石川教授の講演 ①憲法論の構造 ――人類の英知の蓄積――
石川教授の講演 ①憲法論の構造
――人類の英知の蓄積――
7月22日に広島弁護士会主催で開かれた講演会の報告を続けます。東京大学法学部の石川健治教授の講演は四部構成でした。
⓪ 導入
① 憲法論の構造
② 9条論の構造
③ 今日的課題
今回はその第二部です。
憲法の条文の逐条読みでは本質がつかめない。その理由は二つあって、一つは憲法の中身には多くの抽象的概念が網羅されていること、もう一つは、2000年の歴史があること。その歴史中、「国民主権」という概念は比較的新しいもので、16世紀なって現れている。
つまり憲法を読むということはギリシャ悲劇のような古典劇を読むことに比肩できる。そしてそこには人類の英知が蓄積されている。この点については、かつて青島幸男氏が都知事だったときに東京で開かれた国際憲法学会での挨拶で、素晴らしい指摘をしている。
「人間のDNAに全ての生物の歴史が刻まれているように、憲法には人類の英知の全てが詰め込まれている。」
DNA には全ての生物の歴史が刻まれている
それはその通りなのだが、憲法の制定という政治過程では、制定時点での政治状況を反映しての思惑が入ってくることも事実だ。つまり不純物も紛れ込んでいる。これはいわば偶然の所産なので、出し入れ可能な部分だ。日本国憲法には96条があって、それがこの出し入れを可能にしている。
では9条はどちらなのだろうか。このような背景を考えずに、「お試し改憲」をしようとしたり「火遊び」として改憲を考えたりする人たちに水を掛けるのも憲法学者の仕事だ。憲法の中で触って良い部分とそうでない部分とを峻別しなくてはならないということだ。
最近の問題提起の一つに、憲法の条文数が少ないという議論がある。計量系の政治学者が、憲法中の単語数を比較して日本の憲法が短いことを指摘している。一番長いのはインドの憲法だが、確かに日本国憲法は短い。それは、大日本国憲法を改正した形を取っているからで、元々の大日本国憲法が短かったということだ。
しかし、長過ぎる部分もある。刑事手続きに関する31条から40条で、全体で103条ある憲法の一割だ。これは戦前の状況が悪かったことを示している。憲法で正さないと改善できなかったということだ。
もう一つ、日本は連邦制ではないので、国と州との規定を憲法に盛り込む必要がない。これが、短いことのもう一つの理由だ。
憲法が短いので、実際の政治の場面では隙間を埋めなくてはならない場合が出てくる。解釈が必要になるということだ。例えば衆議院の解散権はどこにあるのかの明文規定はない。一行書いてあればそれで済むことなのだが、それがないので、判断を下すには統治システム全体を見なくてはならない。つまり構造的議論が必要だ。
こう見てきて分ることは、憲法は普通の法律とは違うということだ。改正するかどうかという点も含めて、普通の法律と一緒に扱ってはいけない。
次回は②9条論の構造です。
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