アメリカ

2017年4月16日 (日)

「Xデー」に何が起きるか ――4月15日午後9時時点では大事に至ってはいませんが――

 

Xデー」に何が起きるか

――415日午後9時時点では大事に至ってはいませんが――

 

415日は北朝鮮では金日成生誕105周年イベントが開かれ、韓国では大統領選挙の候補者登録、そしてアメリカの空母カール・ヴィンソンが北朝鮮を睨む公海に展開といった緊迫した状況下、この日を「Xデー」とみる予測が目立ちました。

 

             

Photo

 

空母カール・ヴィンソン (米海軍省のホームページから)


北朝鮮が核実験をするあるいはミサイルを発射する、アメリカが北朝鮮に対して攻撃を行う等の可能性の指摘でしたが、幸いなことに15日の午後9時時点ではこれらの可能性のどれも現実にはなっていません。

 

とは言え、一触即発の状態であることは論を俟ちません。以前も御紹介した平和活動家のジョン・ハラン氏は最悪のシナリオとして次のような可能性のあることを、発信しています。

 

北朝鮮が核実験を行いそれに反応してアメリカが北朝鮮を攻撃、さらにそれに対抗して北朝鮮が①通常兵器でソウルを攻撃する、あるいは②核兵器で、ソウル、上海、東京あるいはその距離にある他都市を攻撃する、という可能性を指摘しています。それに対してアメリカ、中国、あるいはロシアが何らかの対応をすることになり、北朝鮮が全面的に破壊される結末を迎えるという、絶対に起きては欲しくないシナリオです。

 

軍事行動とともにアメリカが歴史的に手を染めてきたのは、「暗殺」ですが、それを踏まえて考えると、「緩和ケア医」さんの予想にはそれなりの説得力があるように思います。とは言え、それで「問題解決」ということにはにはなりそうもありません。

 

しかし、北朝鮮はICBMの「保有」を誇示するという愚を続けていますし、対するアメリカ側は軍事力や経済力で相手を捻じ伏せようという姿勢を変えていません。

 

しかし、こんな時だからこそ頭を冷やして、ことによると億の単位の人たちが被害を受けるシナリオを、ハラン氏の表現を借りれば「正気の洪水」によって元に戻す努力をしなくてはならないのではないでしょうか。

 

東京新聞の412日の社説で、半田滋氏が説いているのも正にこの点です。

 

「トランプ米政権は北朝鮮に対する先制攻撃を否定していないが、日本や韓国が受ける被害はだれが攻撃しても変わりない。日本がとるべき道は米国に対し「北朝鮮との対話に乗り出し、その過程で核・ミサイルの放棄を求め、見返りに平和協定を結んで北朝鮮に『米国は攻撃しない』という保障を与えるべきだ」と強く進言することである。」

 

今の時点で対話の必要性を説いても手遅れだ、と言われるかもしれません。でも、まだ手の打てるときにでさえ何もして来なかった付けが今になって回ってきたのですから、これ以上の被害が出る前に、事態を平和裡に解決する努力をしても罰は当らないはずです。

 

 

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コメント

恥ずかしながらコメントいたします。
nancyです。

「正気の洪水」によって元に戻す努力をしなくてはならない。
本当にその通りだと思います。

戦争も経済も環境問題も
その根幹は人の心が
国や民族や宗教で分断され
バランスを失っているから起こること。

命も心もつながっているイメージを持つことが大事なのではないかな…
と思っています。

甘い夢想家だと笑われるかもしれませんが…

「Nancy」様

コメント有り難う御座いました。おっしゃる通りです。

9mm Parabellum Bulletというロックバンドも、Wanderlandという曲の中で同じことを歌っています。

「正気の洪水」が世界を包み込むよう、頑張りましょう。

「正気の洪水」。その手でしたね!
ついつい、「狂気」を批判することにばかり、エネルギーを取られてしまうので、反省です。

「hiroseto」様

コメント有り難う御座いました。「言うは易し」という側面もありますが、言い続けることの大切さを噛み締め、小さな波作りのための努力から始めましょう。

私たちが勘違いしていることは、北朝鮮は中国やロシア以外にもたくさんの国と国交があることです。国際的に孤立していないのですね。
どうしても戦いたいのなら、中国も含めて兵糧攻めしかないのでしょうが。
トランプ政権で北朝鮮対策が強行的になっているように感じますが、私はそれ以前から強化されていたと思ってます。それは岩国基地の在日米軍の強化です。
その岩国基地の強化を岩国市民が選挙で選んだことで、岩国市はミサイルの標的になってしまってますね。
軍事強化は、平和への道のりには含まれないということですね。
戦争で利益を得るのは、軍需産業とその株主だけであり、北朝鮮にも韓国にも日本にも国民にはなんの利益はないでしょうね。
今回の件で日本とアメリカの利害は一致してますね。戦争をすることでなくその危機を煽ることで、トランプ大統領と安倍首相は絶対政権を作ることに。

「やんじ」様

コメント有り難う御座いました。

沖縄の負担を軽くするために、米軍の一部を沖縄から岩国に移すのだという説明もされていますが、総量は多くなっていることを隠すために使われていてもおかしくはありません。

かつて、「列強」が「帝国主義」で先頭を切っていることだけを見て、「追い付け追い越せ」で頑張った日本が、時代の変化を読み取れずに周回遅れの破滅に陥ったのと同じことを今また繰り返していることに気付かず、同じ轍を踏んでいるのは残念ですね。

2017年4月 2日 (日)

「ヒロシマ・ナガサキ ZERO Project」 ――着々と準備が進んでいます――



「ヒロシマ・ナガサキ ZERO Project

――着々と準備が進んでいます――

 

原爆や核兵器についての歴史の中で、重要な役割を果した三人の著名人のお孫さんが3人とも核兵器廃絶のために頑張っていることを報告しましたが、その一人は『ヒロシマ』の著者ジョン・ハーシー氏の孫、キャノン・ハーシー氏でした。1月に来日されたときには芸術やフィルム、テレビ・プログラム等の分野でともにリーダーとして活躍中の西前拓氏と一緒でしたが、今回は西前氏一人での来広でした。

