苦手なネクタイ売り場 ――好きな作家・阿刀田高――
いつの頃からか、ネクタイにはこだわってきました。性格もあるのでしょうが、というより全面的に性格のせいだと思いますが、好きなネクタイと嫌いなネクタイがハッキリしています。でもネクタイそのものには関心があるので、デパートに入る機会があると、ネクタイ売り場をちょっとのぞくのがルーティーンになっていました。お店によって揃えているブランドや柄に違いがあるので、その中で気に入ったものを買うこともあったからです。私の趣味にピッタリのネクタイをプレゼントとして頂いた場合、天にも昇る嬉しさだったことも良くありました。
お気に入りのネクタイ2本
でも、デパートのネクタイ売り場は苦手でした。それを、作家の阿刀田高さんが見事に書いて下さっていました。1984年発行の角川文庫『まじめ半分』中のエッセイ、「ネクタイ売り場で」です。先ずは冒頭の部分をお読み下さい。
ネクタイ売り場ではなぜかたちまち店員がまとわりつく。
「お客さまがお召しですか」
「今のお背広におあわせですか」
「どんながらをお捜しですか」
まだろくに品物を見ていないうちに矢つぎばやに質問を浴びせかけられる。
こちらとしては曖昧に、不機嫌に首を振るよりほかにない。
ここで「不機嫌に」という描写が素晴らしいのです。にもかかわらず、店員は追及を緩めないばかりでなく、「こちらは今お召しのスーツに似合うと思いますが」とか「これが今年の新柄です」といったような調子でどんどん商品を進めてきます。すべて女性店員で、若い頃の経験が多かったのですが、ちょっと年配の店員といった雰囲気でした。
それでも店員から逃れて売り場をざっと見渡すうちに、「これは良さそうだ」と思うネクタイに気付くときもあるのです。自分の趣味ですから、店員が勧めてくれたものとはかなり違うのですが、それでも気に入ったものを買い求めることもありました。
そんな時でも諦めずに、「それはお客様には派手過ぎるのでは」とか、「お召しの背広には地味すぎませんか」といった攻勢をかけてくる店員もいるから驚きでした。店員の趣味でネクタイを買おうという意図は全くありませんので、気が向いた時には、「これに似合う背広があるので」くらいの返事をした上で、店員の意向は無視して好きなネクタイを購入していました。
最近はスーツを着ることもほとんどなくなり、ジャケットを羽織ってもノーネクタイのことが多いので、ネクタイを買いにデパートに行くこともありません。苦手な店員のセールストークに付き合うこともなくなり、ストレスは一つ減ったのですが、店先のネクタイラックの中にあるたくさんのネクタイから、「これだ!」と感じる一本に出会える機会もなくなり、「プラス1」・「マイナス1」といった気分です。
[2019/5/9 イライザ]
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企業名やブランドの場合、イメージ=印象ということも大きな要素です。例えばメルセデス・ベンツの場合、欧米では「メルセデス」、日本や韓国では「ベンツ」とだけ呼ぶことが一般的で、それはベンツという名前が如何にもドイツを連想させるため、かつての欧米では印象(ドイツ=ナチス)が悪く、日本や韓国では印象(ドイツ=技術や医療の最先端)が良い、という理由ということでした。(最近は日本でもなるべくメルセデスに統一しようとしています)
Calvin Kleinは確かにアメリカの企業であり、創業者のCalvin Kleinもアメリカ生まれのアメリカ人ですが、日本のファッション業界ではアメリカよりフランスの方がイメージが良い、という意図もあって、敢えてフランス読みにしているのかも知れません。
投稿: 工場長 | 2017年9月14日 (木) 11時00分
「工場長」様
コメント有り難う御座いました。
デザインではフランスの方が格が上、という理由は十分にあり得ますね。あるいは、フランス語を齧ったことのあるワンマン社長の思い込みとか、発音の難しさ易しさに配慮したとか、可能性としてはあり得るのですが、確証がないものでしょうか。
投稿: イライザ | 2017年9月14日 (木) 22時51分
こういう場合、当事者に聞くのが一番確かだろうと、直接、と言ってもアメリカ人に聞いても仕方ないと思い、日本サイドで聞いてみました。
日本でCalvin Kleinを製造・販売しているのはオンワード樫山ですが、ブランドを管理しているのはPVHジャパンなので、そちらのカルバン・クライン担当からの回答です。
回答は「本人の発音も、アメリカで使われている発音も、カルビンよりカルバンに近かったので、当初からカルバンという表記にしており、それ以上の意図はない」ということでした。
投稿: 工場長 | 2017年9月15日 (金) 17時33分
「工場長」様
コメント有り難う御座いました。またPVHジャパンに問い合わせて下さり、有難う御座います。
YouTubeにアップされている発音から、片仮名表記だとどちらに近いのかは明らかだと思いますが、発声の段階を客観的に測ることはできても、それが耳でどう聞こえるのかの客観的なデータを取るのはかなり難しそうですので、そう言われてしまうとそれでお終いですね。
でも、片仮名表記に関わらず、英語の発音を正確に再現する努力はし続けても良いのかもしれません。
投稿: イライザ | 2017年9月16日 (土) 00時14分