違和感のある日本語 その2
違和感のある日本語 その2
日本語も日々変っていますので、何が正しい言い方なのかも変ります。そうした自然な変化も受け入れなくてはならないのは百も承知です。同時に、美しい日本語を残して行きたい、若い人たちにもその美しさを分って貰いたい、それだけではなく使って貰いたい、できればその次の世代にも伝えて欲しいと思う気持もあるのです。これを「年寄りの冷や水」と呼ぶのか、日本語を愛する気持と呼ぶのかも論の分れるところかもしれません。
今回、最初に取り上げたいのは、かつてはかなりの違和感があったにもかかわらず、今ではそれほど違和感なく受け止めている表現です。
それは「ら」抜きの動詞です。受け身の意味での「殴られる」とか「見詰められる」という意味での「ら」ではなく、可能の意味、つまり「見られる」、「起きられる」、「寝られる」、「食べられる」、「来られる」です。これが従来の正しい使い方です。
それが、「ら」抜きになって、「見れる」、「起きれる」、「寝れる」、「食べれる」、「来れる」が広く使われています。初めの頃には、強く反発していたのですが、だんだん慣れてしまって、今ではそれほど違和感なく受け止めています。そして時間のない時には自分でも「来れる」と言ってしまって反省することもあります。
その言い訳ですが、「ら」抜きの表現は既に大正時代にもあったようなのです。芥川龍之介や永井荷風が活躍した大正時代だからと、こじ付けて納得したのではありませんが、日本人の感性の中に、このような言い方を許す要素があると考えても良いようです。
さて今回俎上に載せるのは、コンビニ用語です。一時は嫌になるほど使われていましたが、コンビニ業界での教育が徹底したせいか、最近はあまり耳にしません。④「1000円からお預かりします」―――800円支払わなくてはならないときに1000円札を出すと、必ずこう言われた時期がありました。具体的なお金のやりり取りは、「私」が1000円を出す。「店員」は1000円を受け取る。ただし、おつりを出さなくてはならないので、1000円がそっくりコンビニの所有にはならない。つまり、1000円は一時的にコンビニが「預かる」という状態である。「店員」はおつり、200円を「私」に渡して、「商取引」は終了する。(買った物は、「私」に渡される。)
意味として正確なのは、「1000円をお預かりします」です。これが店員の言うべき言葉でした。あるいは受け取る800円に注目するなら、「1000円から頂きます」でしょう。
でも、こんな混乱が生じたのは、漢字力のなさが原因かもしれません。マニュアルには「1000円から頂きます」と書いてあったにもかかわらず、「頂」と「預」が似ているために、それを読み間違えて、「預かり」だと頭の中で受け取ってしまい、それに辻褄を合わせるために「から」と言ってしまったのかもしれません。
言葉についての思いを書き始めるとついつい長くなってしまいますが、次に官僚用語で堪えられないものの一つ。しかも、官僚や時には「勝ち組」の印としてその他の人たちも、エリート的に使っている表現です。⑤「小官が既にお答して御座います」。「お答えしています」というところを「御座います」と言い換えることで、権威を付与する意図があるのでしょうか。完全な誤用ですが、それでも、こんなに便利な言葉は「使用し続けて御座います」という感じで一向に減りません。
その官庁・官僚についての報道でしばしば現れるのが⑥「しています」「しております」です。「官房長官はその件について「○○である」としています」、という形で使われます。文法的には間違いではありませんが、動詞を特定しないことで、意味がハッキリせず、従ってそれに対する批判が難しくなるという特徴があります。もっともそれが、この表現を使う目的なら納得も行きますが――。
官房長官は、この使い方が正しいと「言明した」「発言した」「述べた」「(それについて)口を濁した」「述懐した」「約束した」「明言した」等、どの動詞を使うのかを特定する段階で、報道の姿勢について反省する機会も生じます。何々と「した」で意味が通じることにして、この言い方を容認してしまうと、もっと酷い形で、こうした曖昧表現を使う為政者たちに免罪符を与えることになってしまうかもしれないと心配しています。