 

話が弾んで、写真を撮るのを忘れてしまいましたので、前回の写真を使わせて頂きます。キャノン・ハーシー氏と西前拓氏です。

 

                 

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1月にお会いしたときに伺った、プロジェクトは「平和円卓会議2020 Peace RoundTable(仮称)でしたが、「核なき世界」実現のための円卓会議を今後4年間にわたって開き、2020年までに実行可能なことを積極的に推進するという目的が掲げられていました。その計画がかなり進んで、今年の1029日に、「ヒロシマ・ナガサキ ZERO Project」として開かれることになりました。

 

クラウド・ファンディングを通して、支援者も募っていますので、こちらのページも御覧下さい。今日から始まったばかりなのですが、目標額100万円に対して、今これを書いている時点では、3000円の申し込みがありました。皆さんも御協力宜しくお願いします。

 

当日のプログラムですが、先ず袋町小学校の校庭を使って、黒田征太郎氏やキャノン・ハーシー氏がリーダーになって、遊んだりアート作成をすることから始まります。一つの目標は壁画作成ですが、それは皆さんに、黒田征太郎氏が準備したハガキ大の枠組をダウンロードして貰い、それに自らの手で絵や文字を描いたものを事前に送って頂くという準備が必要になります。それらのハガキを貼り付けながら壁画を作るという予定です。

 

その後、隣にある人まち交流プラザで、4つの分科会に分かれて、パネル・ディスカッションそしてワークショップを開きます。テーマは前回も御紹介しましたが、再度掲げます。

 

☆人権  Human Rights for Peace  核の問題は人権問題でもあり、各国の核被害者との連携が重要。 例;核被害者フォーラムや世界各地の被爆者との交流事業

 

☆環境  Healthy environment for Peace  核の問題は環境問題でもあり、地域社会、国際社会がいかに共同で取り組むべき問題である。 例;被爆樹木プロジェクトなど

 

☆コミュニティ  Community for Peace  自分たちの住むコミュニティ、町や村から平和を広げていくことが重要。 例;Mayors for Peace 平和首長会議

 

☆イノベーション  Innovation for Peace   テクノロジーの力で核問題に関する新たなコミュニケーションを生む。 例;オンラインソフトやアプリの開発、Hiroshima Archive

 

最後の「イノベーション」を考える上で、急速に変る社会を元にして新たな行動を考える必要のあること、そのためには「パラダイムの転換」という視点から社会を見直さないと間に合わないのではないかという感想を西前氏と共有することができました。

 

例えば、インターネットを通して使われるビットコインやアップルペイその他のアプリやシステムが進化しつつあって、銀行の必要ない経済さえ議論されている時代になり、私たちを取り巻く経済の枠組みそのものも大きく変わるであろうということ、自動運転やドローン等の技術の実用化は時間の問題で、そうなるとこれまでの政治の枠組で人類的な問題に対応しようとしている「今」の問題意識では解決が難しくても、解決への道筋が生まれるかもしれないこと、しかし、その中心にあるのは多くの人々の生命と生活であり、「都市」の本質的な役割を大切にして行かなくてはならないこと等が、話題になりました。

 

ワークショップのリーダーになるのは、以下のパネリストやゲストたちです。

 

■主なゲスト&パネリスト■

田上 富久/長崎市長・平和首長会議副議長

秋葉 忠利/前広島市長  

ウィリアム・ペリー/元アメリカ国防長官

渡部 朋子/ANT-Hiroshima (NPO)

近藤 紘子/谷本平和財団

中村 桂子/長崎大学RECNA准教授 

黒田 征太郎/アーティスト

加用 雅信/広島妙慶院住職 

スティーブ・リーパー/Peace Culture Village

キャノン・ハーシー/1Future (NPO) 代表    

西前 拓 /1Future (NPO) 代表                  

ドロシー・マスーカ/南アフリカの国民的歌手  

順不同

 

一日の最後はコンサートとプレゼンテーションです。ワークショップでの成果を、プレゼンテーションとしてまとめ、またコンサートのために駆け付けてくれるアーティストたちとともに、歌、踊り、プレゼン、展示等で盛り上がるフィナーレになりそうです。

 

このイベントに先立って、ニューヨークでも同じ趣旨のイベントが開かれるようですので、できたら参加したいと思い、先ずは旅費捻出のために宝くじを買うことから始めたいと思っています。

 

 

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2017年3月30日 (木)

核兵器禁止条約交渉開始 ――参加しない日本政府は国際社会で被爆者を「抹殺」しているのです――


核兵器禁止条約交渉開始

――参加しない日本政府は国際社会で被爆者を「抹殺」しているのです――

 

現地時間327日に、国連で核兵器禁止条約締結のための交渉が始まりました。日本は、高見沢軍縮大使が「この交渉には参加しない」という演説をしただけで、今後の交渉には参加しないことを表明しました。

            

Photo

                 

核兵器禁止条約交渉一日目

 

昨年10月に交渉開始の決定をした国連の第一委員会でも日本は反対をしましたが、その時以来主張は一貫しています。今回の言葉は、「国際社会の分断を一層深め、核兵器のない世界を遠ざける」そして「現状では交渉会議に建設的かつ誠実に参加することは困難だ」。

 

こうした言葉が如何に空虚で出鱈目か、さらには知性も良識もかなぐり捨てアメリカの意向を忖度し、日本も核兵器を持ちたいという妄想に操られている結果だということは何度も指摘していますが、このブログの昨年1030日の「核兵器禁止条約締結への大きな一歩!112日の「外務省の詭弁に市民はどう対抗できるのか」、そして同3日の「「亀裂を深めている」だけでなく「作り出している」日本政府・外務省」を再度お読み頂ければ幸いです。

 

