子どもの権利条例があったら (1) ――憲法は子どもの権利も守っています――
野田市の少女虐待死事件のような悲惨な出来事を繰り返させないために何ができるのかを、憲法・子どもの権利条約・子どもの権利条例といった視点から3回に分けて考えてみたいと思います。
《野田市の少女虐待死から何を学ぶか?》
今年2019年の1月に千葉県野田市の小学校4年生の少女が虐待され死亡した事件は、広く報道され多くの人にショックを与えました。事件の概要は次の通りです。2017年の11月、亡くなった少女は小学校のアンケートに父親から暴力を受けていることを記入し助けを求めました。それに応えて柏市の児童相談所がこの少女を一時的に保護したのですが、その一月ほど後に、父親のいる自宅ではなく、親族宅で暮すことを条件に一時保護が解除されました。しかし、その後父親が、「父親に叩かれたというのは嘘です」という趣旨の、少女の書いた文書を見せたため、2月末に児童相談所は少女の帰宅を認めたとのことでした。ほぼ10か月後の2019年、1月初めに父親から学校に新学期の登校が遅れる旨の電話があり、その後も複数回同様の電話があったものの、学校、野田市、そして児童相談所の連携が悪く、21日になってようやく児童相談所が長期欠席の事実を把握し、24日には少女が死亡、父親の110番で公になりました。
この中で、「秘密は守る」という前提でしかも「匿名でも良い」という条件で子どもたちが記入したアンケートの内容を教育委員会が父親に見せていたという事実もあり、その結果として少女が父親に「叩かれたのは嘘だ」という言葉を書かされたことは、ほぼ間違いないにもかかわらず、それに対する対応は行われず、少女は自宅に帰されたことなど、関係機関の基本的な姿勢が問われることになりました。
一連の報道に接して、教育の現場で日夜、頑張っていらっしゃる皆さんに取っては他人事ではなかったと思いますし、こうした事態にどう対応して行くべきなのかについても、現場の感覚でお考えになっているのだろうと思います。私も、これまでの経験を元にして考えさせられることが多くありました。一つには、国会議員として子どもの権利条約の批准に直接関わりましたし、もう一つ、広島市長として、子どもの権利条例制定のための努力をしたことです。
しかし、今回の事件の報道では、条約にも条例にもほとんど言及がありませんでした。その点について以下報告したいのですが、大前提として憲法第13条のお浚いをしておきたいと思います。「憲法を数学書として読む」試みの中で、特に大切だと感じた条文の一つが第13条、特に冒頭の部分だからです。
第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
「国民」の中には当然子どもも入ります。子どもも「一人の個人として」尊重されるということの意味は、その子の生命や自由、そして幸福の追求といった権利も父親のそれと同等に重んじられなくてはならないということです。当然、このことを一番肝に銘じなくてはならなかったのは父親であり、そしてその父親からDVを受けていたとはいえ母親です。さらに、父と母にのみ責任を押し付けるのではなく、また親が責任を果せない場合の代替策を準備するといった社会全体としての環境整備が求められているという点が重要なのではないでしょうか。[以下、5月21日に続きます]
[2019/5/11 イライザ]
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