[平和市長会議]」 で引用した部分に続いて、ヒロシマ演説では「子どもたち」を取り上げています。これは原則の③です。そして最後の文章で、「これこそ、私たちが選択できる未来です」と締めくくっているのは、①を確認していることになります。つまり、変革の力は私たち自身が持っているということなのです。
この部分だけに注目しても、『人種の問題』が大きく影を落としていることを理解して頂けると思います。
今回は、6月5日と、10日のブログで取り上げた個所の補足説明から始めましたが、次回は最初から順を追って、「逐条的」に演説の内容を考えて行きたいと思います。
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