こうした日本政府の「情けなさ」、「傍若無人」振り、「破廉恥」さ、等々、どう私たちの気持を表現すれば胸が晴れるのか思いあぐねている方には、ジョージ・オーウエルの『1984年』をお勧めしましたが、今回は「我慢するのももう限界だ」という皆さんとともに行動しようという決意表明ができればと思います。

 

私が「限界」を感じている理由をもう一つ挙げておきましょう。「国家」とは国際社会で、その国に属する人間の生命・財産や意向を代表し代弁する義務を負っていると考えられます。集団自衛権を認め自衛隊の海外派兵も容認しろと政府が言った時には、海外に住む日本人の生命を保護するためだという理由を上げたのですから、この点は政府も認めなくてならないはずです。

 

さて、核兵器廃絶の議論を国際的に行う際、当然被爆者の体験やそれに基づいた被爆者の意向を国際社会に伝え、その意向が実現されるため他の国家に働きかける役割は、どこかの国家が行わなくてはなりません。それはどこの国なのでしょうか。

 

国際社会では日本政府が「唯一の被爆国」だと言い続けているのですから、当然、日本でなくてはなりません。その日本政府は、核兵器を禁止しようとする国々が苦労の末に、「交渉開始」まで漕ぎ着けた核兵器禁止条約締結のための会議に参加しないと、「堂々と」述べています。

 

これは被爆者に対する「裏切り」だと表現されていますが、それだけではありません。日本という国家が被爆者の存在を重んじ彼ら彼女らの意思を国際社会で「自国民」の言葉として代弁することを拒否しているという事実は、世界中の200近い国家の中で、被爆者の生命や体験、そして哲学を、国連を含めた国際社会で代表する国、代弁する国が一国もないということに他なりません。

 

単純化すれば、被爆者の存在を無視している日本という国家は、事実上被爆者がいないも同然の扱いをしているのですから、それは、国際社会という枠組の中で被爆者を抹殺したことになります。そんな国家に対して手を束ねていても良いのでしょうか。

 

日本が始めた戦争という枠組みの中でアメリカの投下した原爆によって殺され、あるいは負傷し地獄の苦しみを受けてきた被爆者たちが、核兵器の廃絶が現実的な課題として国際社会で取り上げられている今、今度は自国という国家によって「存在しない」も同然という、過酷な運命を背負わされていることに、今こそ私たちは真っ正面から向き合うべきなのではないでしょうか。

 

どはどうすれば良いのかですが、次回は私たちも覚悟を新たにして、安倍総理大臣、岸田外務大臣、国会議員、広島県知事、広島市長等に働き掛けるときが来たことを確認したいと思います。

 

 

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2017年2月24日 (金)

トランプ大統領の精神状態 ――専門家の意見が分れています――  


トランプ大統領の精神状態

――専門家の意見が分れています――  

 

「『国家の品格』 ――諸悪の根源は「論理」と「合理的精神」――」では、トランプ候補が論理と合理性の両者を捨てたことで選挙戦に勝利し、アメリカ社会は藤原正彦氏の著書『国家の品格』が理想とする社会に向かうとも考えられるのではないかという問題提起をしました。また、論理と合理性を捨てたトランプ氏を熱狂的に支持した人が多かった事実についても考える必要のあることを指摘しました。そのために、『国家の品格』とそれに対する反論である『「国家の品格」への素朴な疑問』(吉孝也/前川征弘著・新風舎刊)を取り上げる予定でしたが、その前に、論理と合理性を捨ててはいけないことを精神医学や心理学の立場から訴えている専門家たちの声をお届けしたいと思います。

 

恐らく最も注目されたのは、213日付のニュー・ヨーク・タイムズ(NYT)電子版に掲載された、精神医学の専門家35人による警告です。大きな波紋を呼んだ投稿のタイトルは「精神衛生の専門家がトランプ氏についての警告をする」です。専門家としての観察は次のような内容です。

「トランプ氏の発言や行動は、異なる意見を受容する能力に欠けることを示し、その結果、怒りという反応を示す。彼の言葉や行動は他者への共感能力に著しく欠けることを示している。こうした特徴を持つ個人は、自分の精神状況に合うように現実を歪めて捉え、事実と事実を伝えようとする人物(ジャーナリストや科学者)を攻撃する」

 

そして結論としては、次のように述べています。

 

「トランプ大統領の言動が示す重大な情緒的不安定さから、私たちは彼が大統領職を瑕疵なく務めることは不可能だと信じる」

 

NYTへの手紙の中で、これら35人の専門家は、1973年にアメリカ精神学会が制定した「ゴールドウォーター・ルール」を破っての行動であることを宣言しています。そのルールの内容は、精神科医がニュース・メディアと精神医学についての話をすることは許されるけれど、自分が直接診察したことのない人について、さらにその人の合意なく、精神医学的な診断を行い公開することは許されない、というものです。

 

このルールが作られた背景には、1964年の大統領選挙で、『ファクト』という雑誌が、共和党のバリー・ゴールドウォーター候補の精神状態について、精神医学の専門家の意見調査を行いその結果を掲載したことがあります。ゴールドウォーター候補に取って大変不本意な内容でしたので、同氏は名誉棄損で訴え勝訴したのです。

 

このルールを守らない理由として、35人の専門家は次のような見解を示しています。

 

「これまでこのルールを守って沈黙を続けてきたことによって、今という危機的状況にある時に、不安に駆られているジャーナリストや国会議員に専門家としての力を貸すことができなかった。しかし私たちは、これ以上沈黙を続けるにはあまりにも重大な危機に瀕していると考える。」

 

それだけではありません。以前にも報告したChange.orgを使っての署名運動が展開されています。35000人の精神衛生の専門家の賛同を呼び掛けてこの運動を始めたのは、心理学者・精神科医のジョン・ガルトナー博士です。現在、28000人を超える署名が寄せられています。まずはそのページです。

 

               

Changeorg

             

 呼び掛け文を訳しておきましょう。

 