それでも、まだ、今程度の「違和感」で救われた、と考えるべきなのかもしれません。それは、この二つが合わさって、「官房長官は○○が正しいとして御座います」という表現にはまだお目に掛かっていないからなのですが――。
次回は、と言ってもライターが増えつつありますし、私がお約束したトピックでまだ取り上げ切れていないものも残っていますので、時間は掛かると思います。が、そのマスコミが警察以上の権威を振りかざしている最近の事例についても触れる積りです。
[お願い]
この文章の下にある《広島ブログ》というバナーを一日一度クリックして下さい。
« 森瀧市郎先生と座り込み | トップページ | LINE句会 »
「学問・資格」カテゴリの記事
- #アリストテレス と #トマス・アキナス に #激励されました ――#昔 #国会議員 の #勉強会 で―― (2024.01.25)
- #政治と政治学のあいだ #出版記念トーク ――#1月27日 #県民文化センター5階 #サテライトキャンパスひろしま #14時から―― (2024.01.19)
- 姉妹公園協定のために投下責任を「棚上げ」? ――「棚上げ」して、誰が得をするのか?―― (2023.09.26)
- 大学のブラック・ビジネスはいつ終わるのか ――入学しない人から入学金を取るのは止めるべきでは―― (2023.03.28)
- 免許証の更新をしてきました(2022.10.21)
「文化・芸術」カテゴリの記事
- #広島三越 の #大黄金展 ――#写真撮影可能 の作品が #二点―― (2024.01.24)
- 広島大学病院YHRPミュージアム ――かぼちゃの作品が沢山あるユニークな美術館です―― (2023.06.30)
- 数学を学ぶとは・教えるとは ――「数学人の集い」の楽しみ方―― (2023.06.11)
- 職責を果たす広島市の職員 ――基礎自治体では、信頼関係を作り易い―― (2023.04.02)
- [追悼] 大江健三郎さん ――「先生」なのですが、それ以上の存在でした―― (2023.03.14)
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- #モンブランインク ――#奥が昔のデザイン #手前が新しいもの―― (2024.07.12)
- #眼鏡を新調しました ――#フチなしをやめて #ボストン型にしました―― (2024.07.11)
- #ダメなものはダメ ――#社会には #最低限の常識 #というものがあります―― (2024.06.12)
- #青梗菜 の #収穫 と #料理 ――#農薬を使っていませんので #虫食いです―― (2024.06.11)
- #抜き取った雑草の量はどう量るか? ――#10リットルバケツ、そして米袋です。―― (2024.06.10)
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- #政府の #愚民化政策が大問題 ――#同級生の投票行動から考える・第13回―― (2024.08.28)
- #災害を #ネタにする? ――#今更ですが シリーズ 2―― (2024.06.28)
- #企業・団体献金禁止 に #反対する #小沢一郎議員 ――文字通り #語るに落ちた―― (2024.05.23)
- #アメリカ の #臨界前核実験 に #抗議の座り込み ―― #これが #G7広島サミットの意味ですよ!―― (2024.05.21)
- #なぜ今 #公費負担 なのか ―― #公私混同 を #止めさせるため―― (2024.05.18)
言葉って難しいですね。
「コンビニ」は省略語なので,「コンビニエンスストアー」と文書に書くように努めてきましたが,だんだん面倒くさくなってきました(笑)
憲法の変遷ならぬ日本語の変遷でしょうか?
