美術展へのお誘い
美術展へのお誘い
―子どもを育てた平和教育―
自宅すぐそばにあるうどん屋(水木や)さんから出てこられた吉野誠さん(直前には被爆者の坪井直さんも)の姿を見て声を懸けました。吉野さんとは、以前にはよく集会や講演会で顔を合わせていました。しかし最近はあまり姿を見掛けることもなく、お元気だろうかと心配していましたが、83歳という年を感じさせないほど元気な姿でした。毎週月曜日には、がん予防の治療?のため千田町の病院に通っておられるようで、その帰り道の出会いでした。
「金子さん廿日市の方に行くことはないですか」と手渡されたのが、2枚の美術展の案内状でした。
美術展の案内状
うれしそうな顔で、「私が教えていた二つの中学校の教え子たちと美術展です。時間があったらぜひ見に来てください。」「私も30年前の版画を出品していますから。」とのこと。
「30年前の版画と言えば、森瀧市郎先生の慰霊碑前での座り込みを描いたものもありましたよね。」と私。「そうです。当時は30人ぐらいの被爆者に体験を聞かせてもらい、その人たちの版画を作りました。元資料館館長の高橋・・・えーと、そうそう昭博さんの姿も版画にしましたよ」
私の記憶のなかにも、核実験抗議の座り込みの中で、いつも参加者の様子をスケッチされていた姿が、はっきりと残っています。家に帰って、「確か、吉野さんの版画集があるはずだ」と家を探しましたが、残念ながら今日のうちには見つけ出すことができませんでした。
反核詩画集ヒロシマ
版画集は見つかりませんでしたが、詩人栗原貞子さんの8冊目の詩集となった「反核詩画集 ヒロシマ」は、すぐ目にすることができました。「詩画集」の名のとおり、詩人栗原貞子さんと画家吉野誠さんの共同の著書。この詩集の奥付に記された発行日は「1985年3月15日」。吉野さんの話にあった30年前です。
「あとがき」で、栗原さんは、「今回、広島の中学で、長い間美術を通して平和教育を熱心に続けてこられた画家の吉野誠さんの協力を得て、詩と画で語りつぐ『ヒロシマ』を刊行しました」とし、さらに「ユニークな版画で若い皆さんに訴えてくださいました画家吉野誠先生」と吉野さんのことを紹介されています。もちろんこの詩集には、栗原貞子さんの代表作「生ましめんかな」が収録されていますが、吉野誠さんの版画「生ましめんかな」も収録されています。
吉野誠作版画「生ましめんかな」
今日吉野誠さんから手渡されたもう一つが、アルミ板を加工して作った「ハト」のブローチでした。吉野さんは、このアルミ板を加工して様々な作品を作ってこられました。また吉野さんは、平和教育の教材としても生かしてこられました。アルミ板を加工した作品に共同制作「人間の墓標」があります。平和教育の中で、廿日市中学校の2年生全員(144人)が力を合わせて完成させたものです。「みんなが協力して作ったこの素晴らしい作品、この仲間の力、人間の力を信じて、私は平和のために何かしたい」作品作りに参加した子どもたちの声です。詳しい授業の様子は、上記の「詩画集」の中で詳しく述べられていますが、丸木夫妻が「原爆の図」を書かれる時の手法を取り入れるなど、何よりも「子どもたちに被爆体験を継承させる」ことに全力が注がれています。
ハトのブローチ
吉野さんの指導によって作られた中学生の作品の一つ「共同制作『生命の叫び』(木彫)」は、埼玉県東松山市にある丸木美術館2階のベランダに展示されています。現在の様子を訊ねようと丸木美術館に電話をしたのですが、電話に出る人がいなくて確認できませんでした。私も一度現地で見たことがありますが、きっと今も参観者に見守られていると思います。
吉野さんのような多くの先輩教師の努力によって花開いた平和教育。しかし、現在の学校現場は?
いま改めて平和教育の大切さが強く問われているように思えます。
吉野誠さんの教えを受けた教え子たちの美術展。きっと素晴らしいものとなることでしょう。
金子哲夫(広島県原水禁代表委員・元衆議院議員)
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