「私たち、精神衛生の専門家として下記のごとく署名をした者たち (署名に際して、御自分の持つ資格を明記して下さい) は、ドナルド・トランプがアメリカ合衆国の大統領としての義務を適切に果す上で、心理学的な能力に欠けることを明確に示す精神疾患を患っているとの判断が正しいと信じている。よって、「(大統領としての) 権限を行使したり義務を果たすことが不可能な場合には」大統領の職務から解任される、と述べている米国憲法修正25条の第3項に従って、彼が大統領職から解任されることを謹んで要請します。」

 

ガルトナー博士はゴールドウォーター・ルールについても、それが制定された時とは条件が変わってきていることを、『フォーブズ』誌のエミリー・ウィリングハムさんの記事で指摘しています。

 

大きな違いの一つは、その後、アメリカの精神医学会がDSM (精神疾患の診断・統計マニュアル) と呼ばれるマニュアルを採用した結果、個人の言動についてのいくつかの客観的に判断できる基準を満たせば特定の精神疾患に罹っていることを判断できるようになったことだと主張しています。それに従えば、ある人物について直接の診察をしなくても精神疾患についての判断が出来ようになったから、ゴールドウォーター・ルールの適用はあまり意味がなくなったという結論です。

 

参考までに、ガルトナー博士がトランプ大統領の疾患として特定している「自己愛性パーソナリティー障害」をDSMの第4版では次のように規定しています。

 

誇大性(空想または行動における)、賛美されたい欲求、共感の欠如の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。

1. 自分が重要であるという誇大な感覚(例:業績や才能を誇張する、十分な業績がないにもかかわらず優れていると認められることを期待する)

2. 限りない成功、権力、才気、美しさ、あるいは理想的な愛の空想にとらわれている。

3. 自分が特別であり、独特であり、他の特別なまたは地位の高い人達(または団体)だけが理解しうる、または関係があるべきだ、と信じている。

4. 過剰な賛美を求める。

5. 特権意識(つまり、特別有利な取り計らい、または自分が期待すれば相手が自動的に従うことを理由もなく期待する)

6. 対人関係で相手を不当に利用する(すなわち、自分自身の目的を達成するために他人を利用する)。

7. 共感の欠如:他人の気持ちおよび欲求を認識しようとしない、またはそれに気づこうとしない。

8. しばしば他人に嫉妬する、または他人が自分に嫉妬していると思い込む。

9. 尊大で傲慢な行動、または態度

— アメリカ精神医学会DSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル]][9]

 

この意見に対する反論も当然あるのですが、このDSMの筆者の一人であるアレン・フランシス博士は、トランプ氏の言動に問題のあることは認めるが、例えば何人かの人たちが主張しているような「悪性の自己愛性パーソナリティー障害」としての認定はできない、と述べています。

 

その他の反論もあります。もう一つ、仮に精神疾患があったとしても、そのこと自体が大統領としての不適格性を示すことにはならないという指摘もあります。それは過去の大統領の言動を、DSMに従って篩に掛けると、精神疾患があると認められる人が何人もいるにもかかわらず、大統領としての職務はこなしている、という指摘です。例えばリンカーンはうつ病だったと信じられていますが、偉大な大統領の一人としても不動の地位を占めています。

 

また別の面からの批判もあります。ニュー・ヨーク・タイムズのリチャード・フリードマン氏は、人間としてのモラルの欠如や政治家としての不適格性を「精神疾患」だからと言ってしまうことで、その本人の政治的・倫理的・人間的等の責任を免除してしまうことになる危険性のあることを指摘しています。

 

難しい議論なのですが、マスコミを通して日本で政治家の評価をする際に、このような知的なレベルでのやり取りにはほとんどお目に掛かったことがないような気がします。『国家の品格』の視点からは、どう判断すべきなのでしょうか。そして、アメリカでトランプ大統領が誕生したことは事実ですが、アメリカ社会はまだ「論理」も「合理性」も捨ててはいない、と言って良いのでしょうか。

 

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2017年2月19日 (日)

『国家の品格』 ――諸悪の根源は「論理」と「合理的精神」――  


『国家の品格』

――諸悪の根源は「論理」と「合理的精神」――  

 

最初にお詫びです。217日は「2016原水禁学校の最終日」で、福島から福島平和フォーラムの代表で福島県教職員組合の委員長をなさっている角田政志さんを迎えてフクシマの現状について学びました。広島県原水禁常任理事の中谷悦子さんが、詳しく報告して下さっているのですが、アップするのが遅くなってしまいました。まだお読みでない方には、是非御一読頂きたく、再度御案内致させて頂きます。

 

******************************

 

マイケル・ムーア監督が、トランプ大統領の当選を予言したことは良く知られていますが、実はもう一人しかも10年以上前に、こんな動きが起るべきだと熱く説いていた人がいます。藤原正彦氏です。ベストセラーになった彼の著書『国家の品格』の中で、氏が諸悪の根源として糾弾していたのが「西欧流の論理」そして「近代的合理精神」です。この二大悪が昨年のアメリカ大統領選挙でどう捨てられていったのかを見ることで、アメリカ社会が藤原氏の理想に近付いていることが分るはずなのですが、果たしてそれが人類の目指している方向に沿うものなのかどうか、考えて見たいと思います。。

 

トランプ大統領が「論理」と「合理性」を捨てていることについては信頼するに足る証言者がいます。2015年から選挙の時までトランプ候補に密着取材をした『ローリング・ストーン』誌の記者マット・タイビ氏です。彼の記事を集めた『Insane Clown President (狂気のピエロ大統領)――2016年のサーカスからの報告』 (Spiegel & Grau社刊) が秀逸です。そこから、大切なポイントをいくつか拾っておきましょう。

 

                 

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 選挙中 (そして選挙後、大統領就任後も続いていますが) のトランプ候補の言動の内、誰にとっても明らかだったのは、トランプ氏が嘘を言う、あるいは矛盾した内容を臆面もなく言い続ける、前に言ったことを平気で否定する、しかもそれに対する説明や謝罪は一切ない、ということです。マスコミを通じて私たちもそのことは良く知っていたはずです。例えば、就任式の会場に何人の人が集まったのかについて、マスコミ報道ではオバマ大統領の最初の就任式では180万人、それに対して今回は70から90万人とのことでした。トランプ大統領の反応は、マスコミは嘘をついている、自分には150万人くらいに見えたと報道されています。