投稿: ふぃーゆパパ | 2016年4月29日 (金) 10時43分
そう言えば、日本語入力システムとして代表的な ATOK は「ら」抜き表現に対する警告を出します。
実は、私は、そのATOKを使う「パソコン」に強い違和感と抵抗がありました。パソコンの前はマイコンという言い方もありましたが、特にパソコンには違和感があり、常にコンピュータと言っていました。
ただ、2歳になる前から、そのパソコンを日常的に使い、ホームページも作っていた小学生の息子が「うちには(コンピュータはあっても)パソコンはない」と思っていたと聞き、それ以来、相手によっては(無理にでも)パソコンというようになりました。
そして、今では殆ど違和感がなくなりました。
投稿: 工場長 | 2016年4月29日 (金) 16時41分
{ふぃーゆパパ」様
コメント有難う御座いました。恥ずかしながら私、「コンビニ」については、ずいぶん昔に沈没しています。
投稿: イライザ | 2016年4月29日 (金) 21時21分
「工場長」様
コメント有難う御座いました。
私は「マイコン」に違和感がありました。「パソコン」と共に、音の組み合わせに馴染めませんでした。でも今は、「パソコン」は割りに平気になりました。
でもどうしてもだめなのが「コンピューター」です。工場長さんも使っていらっしゃる「コンピュータ」で、発音も内容も問題はなく、一文字分スベーズが節約できるのに、何故「ー」を入れるのでしょうか。
これについては、「変なカタカナ語」とでも題してまた取り上げたいと思っています。
投稿: イライザ | 2016年4月29日 (金) 21時28分
コンビニって時々、とんでもないものまで「温めはいいですか?」と訊かれます。
1回「じゃあ温めて!」と言ってみたい衝動に駆られます。
「ら抜き」も「1000円からお預かりします」とだいぶ慣れ、麻痺しているのですが
「こちら、ハンバーグになります」と云うのだけは、いまだに気持ちが悪いです。
「じゃあ今はまだひき肉?」と訊き返したくなります。
投稿: ⑦パパ | 2016年4月30日 (土) 11時13分
IT用語の場合は、JISで「3音以上の場合には語尾に長音符号を付けず、2音以下の場合には長音符号を付ける」という規程がある一方で、それとは必ずしも一致しない「外来語の表記に関する内閣告示」がある上に、業界による慣例の違いなどがある場合もあります。
例えば body は自動車業界では「ボデー」、機械業界では「ボディー」、光学機器では「ボディ」と表記されるようで、複雑です。
続編を楽しみにしています。
投稿: 工場長 | 2016年4月30日 (土) 12時25分
「⑦パパ」様
コメント有難う御座いました。識者の中には、コンビニやファミレスが日本語破壊の確信犯だみたいなことを言う人もいたような気がします。また、お酒を買うときに、「20歳以上の確認」ボタンを押すのも、よれよれの高齢者でしかない私にとって、屈辱と言うか、恥かしいと言えば良いのか、変な気持です。
そして確かに「なります」も問題です。私も変だなとずっと思ってきました。
ただ、「おつりは105円になります」のような場合には、違和感がなかったので、不思議にも思っていました。
今日、駿河台大学の本多啓氏による「ニナリマス敬語について」を読んで、彼の仮説通りなのかなとも思えました。と言っても、多くの場合、違和感があるのが自然だとは思います。
URLは、http://www.surugadai.ac.jp/sogo/media/bulletin/Ronso31/Ronso31honda.pdf
です。
投稿: イライザ | 2016年4月30日 (土) 16時11分
「工場長」様
何時も私たちでは手の届かないレベルの知見・情報を共有して下さり有難う御座います。
外国語を日本語に移す場合、表記も大切なのですが、音も大切だと思います。私の違和感の多くは、外国語の音を日本語でどう発音し、どう表記するかの間に生じるズレです。
「音」として考えると、「ボデー」と「ボディー」「ボディ」の三つにあまり違いがないようにも思えるのですが、どうでしょうか。
投稿: イライザ | 2016年4月30日 (土) 16時17分
「そのように認識してございます」というような〝ございます〟用法を初めて聞いたのは、お役人の答弁においてでした。
次から次へとお役人さんが登場して、それぞれの報告をする場面では、もうそればっかりが耳について、話の中身が全く頭に入ってこない。
お役所言葉なのかと思っていたら、不祥事のお詫びをする企業の会見でも頻出。
その違和感に気を取られて内容がわからなかったとは言いませんが、見せかけの(誤った)丁寧表現で煙に巻かず、お役人にしても、企業の説明担当者にしても、もっとわかりやすい話をしてもらいたいと思いましてございます(笑)。
投稿: いぎんず | 2016年5月 1日 (日) 11時31分
「いぎんず」様
コメント有難う御座いました。
おっしゃる通りです。最後の「もっとわかりやすい話をしてもらいたいと思いましてございます(笑)」が効いてます。
投稿: イライザ | 2016年5月 1日 (日) 21時36分