『仮説実験授業――授業書<ばねと力>によるその具体化』 ――追悼 板倉聖宜先生 (3)――
『仮説実験授業――授業書<ばねと力>によるその具体化』
――追悼 板倉聖宜先生 (3)――
2018年2月7日に逝去された板倉聖宜先生のお仕事の中核をなすのが、『仮説実験授業――授業書<ばねと力>によるその具体化』(仮説社) です。普段はあまり考えないことが取り上げられているかもしれませんが、一度疑問を持つと答を知りたくなりますよね。そのスピリットでお付き合い下さい。
まずはこの本が入ってきた箱の裏に書かれている「著者のことば」です。
仮説実験授業は、広い意味での科学教育に関する一つの思想だということができます。これまでに科学と教育の両方にわたる新しい考え方を提出し、教材の組織の仕方や教育研究運動の進め方についても具体的なプランを提出してきました。科学教育を体系的
に変革しつつあるといってよいでしょう。
本書では<ばねとカ>という一つの授業書を前面に出しながら、いたるところで仮説実験授業の考え方を、細かなことについてまで具体的に論じています。〈ばねとカ〉に限らず、仮説実験授業に関心をもつすべての人によって検討されることを願っています。
さて、ここで「授業書」という耳慣れない言葉が登場しますが、これは、授業に際して生徒たちに配布される印刷物を指します。同時に先生方の「授業の指導案」の役割も果しています。この授業書に提示されている通りに授業を進めて行くことで、生徒たちは、例えば「ばねと力」についての理解をすることができ、「力」といった概念を使いこなせるようになります。それは、板倉先生に協力する形で実際の授業を行ってきた多くの先生方の報告や生徒たちの質問への答、またアンケート等から確認されています。
授業書の中心は「問題」です。「すべての生徒が一人で予想をたて、自分自身で考えて討論に参加し、実験に訴えてその真否を明らかにすることを要求するもの」と定義されています。この問題は、問題文・予想・討論・実験の4段階から成り立っています。
抽象的な説明が続いても具体的イメージが湧かないと、「仮説実験授業」の楽しさは伝わらないと思いますので、一つ、この本の中から最初の問題を見てみましょう。この前に「質問1」がありますが、スペースの都合もありますので省略します。
予想をした上で、実験をしてみると答は分りますが、ここから出発して、問題2、質問2を経て、「力の原理」に至ります。
力の原理とは
1. ものに力が加わると、その力の方向にうごきだします。
2. 反対向きの二つの力が加わっていて、一方の力が大きければ、大きな力のほうに動きだします。
3. 止まっているものに加わる二つの力が反対向きで大きさが同じならば、そのものは動きません。
この後に「例題」があって、力の原理を応用する練習ができるようになっていますが、省略します。
楽しみながら、そして実際に参加しながら学ぶことで、大きな成果が上がるようにデザインされているのが「仮説実験授業」ですが、板倉先生はその目標を次の三つにまとめています。
目標①: すべての子どもたちがそこで教育目的とされている科学上の概念・原理・法則を理解し使いこなせるようにする。
目標②: クラスのすべての子どもたちが科学とこの授業とが好きになるように、授業を組織する。
目標③: 以上のような授業がとくべつベテラン教師でなくても、授業について一通りの能力をもち、この新しい仮説実験授業の考え方を自らとり入れようとする熱意を持った教師なら、だれでも実施できるように一切の準備だてをする。
凄い目標ばかりなのですが、特に「目標③」は有り難いですね。そして、本書が書かれるまでに実施された数十の授業では、その全てが見事に達成されているという報告も付いています。しかも、単なる自画自賛ではなく、一次資料付きの評価です。
先生の著書の中で、面白そうなものが多過ぎて、その全てを読むまでにはなっていませんが、良い機会ですので、手に取ってみたいと思います。先生の御冥福をお祈り致します。
先生の著書は仮説社からお求め頂けます。アマゾンでも扱っています。それと、先生のお弟子さんのサイトだと思いますが、「板研情報局」でも役に立つ情報を読むことができます。
[2018/3/9イライザ]
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