 これまでの大統領選挙の報道では、これほど明白な嘘が並べられれば、マスコミが一斉に叩き、その結果、候補は陳謝に追い込まれ選挙戦から撤退するというシナリオしか想定されていなかったのだそうです。しかし、トランプ候補は自分の嘘は認めずマスコミに対する反撃をすることでさらにマスコミから注目されるというパターンを繰り返してきただけではなく、マスコミはそんなトランプ氏をさらに取り上げ、注目度を上げることに貢献してきたということなのです。

 つまり、政治という重要なトピックの当事者としての扱いではなく、あくまでも視聴率を稼げる「エンターテインメント」としてトランプ候補を取り上げ続けたということです。

 自分でコマーシャル代は出さずにマスコミに取り上げられ、その結果支持率が上がる現実を見て、共和党の他の候補もトランプ候補の真似をし始めます。その結果、選挙戦の実質的内容はなくなり、いかにセンセーショナルなことを言ってマスコミに注目して貰えるかの競争になりました。最終的にはマスコミの操縦術に長けたトランプ氏が勝利を収める結果になったことは、皆さん御存知の通りです。

 嘘が罷り通ったということは、論理を捨てたということですし、マスコミに取り上げられるために広く社会全体そしてその構成員である市民の立場を尊重するのではなく、また歴史を謙虚に振り返ることもなく、どれほど突飛な発言ができるのかに走ってしまった共和党候補だけが残ったということは、アメリカ政治に残されていた合理性を捨て去ってしまったことでもあります。より広く捕らえれば、知性まで捨ててしまったのです。

 

しかし、それでもトランプ候補の演説に涙し、就任式で感涙に咽んでいた人が多かったのは何故なのでしょうか。

 

次回は『国家の品格』とそれに対する見事な反論である『「国家の品格」への素朴な疑問』(吉孝也/前川征弘著・新風舎刊)を取り上げて、この問に答えるのと同時に、これからどうすべきなのかについても考えて見たいと思います。

 

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2017年2月17日 (金)

私のお宝(1) ――英単語カード――  


私のお宝(1)

――英単語カード――  

 

アメリカでの高校時代、自分で作った単語カードです。一枚目は授業中に先生の指示に従って作り、それに加えて30枚くらい、宿題として出されていた単語のペアを一枚のカードに書き写して作りました。

 

まず、「3-by-5 card」、つまり3インチ×5インチの大きさのインデックスカードを半分に切ります。角を斜めに切って、裏表と上下が手で触っただけで分るようにします。表には、スペリングが紛らわしくて、アメリカ人でも良く間違う単語 (このリストは宿題として渡されていました) の一対を書き込み、ひっくり返して裏には、それぞれの単語の意味を書きます。私はそれに日本語の意味も書き加えました。

 

宿題に出された単語についての試験もありましたので、とにかくカードを持ち歩いて何度も繰り返しましたので、全部覚えることができました。懐かしくて最近、このカードを取り出して何枚かを復習してみましたが、老化現象でしょうか忘れている単語があって、それはちょっとショックでした。

              

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さて、今の時代、高校生はどんな単語カードを使っているのか聞いてみると、きれいに印刷され、例文付きの覚え易いものが出てきました。自分で作ると手間が掛かります。同時にその手間が記憶のためのカギになって覚えやすいという側面はあるものの、分り易いフレーズが一緒になっていたり、例文が添えられていることも大切ですので、どちらがベターなのかは一概には言えないのかもしれません。

  

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 かつて、覚えていた単語を忘れていることのショックに加えて実はもう一つショックがありました。最近の子どもたちは英語の時間に「筆記体」を教わらないのだそうです。国際化が進んで、ハンコの代りに自筆のサインが必要になる時代だけに心配なのですが、サインくらいは練習次第で書けるようになるでしょうから杞憂かもしれません。

 

でも、アップルの創始者であるスティーブ・ジョブズ氏が大学生の時にカリグラフィーに魅せられたことから、美しいコンピュータができた史実を思い起こすと、筆記体を学ぶことには創造性を育むというもう一つの大切な役割もあるような気がするのですが――。

 

 

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コメント

ペンでは筆記体でしかかけないので、筆記体で書いたら
「そごっ、書けるん?」と子供に言われましたw

「⑦パパ」様

コメント有り難う御座いました。

消えつつある筆記体を守るために、「昭和の歌を守る会」を真似て、「筆記体を守る会」でも立ち上げましょうか。

20年ぐらい前に通信添削の仕事をしていました。
その当時から、ブロック体オンリーでした。

最近、ある掲示板で、英語圏在住に方々に質問しました。
オバマ大統領のメッセージが筆記体だったので、果たして今でも使われているのか疑問に思ったからです。
複数のアメリカ在住の方々から回答があり、大体30〜40代が境目で、やはり若い方々はブロック体を使うとか。でも、おばあちゃんの手紙を孫が読めないなど、不都合があり、州によって違うようですが、筆記体復活のところが増えているそうです。
なお、signatureだけは各自が工夫した筆記体みたいなものだそうです。

「komitan」様

コメント有り難う御座いました。筆記体についての貴重な調査結果も教えて頂き、感激です。おばあちゃんの手紙が読めないのは、そう言われてみれば分りますが、気が付きませんでした。「筆記体を守る会」も立ち上げたいですね。

2017年2月 8日 (水)

日米比較   --億万長者がお金を出さなくても、自ら動くマスコミ--


日米比較  

--億万長者がお金を出さなくても、自ら動くマスコミ--

 

2010年にアメリカの最高裁判所が、「表現の自由」を守るため、選挙運動のために企業や組合の使える金額に上限はないと結論しました。その結果として巨万の富が選挙資金として流れ込み、誰もが、2012年の大統領選挙は大きな影響を受けるだろうと予測しました。

 

結果は、オバマ大統領の再選、上院は民主党、下院は共和党という勢力分布は全く変わりませんでした。しかし、人口の0.001パーセントの声が政治の方向性を決めるという大きな変化が起こりました。それは例えばウィスコンシン州やノース・カロライナ州で、それ以後どのように政治が変ったのかを視ることで理解できるのですが、その流れの辿り着いた先が、2016年のトランプ氏です。彼が共和党候補になり、大統領選挙そのものも制した背景にある、お金の存在を忘れてはなりません。

 

しかし、それは、「賄賂」とか「票の売買」という直接的な手段ではなく、テレビのコマーシャル、あるいはYouTubeへの投稿を宣伝する、または自分たちの信ずることを「正当性のある」政策としてまとめて広める、といった形で使われています。

 

「日本は常に、10年遅れでアメリカの後を追っている」と言われることがあります。もしそうなら、新しい形での金権政治の姿は日本の10年後を示しているのですから、それに対する対策を考えておく必要があることになります。

 

しかし、『ニューヨーク・タイムズ』の前東京支局長であるマーティン・ファクラーさんの『安倍政権にひれ伏す日本のメディア』 (双葉社・20162月刊) で具体例として掲げられているいくつかの出来事を元に、日米の比較をする限り、アメリカなら億万長者が巨万の富を注ぎ込まないと動かせないほどのことが、日本ではマスコミ自身の「自己規制」や「空気を読む」結果として簡単にできてしまっているために、実は、事マスコミの言動そしてマスコミの作り出す世論という点では、日本の方が先行しているのではないかという気さえするほどです。

 

             

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マスコミのあり方、そして私たちが勇気をもって発言する大切さを再確認するためにも、具体的エピソード満載のファクラーさんの好著をお勧めします。その中で触れられている大切な一つの事例があります。ファクラーさんが自らも調べ、『ニューヨーク・タイムズ』誌にも掲載されたのだそうですが、私も全く知らなかった「事件」です。以下、その部分の要約です。

 

北海島宗谷郡猿払村 (そうやぐんさるふつむら) は、日本最北の村として知られているが、戦争中、ここに浅茅野 (あさじの) 飛行場を造ることになり、その作業には服役中の日本人受刑者や朝鮮半島から連行してきた500人から1000人の労働者が従事した。

 

戦後、猿払村には奇跡的に一つの記録が残されており、90人近い朝鮮人労働者と20人ほどの日本人受刑者が死亡していたことが記録されていた。彼らはいわゆるタコ部屋に入れられており、脱走しようとして捕まれば棍棒で殴り殺されるといった悲惨な目に遭ったことを目撃した村民もいた。

 

この話を聞いたことのある水口孝一氏は、有志を募り、日韓合同のチームを組織して考古学者やボランティア、学生等、数百人の力で20006年から2010年までに、亡くなった人々の遺骨を発掘し、合計59体の遺骨を収集した。

 

強制労働による犠牲者を悼み歴史を後世に残すため、水口チームや支援者等が発起人になって現場近くに石碑を建立することにした。韓国メディアは、「日本はこんなに良いことをしている」と大きく報道した。それを目にした一部のネット右翼が「北海道の村がこんなけしからんことをやっている」「強制連行というウソ、捏造を自治体自ら広めている」と騒ぎ始め、村役場に電話による電凸やメール攻撃を行った。その結果、20131126日に行われる予定だった除幕式は中止された。

 

ファクラーさんは、自治体の対応の仕方にも問題があると指摘していますが、それ以上にこのようなニュースを取り上げ・支援しなかったマスコミの責任を問題にしています。猿払村は「孤立無援」の状態に置かれて、なす術を失ったからです。

 

国家権力がマスコミに圧力を掛ける凄さという点では、アメリカの方が日本より上だとファクラーさんは考えていますが、アメリカのマスコミはそれに立派に対抗している、と言っています。それに対して今の日本のマスコミは、報道や表現の自由についての認識が本当にあるのか、記者一人一人の人権と表現の自由を守るため、イデオロギーを超えて「全マスコミ」として戦う積りがあるのかを問うています。アメリカのマスコミがメジャー・リーグだとすると日本のマスコミは高校野球なみ、だというのがファクラーさんの診断です。

 

原発についての報道一つを取っても、日本のマスコミの情けなさをそう表現したくなる気持は分ります。そして、本当のところは、私たちの目に見えないところで巨万の富が動いているからこのような結果になっているのかもしれません。

 

そうではなく、巨万の富の力など使わなくても、「権力」というより大きな力の前に、日本のマスコミはひれ伏してしまっているのだとすると、アメリカで「明日」起こるかもしれないことが日本では既に起きてしまっていると言うべきなのかもしれません。

 

 

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2017年2月 7日 (火)

もう一冊の『Dark Money』   --Citizens United と最高裁判決--

もう一冊の『Dark Money』  

--Citizens United と最高裁判決--

 

前回はジェーン・メイヤーさんの著書『Dark Money』の内容をリストにして簡単に御紹介しましたが、その一つ一つの項目をもう少し詳しく説明したいと思います。政治とお金、選挙とお金の問題はどこでもいつでも視野に入れておかなくてはなりません。特に選挙の際の「ネガティブ・キャンペーン」という形で、対立候補についてのあることないことをテレビのコマーシャルとして流すことが、アメリカの選挙では当たり前になり、それが選挙結果を左右していることは御存知だと思います。

 

そのような目的のために、企業や組合が使える金額には制限がなくなったというのが、前回の⑥でした。


 2010年にはCitizens United という団体による訴訟で、企業や組合が、選挙の際に候補者に直接の寄付をしなければ、選挙運動のために使える金額は無制限であるとの最高裁の判決を勝ち取る。このことで、選挙が金で買える状態になった。

メイヤーさんの力作Dark Money』を要約する積りだったのですが、実はもう一冊『Dark Money』という本がありました。著者はジョン・クックさん。Kindle Unlimitedに登録すると無料で読めますので、試しに読んでみたのですが、私がお伝えしたいことがそのまま書いてありましたので、クックさんのまとめた、Citizens United  (CUと略します) という団体の紹介と、CUが提訴した裁判についての最高裁の判断を私なりに要約して御紹介します。

 

               

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2002年に、「Bipartisan Campaign Reform Act (超党派キャンペーン改革法)が作られましたその内容は企業や労働組合が選挙前の一か月間はネガティブかポジティブかに関わらず候補者についてのコマーシャルなどを流すためにメディアに対してお金を払うことを禁止するという内容でしたそれ以前から非営利団体についての制限はありましたので営利団体を含めることで選挙運動についての規制が整備されたと考えられていました

 

非営利団体についての規制は、お金のない候補でも選挙で極端には不利にならないような環境を整備するという目的でした。

 

ところが、2008年にCitizens United という、コーク兄弟から膨大な資金を受け取っている団体が、ヒラリー・クリントン候補についてのネガティブ・キャンペーンの一環としてオン・デマンドのビデオを作り、そのビデオを宣伝するメディア・キャンペーンを精力的に行いました。連邦選挙委員会(FEC)は、これが超党派キャンペーン改革法違反だと判断して、中止命令を出したのですが、CU側は、表現の自由を保障している憲法の修正第一条違反であることを理由に、裁判を起こしました。

 

最終的には最高裁判所が判決を下したのですが、その判断には重要な4つのポイントがあります。

 

 FECそして、超党派キャンペーン改革法は、憲法の修正第一条違反を犯している。

 企業にも、個人と同様に「表現の自由」が与えられている。それは「表現」することが可能などのような主体についても、この自由が保障されているからである。

 巨額の資金が使われているという事実だけから、政府がそれを「腐敗」であると断定することはできない。つまり、いくら以上なら腐敗であり、それ未満ならそうではないという客観的な基準を設けることができないからである。

 支出額の制限を加えることは、市民の知る権利を侵害する可能性がある。情報を広げるのにはお金がかかるという理由で作られた規制によって、ある情報が隠されてしまうのは市民の知る権利の侵害になり得る。

 

この結果、CUそしてコーク兄弟、ならびに多くの億万長者たちは、選挙戦を勝つためには無制限に自分たちの資産を使えるようになり、アメリカ社会は大きく変りました。日本からはなかなか見えない状況のですが、トランプ大統領を生んだ社会、そしてトランプ大統領の言動を理解するために、何回かにわたって御紹介したいと思います。

 

 

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2017年2月 5日 (日)

トランプ大統領の詭弁 --カギはDark Money--


トランプ大統領の詭弁

--カギはDark Money--

 

戦後70年総理大臣談話 (以下「談話」と略す) が、詭弁の典型であることはそれなりに御理解頂けたと思っていますが、私たちがその意識を共有し安倍政治に自分の言葉で反論して行くことがこれからの課題の一つだと思います。

 

トランプ大統領の詭弁を説明するには、その前提としてアメリカ社会の現状そして歴史をより詳しく理解する必要のあることは既に指摘しましたが、数回にわたって、その中でもあまり知られていない「Dark Money」、つまり「黒い金」あるいは「汚い金」を概観したいと思います。トランプ大統領誕生の裏には、巨万の富を操り、しかもその実態は公表されることなく、アメリカの政治風土を30年以上にわたって右傾化させることに情熱を燃やし、ついに成功させた億万長者のグループがいたのです。

 

そのリーダーは、チャールズ・コークとデービッド・コークの二人、まとめてコーク兄弟と呼ばれますが、二人の資産を合わせると世界第一位の富を手中にしています。Forbes誌によると、世界一はMicrosoftのビル・ゲーツで750億ドルですが、チャールズとデイビッドはそれぞれ395億ドルですので、二人合わせると800億近くになり、合わせて一位になります。(日本円にすると、1ドル110円として、88000億円)

 

その二人を中心に、アメリカの「Dark Money」の真相を明らかにしているのが、雑誌『ニューヨーカー』の記者だったジェーン・メイヤーさんの『Dark Money』という力作です。日本語訳も出ていますので、それをお読み頂けば十分ではあるのですが、私なりの感想文を書く積りで「さわり」を御紹介したいと思います。

            

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Dark Money』は詳細な調査によって明らかになった事実を元に, 1970年代からこれまでアメリカのスーパー・リッチなごく少数の人々がアメリカの政治を事実上動かすほどの力を持つようになった歴史を描いていますその内特に重要な何点かを最初にまとめておきましょう

 

 デービッド・コークは1980年の大統領選挙にリバタリアン党の副大統領候補として出馬したが、総得票の1パーセントしか取れず、政治の表舞台で活躍することを諦める。その代りに自分たちの保守主義あるいは自由至上主義 (リバタリアンをこう訳していますが、政治のあらゆる場面で政府の関与を否定、特に課税権を縮小すること、環境問題についての関与をなくすこと等を主張している) を広め、選挙を応援することで政治的な影響力を増すことを中心に活動を始める。


 まず、保守的なシンク・タンクや研究所の後押しをしたり新たに設立したり、大学等の研究者にも経済的支援を行うことで、理論武装をし、さらに具体的な政策が説得力を持つような啓蒙方法等についても補助を行った。


 保守的なマスコミを抱き込み、自分たちの主張を広範に広め、リベラルなメディアに対する影響力も「飴と鞭」で拡大する。


 自分たちが寄付をしている慈善団体をトンネルさせるなどして、多額の選挙資金を自分たちの意のままになる候補者のために支出する。その際に、自分たちの名前は公にされないシステムを構築する。


 2003年に、コーク兄弟がそのためのネットワーク作りを始めた。最初集まった億万長者は十数人だったが、その後、このネットワークに招待されることがステータスになるくらい、組織は大きくなった。


 2010年にはCitizens United という団体による訴訟で、企業や組合が、選挙の際に候補者に直接の寄付をしなければ、選挙運動のために使える金額は無制限であるとの最高裁の判決を勝ち取る。このことで、選挙が金で買える状態になった。


 その結果、2016年の選挙では、コーク兄弟とそのネットワークで88900万ドルの資金を提供するようになった。1972年の選挙では、200万ドル(現在の価値では約1100万ドル)の選挙資金がその高額さ故にスキャンダルになったことを考えると、今昔の感がある。


 このような活動で億万長者の側が手に入れた「利益」は大きい。例えば、様々な税制改革では、高額所得者に対する課税や課税率が下がり、例えばレーガン時代には高額所得者の税率が70パーセントから28パーセントになった。


 2012年の選挙戦では、共和党は、最も貧しい人々から厳しく税を取る、という政策を掲げた。


 [追加の項目] 政府がビジネスに関わること、特に環境面などからの規制を行うことや法人税や所得税相続税等については強く反対しているのが、コーク・ネットワークの特徴だが、政府の防衛その他の事業の契約者として、莫大な利益を上げている事実にも注目すべし。

 



何度かにわたり、もう少し詳しく『Dark Money』の中身を紹介して行きます。

 

 

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2017年2月 1日 (水)

詭弁の技法 --トランプ大統領就任演説も戦後70年総理大臣談話も駆使しています――


詭弁の技法

--トランプ大統領就任演説も戦後70年総理大臣談話も駆使しています――

 

トランプ大統領の就任演説が不愉快だったのは、スケープゴートをでっち上げてそのスケープゴートを執拗に攻撃する破壊的かつネガティブな姿勢が、私たちの中にある「The Better Angels of Our Natureつまり私たちの中にある最善の資質と相容れないからなのだと思います

 

自然に思い出したのが、安倍晋三総理大臣が2015814日に読んだ「戦後70年総理大臣談話 (以下「談話」と略す) です。トランプ大統領の攻撃的なトーンとの比較で表現すれば「猫撫で声」のような調子でしたが、どちらにも共通していたのは、詭弁術を駆使していたことです。

 

               

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アメリカ議会で演説する安倍総理

 

 

「詭弁」については、以前御紹介した『数学で未来を予測する』 (PHPサイエンス・ワールド新書) の著者、野崎昭弘先生による『詭弁論理学』と『逆説論理学』(両方とも中公新書)が夙に有名です。楽しい本ですのでお勧めしますが、両書で取り上げられている詭弁はかなり高級です。対して、トランプ・安倍両氏の詭弁は初歩的と言っても良いレベルなのですが、社会的影響の大きさからは看過できません。

 

 

両者に共通しているのは、「不都合な真実」は隠して「自分に都合の良い」ことだけを強調していることです。つまり「全ての真実」を述べていないことです。このような考え方が大切なのは、「宣誓」という形で真実を述べる際の言葉が示しています。その点については「総理大臣も宣誓を」で触れていますので、お読み下さい。

 

何を隠しているのかの説明をする上で、アメリカの場合には背景の説明をより詳しくしなくてはなりませんので、先ずは「談話」から、いくつかの具体例を取り上げたいと思います。

 

「具体的」を強調するために、その典型である「数字」に注目したいと思います。客観性という点からも大切です。

 

「談話」中には4つの数字が使われています。第一次世界大戦における戦死者数1,000万人。先の大戦中に亡くなった日本人300万余。600万人を超える引揚者数。中国残留孤児約3,000人です。

 

さて、この「談話」が、戦後70年という節目に出されたことは、先の大戦、つまり第二次世界大戦が基本テーマです。でも、第一次世界大戦の戦死者数については1000万人という数字が挙げられているにもかかわらず、第二次世界大戦における総犠牲者数や戦死者数には全く言及がありません。

 

改めておさらいしておくと、全世界では、5,000万から8,000万の人が亡くなっていますし、国別ではソ連が一番多くて2,600万以上と言われています。中国も1,000万から2,000万と言われています。ナチスドイツが600万から900万、ホロコーストの犠牲になったユダヤ人は約600万と言われています。ある程度の不正確さはあるとしても、第二次世界大戦中の犠牲者数は、ほぼ常識になっています。

 

仮に第一次世界大戦まで遡る必要があったとしても、第二次世界大戦における戦死者数に言及しない理由はありません。これらの数字を示さずに、第一次世界大戦の戦死者数だけを掲げる意図は奈辺にあるのでしょうか。

 

一つには、世界では1,000万、日本は300万という対比から、時間枠を無視すれば、日本の被害が大きかったという印象を与えることは可能です。20世紀最後の時期に生まれた若者たちにとって、第一次世界大戦と第二次世界大戦の時間的な差はそれほど大きくはないでしょうから、「類推」によって、この数字が「先の大戦」の数字に近いと思い込んでしまう可能性まで考えてのことだとすると、その罪はさらに大きくなります。

 

また、1000万の代りに中国の犠牲者数として1,000万とか2,000万という数字が出てくれば、そのかなりの部分は対日戦での犠牲ですから、日本側の加害責任の大きさに誰でも気付いてしまうから、という理由だと考えることも可能です。さらに、日本の戦死者300万人を対比させれば、中国側の犠牲の大きさが浮き彫りになります。

 

「談話」の起草者の意図を推測したのは、第二次世界大戦における戦死者数や犠牲者数を明示的に使うことで、日本の戦争責任が「自然に」浮き彫りになることを示したかったのですが、その意図がどうであれ、第二次世界大戦をテーマにした「談話」で、第一次世界大戦の戦死者数には言及しながら、第二次世界大戦のそれを省略することは許されないはずです。

 

「談話」で使われた「詭弁」の具体例は続きます。

  

 

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コメント

第2次大戦中の中国の死者数が2000~3000万人ということは知りませんでした。

「元安川」様

コメント有り難う御座いました。第二次世界大戦中の中国の死者数は、手元の資料をそのまま写したのですが、コメントを頂いてwiki等を調べてみると、1000万から2000万という数字が標準的なようです。本文はそれに直しました。

江沢民が1998年に発表した数字は3500万ですが、これを疑問視する声もありますので、多くの資料で使われている1000万から2000万に訂正しました。

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